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第8話

私は曲がりなりにも公爵令嬢ですから、どんな時も泰然自若としていなければなりません。

弱みを見せて、周囲にあなどられてはならないのです。

己の気の弱さをなんとかごまかすために、私は扇子をひろげてサミュエル様から目だけが見えるように顔をおおう。

扇子って、本当に便利ですわ。私の表情を隠してくれて、いつも助かっております。

キュートなお花がこぼれんばかりかに描かれたピンク色のファンシーな扇子は、持っているだけで女子力がアップした気にさせてくれる社交での武器。一押しです。

サミュエル様は、ニコリともせずに、「人目をはばかるので、どうぞこちらへ」と言って、すたすた先を進む。

えええ…。

はばからなくてよいのです。

むしろ人目のあるところでお願いしたい…。

気がのらずに、ぐずぐずとその場に留まっていると、振り返ったサミュエル様にギロリとにらみつけられ、私は仕方なく、すごすごと彼の後に続く。

不安いっぱいの私にマリリンが、「お嬢様」と言って、美しい両手で私の左手を一瞬ぎゅっと強く握った。

マリリンと二人で顔を見合わせてうなずけば、もう勇気と元気100%。

ふん。私、負けませんから!

だてに公爵令嬢じゃなくってよ?

私はサミュエル様の後を歩きながらじっくりと彼を観察する。

一応、彼は前世での私の最推しの君ですが、面白いことに現世ではちっともときめきません。

ダメ出しするとすれば、サミュエル様は近衛騎士だけあって、16歳だというのに筋肉隆々ですでに首が太いのだ。もちろん、史上最年少で近衛騎士という地位を賜ったということは大変栄誉あることで、彼も漏れなく常に人々の羨望を集めているカースト上位グループの一員である。

あ、思い出しました。そういえば前世の私の好みは、筋肉ゴリラでしたわ。

男性の首は太ければ、太いほどいいという特殊な感性を持っていた。

今となっては黒歴史ですわ。

もちろん、サミュエル様も攻略対象者なので見た目は極上の域にある。

オレンジ色した短髪は爽やかだし、透明な薄いブルーの瞳は彼の実直な意思をたたえていて、見る人に好感を与えること間違いなし。さらに薄い唇は酷薄な印象を与え、ある種の令嬢を熱狂させるに違いない。

フェロモンがむんむん香る雄でありながら、濃紺ブレザーに金のネクタイという、着こなしが難しい学園の制服を無理なく自分のものにして、ファッションのセンスも垣間見れる。モテないはずがなかろうよ。

しかし、リアム様を目にすれば全ての男はかすむしかない。

はぅ。私の婚約者はとても罪な方です。

「お嬢様、お嬢様。お気を確かに。」

マリリンが小声で私をせっつき、トリップした私を現実に引き戻す。

はぅ。

またリアム様の魅力に意識を持っていかれておりました。

マリリン、グッジョブ!

私はにっこり笑ってマリリンにウィンク一つをプレゼント。

マリリンの目からハイライトが消えた。

なぜに?

首を傾げつつ、テクテクとサミュエル様について行く。

いや、ちょっと…どこまで行くのかしら。

私、リアム様に花束を渡すという本日最大のミッションをまだ終えていないのですが…。

2年も通っているのに、一度も足を踏み入れたことのない学園のエリアを歩いている。

こんな場所があったのですね。

入学したての若造がなぜ学園の構造にこんなにも詳しいのか。

近衞騎士の特権でしょうか?

サミュエル様はどのお立場で私に御用なのかしら?

細く青白い回廊がどこまでも続き、不安がひたひたとせりあがってくる。

サミュエル様が唐突に回廊途中で立ち止まり、一見何もないように見える柱に手をかざし、呪文を唱えた。

急に立ち止まるから、びくついてしまったじゃありませんの。

私はドキドキする胸を右手で押さえる。

しばらくすると淡い黄色の光とともに、回廊に怪しげな呪文に囲まれた朽ちた木製の扉が現れる。扉は若干浮いていて、その年季の入ったおんぼろな様子はいかにも曰くありげで、呪われているようにしか見えない。

回廊の真ん中に突如姿を表した扉はそこだけぽっかりと別もので、非現実な代物だ。

その扉を慣れたように開いたサミュエル様が、私に入るように手でうながす。

この私に無言で指示ですか?

一体全体、何様ですの?

見るからに怪しげなそれにどうしても入りたくなくて、上目遣いでサミュエル様の様子をうかがうと、容赦のない苛烈な視線が返ってきた。

ひぇー。

激こわ!

美形の怒り顔にときめくのは、リアム様限定だと、私は一つ自分の新しい側面を発見する。

ええ、現実逃避ですわ…。

サミュエル様の眼光が恐ろしいので、しぶしぶ、いわくありげな秘密の部屋へ足を踏み入れる。

マリリンが私に続いて秘密の部屋に入ろうとすると、サミュエル様が「あなたは入る必要がありません」と言って、マリリンの入室を禁じた。サミュエル様に抗議しようとしたマリリンを無視して、サミュエル様はさっと部屋の中に入ると、バタンと扉を閉じてしまった。

なんたる暴挙!

「マリリン!」

私は慌てて、ドアノブに手をかけ扉を開こうとするけれど、扉は開かない。

ぴー。

う、うそでしょう?

閉じ込められましたわ…。

「密室に妙齢の男女が2人きりというのはいかがなものかと思います。」

私がきっとなって抗議をすると、サミュエル様は「誰にも気づかれなければ問題ない」と冷たく吐き捨てた。

いやいやいや…。

私、第三王子の婚約者で、権勢轟く天下の公爵令嬢ですのよ?

その威光を知りながらのこの振る舞い…。

サミュエル様は公式では実直で誠実な性格設定でしたのに…。

まさかの腹黒でしたか?

そんなギャップは求めておりません。

ええ!?

もしかしなくても、私、絶体絶命ですの!?

超怖いんですけど!

え、これ…さくっと暗殺されるやつですか?

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