黒猫ノワール。
——そうだ、よね……。俺が悪かった。君はマリアであってラギレスじゃないんだよね。
はう。
——うん。もうやめよう。このまま君に嘘を吐き続けるのは。
え? シルヴァ?
自室のベッドの上に座っているわたしの横に、ぶわんと黒猫の姿が浮かんだ。
ドラこ? ううん。ちょっと違う。ツノが無い?
「ドラこのマトリクスをちょっと借りて実体化してみた。俺の身体は此処には無いから。ああ、やっぱりねえさんみたいには行かないか」
え? 黒猫が喋ってる。
それも、シルヴァの声?
「シルヴァ、なの?」
わたしはその黒猫に向かってそう呟いた。雰囲気はなんだかそれまでのシルヴァとちょっと違う。声は今まで聴こえてたシルヴァの声だと思うけど。
でも。
「うん。ごめん。俺、このシルヴァ・メーティスに乗り移ってだけど、本当は違うんだよ……」
はい?
「俺の名前はノワール。ノワール・エレ・キシュガルド。此処とは違う、別の此処からやってきた」
「へ? 此処とは違うけど、此処、なの?」
「ああ。此処とは違う此処。同じような世界だけれど少し違う。本来のラギレスの居た場所から彼女を探しに、ね」
え? え? どういうこと?
「ある日突然俺の前から姿を消したラギレス。ううん、俺の遥香ねえさん。その彼女の痕跡を追って俺は時空を超える事に成功した。そして、辿り着いた先にいたのが君、ラギレスの魂のカケラを持つ君、マリアだったってわけ」
「んー。ラギレスってこの世界の過去に存在した大賢者、だよね?」
「ああ。その認識で間違いじゃない」
「ノワールはその過去からここに来たって事なの?」
「厳密に言うと、少し違うんだよ。この世界は、混じってるから」
はう?
「混じってるってどういう事?」
「ハクアが言ってたろ? 世界は一つじゃないって。君が居た日本だって、この世には山ほど存在するんだよ?」
えー?
「日本が? いっぱい?」
「ああ。パラレル日本。人が想うだけ世界は存在し、そして可能性があるだけその世界は在るんだ。そして極め付け。時間なんていうものはそのブレーンの上にある化学変化に過ぎないんだよ。宇宙が違えばそこにある時空も違う。まあこれはみんなラギレスからの、遥香ねえさんからの受け売りだけどね」
あう……。
「ごめん。ちょっと理解が追いつかない……」
なんだか目が回る……。オーバヒートしそう……。
人の言葉を喋るその黒猫ノワールの黒い瞳を見ていて。
わたしはなんだか目が回ってそのままベッドに倒れ伏した。




