心の闇。
「あまり根をおつめになられずに」
アークレフトは自らの敬愛する主が夜な夜な遅くまで月を眺めて思案していることに、困惑して。
思わずそう呟いていた。
諫めるとかそういうつもりはないのだ。
主がマリアンヌ嬢に恋をしていたのは知っていた。
もともと家柄から相応しいと父王が望んだ婚約ではあった。自分の息子にはぜひ妹の子であるマリアンヌを娶らせたいと、次代の王妃には愛するフランソワの娘を立てたいと、そう望んだのだ。
マリアンヌ嬢が猫になってしまう奇病に罹ったとの噂に猫が苦手なマクシミリアン王子には相応しくないと、これもまた王が王子に内緒で勝手に婚約破棄を通達したことが発端で。
そうとは知らされていなかったマクシミリアン王子は荒れ、そして。
どうやらマリアンヌ嬢の病気は治ったとの話ではあったが、それでも王子との復縁は成らなかった。
今度は彼女側から拒否をされているとのこと。
アークレフトにしても必死で情報を集めマクシミリアン王子のお力になれればと奔走したものの、これと言った成果はあげられなかった。
まあこれも、まことしやかに囁かれる噂の域は出ていない内容ではあったが、
彼女、マリアンヌ嬢にはすでに心に決めたお相手ができてしまったのだ、という。
それはまた、マクシミリアン王子の耳にも入り。
そして、先日の厄災竜との戦いの折。
戦いが終結したその現場に突如として現れた騎士と聖女。
彼らによって厄災竜レッドクリムゾンは倒され。
それを目撃した者達は、マクシミリアン王子がその聖女のことを「マリアンヌ」と呼んだと。そう証言した。
ああ。
自分がその場に居られなかったことが恨めしい。
後方での業務についていたアークレフトにはそれらの証言は眉唾にしか聞こえなかった。けれど。
冷静に分析すれば、それが事実なのであろうという結論以外を導き出す事は出来なかった。
(危険だ。あまりにも危険すぎる)
主が幼少の折よりお側に付き従っていた自身であればこそ判る。
ちょっとしたことで癇癪をおこしていたマクシミリアン王子の御心は未だ幼さを残している。
うわべを取り繕うことは確かにお上手になられたけれども、それでもその本質は変わってはいない。
このままではいけない。
王子は次代の王陛下となられるお方。
徳があらねばならぬ、とは言わぬが、心に闇を抱えてしまうのは魔力的にまずい、のだ。
なんとしてでもマクシミリアン王子のお心を救わねば。
アークレフトはそう窓から見える月を眺め思案し。
先日の、マリアンヌ嬢に生写しであるマリアという聖女の卵のことを思い出していた。




