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初投稿です。あくまでも創作です。
マリーは子爵家の三人姉妹の真ん中で、姉ほど賢くなく、妹のように世渡りも上手くない。
手先は起用なのに、他は何かと不器用なマリーを心配した父が、急に決めてきた婚約者がノエルだった。
見合いでなく、いきなり婚約。両家の間で本人抜きで成立しており、絶対に気が合うと言う。
急だったが、父の勝手をマリーは怒こりもしなかった。だって、結論は決まっている。
初めて会う令息ノエルの外見は、マリーの好みドンピシャ。けれどマリーは、ノエルを上手く言いくるめようと思っていた。
皆で挨拶した後、希望して二人きりで向き合った。
「どうして君と婚約することになったのか、説明してくれないか?」
隠しても少しの怒りが感じられる口調で、ノエルに初めに言われたのはそれだった。
そうきましたか。
「そちらから申し込んだのでは?後で父に聞いてみます」
「僕からは絶対にない」
「私もありません」
「婚約は破棄させてほしい」
「どうぞ。お任せします。上手く破棄してください」
マリーは、その方が都合がいい。黙って待った。
ノエルは、不機嫌そうに言い放つ。
「帰る」
「ごきげんよう」
マリーは、嬉しくて満面の笑みをノエルに向けた。
その夜。
「マリーは、黙ってれば可愛いのに。婚約者と喧嘩したんだって?」
姉とはいえ酷い言い草だ。遠慮がない。
「勝手に決められて、いきなり嫌われた」
「父様は心配性だからね。ちょっと、変わり者の御子息だとは聞いたことあるけど」
「見た目は良かったんだけど」
「マリーは、本当に不器用ね」
ノエルの前では前髪さえも一緒に束ねて、化粧していた。化粧を落とし、前髪を下ろして鏡の前で長い髪を梳かしてもらうマリーは、随分と幼く見えた。
実際、ノエルはマリーより4つ歳上だと、後で聞いた。
「それでも、マリーは最高の妹よ」
「夢中になり過ぎて、変なことしなければね」
近くのソファで寝転んでいた妹の皮肉さえ、楽しい。眠る前のひと時を、三姉妹で過ごす。
「もう。気をつけるってば」
優しいお姉様。可愛い妹。
こんな日々も、もうすぐお別れだ。
本日は逆で、マリーがノエルの屋敷を訪れた。ノエルは、セセラ子爵家の子息らしいと先程知った。マリーは、婚約者に興味がない。
今日も二人ともが希望して、二人きりで向き合った。マリーは、ノエルを前にして先程から一言も話さずにいた。今日は、両親に謝罪するよう言われて来たけれど、何と言っていいか分からず黙っていた。
「何の用」
我慢できなくなったノエルが、苛立った声で聞いた。
「行けと言われたので」
「言われたから来たのか」
うむ。
「帰ります」
背が高くて、痩身。顔も好みだったんだけど。今日だって会ってくれるだけ、誠実な人なんだろう。都合よく婚約破棄してもらって、寧ろお礼を言うべきか。
マリーはこれからのことを考えて、嬉しくてノエルに笑顔を向けた。
「婚約破棄が成立しましたら、お礼を申し上げます。ごきげんよう」
マリーは、言いたいことだけ言って帰ることにした。
あれから一月。
セセラ子爵家から、婚約破棄の知らせが来るのを待っていた。
マリーには、やりたいことがある。
「お父様、もう待てないので行きます。婚約破棄は承諾のお返事をお願いします」
「気が合うと思ったんだがなぁ。安心して送り出してやりたかったんだがな」
父は、本当にマリーを心配していた。
マリーは、父の伝で隣国へ留学する。
「困ったことがあったら、手紙を書いて」
「身体に気をつけて」
姉妹は心配してくれたし、両親は承諾してくれた。マリーだって、不安がない訳では無い。でも、マリーはずっと隣国へ行ってみたかった。
馬車を乗り継いで、隣国の王都に着いた。更に数日。隣国の地方都市にたどり着いた頃には、馬車に揺られ続けた身体がおかしくなりそうだった。
母国から遠いこの街を選んだのは、父の伝があったのと母の生まれ育った所だから。
マリーは数日間、街を行き交う人々を観察し、服装も化粧も隣国風にした。
伝であった父の昔の上司は、マリーが小さな頃に何度も会ったことがあるらしい。
「君は、うちにあった硝子のランプを一度見て気に入って、来る度見せてと言ったよ。まさか、本当にここまで来るとはね」
父には、言葉を学びながら商いも学ばせて欲しいと言われているらしい。けれど、マリーは職人になりたい。
「おじさま。まだ、読み書きもままなりません。まずは、お伝えしていた工房に入れてください」
どうしても、昔見た硝子のランプをこの手で作れるようになりたい。
羽根を伸ばすといい、責任は持つからと、おじさまは工房に弟子入りすることを許してくれた。
付き添いは帰り、語学学校と工房を行き来する日々が始まった。
工房に入るまで、一悶着あった。貴族令嬢など続かないと何度も断られ、おじさまは苦労して工房に押し込んでくれた。
マリーは、知識ばかりは本を沢山読んでいた。けれど、本には熱も重さもなかった。暑い工房で時に重い道具を持って働き、文句を言われているのか励まされているのかも分からない。
母国語に置き換えることもなく、そのままの隣国の言葉を感覚で覚えながら、それでもマリーは挫ける事なく毎日を過ごした。
「マリー、大丈夫?」
「大丈夫。病気じゃない」
語学学校の友人パトリシア。彼女は、本気でマリーを心配してくれた。お互いに片言ながら、気の合った二人は早々に友達になった。
マリーは、日々痩せていた。工房で働くのは、ダイエットみたいなものだ。毎日、汗だくで動く。理由を話すとパトリシアは安心して、太るようにとおやつを分けてくれた。
半日しか学校にいないマリーと、一日中語学を学ぶパトリシア。パトリシアは、すぐに一つ上のクラスになった。それでも、二人は学校では一緒にいた。
今週末は、建国の祭が行われる。パトリシアと友人達と、マリーとで祭に行くことにした。
祭りは盛大だった。あちこちにテントが出て、懐かしい母国の白飴を買った。皆、解散した後も、マリーは店を覗いては寄り道しながら歩いていた。
ゾクリとした。
嘘。誰か鞄を引っ張ってるみたい。
目をつけられたりしないように目立たない格好で、化粧もこの国風にして気をつけていた。小娘だから、狙われたのだろうか。
マリーは鞄を引っ張り返し、抱え込んだ。
人混みから離れた方がいいのか、人混みにいた方が安全なのか分からない。
初めてのことに心臓がバクバクいって、マリーはしゃがみ込んだ。
「大丈夫?危ないよ?」
声の主を足元から見上げて、マリーは息を呑んだ。
「―――ノエル」




