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第八十九話 街の明かり

 第八十九話    街の明かり



 梅乃は大門の前に行き、会所の男性に話をする。

 「すみません、古峰が……」 梅乃が話すと、 「確かに出ていったな……」 会所の者は古峰が出て行ったことを話す。 三原屋は大見世であり、禿服で判断されていたようだ。



 「ありがとうございます。 それと、私は必ず戻ってくると三原屋の人に言ってください」


 そう告げて梅乃は吉原大門を出ていく。 細い道を下り、見返り柳を越すと左右に道が分かれている。


 (どっちだ……) 梅乃がキョロキョロしていると


 「お前さん、吉原から逃げてきたのかい?」 年配の女性が話しかけてきた。


 「いえ、同じ禿の子を探しにきました」 

 「子って、お前も子供じゃないか」 梅乃が説明すると、女性が切り返す。



 (むっ―) 少しカチンときた梅乃が、「これと同じ服だと思うのですが、その……」


 「それなら、アッチ行ったよ」 女性が指をさす。 

 「ありがとうございます」 梅乃は大きく礼をして走っていった。



 (元気だこと…… 何でワッチは吉原を出たんだろうね……)

 女性は吉原を出て夜鷹になってしまった。 元気で綺麗な服を着た禿を見つめ、少しの後悔を感じていく。



 (どこ? 古峰……)


 梅乃は走っていく。 吉原を出ると、その周りには小さな露店が並んでいる。 これは吉原帰りの客を相手にしている出店である。


 夜鷹も仕事をすると、出店の蕎麦をすすっては静かに帰っていく。 



 梅乃が走っていると、 「お姉ちゃん、どこに行くんだい? 俺と遊んでくれよ」 そんな声も聞こえてくる。 若い夜鷹と間違えたのであろうか、梅乃は気にせずに走っていった。



 「お婆…… お婆……」 小夜が采の部屋の前で声を掛けている。

 「なんだい? こんな時間に……」 采が目を覚まし、襖を開けると小夜が膝をついて頭を下げている。



 「小夜…… どうしたんだい?」 采が声を出すと、


 「お婆、すみません…… 古峰が……」 小夜が頭を下げながら事態を話す。



 当然ながら采が激怒すると

 「お前、それで梅乃を一人で行かせたのかい?」 采は小夜の頬を叩いた。



 「すみません すみません……」 小夜は必死に頭を下げると、

 「お前、私が何で怒っているか知っているのかい?」 采が小夜を睨む。



 「それは……古峰を勝手に行かせたことです」 小夜が泣きながら言うと、

 「どうして梅乃を一人で行かせたんだい? どうせ怒られるなら二人で行ってこい! そういう姉妹として育てたつもりだよ……」 


 采は肩を落とす。



 これには小夜も、情けなさから涙が出てきた。

 (何年、二人姉妹をやってきたんだ…… いつも梅乃は私を助けてくれたのに…… 情けないよ、私……)


 小夜は着物の裾をギュッと掴み、 「私も行ってきます! あの娘たちをお願いします!」 小夜は頭を下げ、三原屋を飛び出して行った。



 夜の街、慣れない場所で見通しも悪い。 これには梅乃も手を焼いていた。

 (ここは何処だ?) 


 町並みから裏路地に入った場所は明かりも少なく、どこか怖さを感じてしまう。


 「お前、何しているんだい―」 暗い路地から声が聞こえると、梅乃の肩がすくんでしまう。

 (なんかお婆に怒鳴られた気分になった……)


 そうして梅乃は周囲を確認しながら街を縫うように歩いていく。



 小夜は大門を通過して坂を下りていくと、

 「また禿かい……」 梅乃と話した夜鷹が小夜に話しかける。


 「すみません…… 私と同じ服を着た女の子が通りませんでしたか?」

 「さっきも同じ事を言ってきた子がいたね~ なんだい? そこの妓楼では禿の足抜けが流行っているのかい?」


 女性は同じ服の禿を三人も見たことで、驚いていると

 「足抜けじゃありませんよ。 いつか花魁になったところを見せますから……」


 「ふふふ…… 楽しみにしているよ。 アッチに行ったよ」 夜鷹が指をさすと、小夜は凄い勢いで走っていった。



 「花魁ね…… 私も夢を見たっけな」 女性は薄ら笑みをこぼし、小夜を見送った。



 それから小夜は走っていく。 (梅乃……) 



 梅乃は裏路地で酔っ払いに捕まってしまう。 「お前、どこの妓女だ? コッチ来い!」 男は梅乃の腕を掴み、連れて行こうとする。



 「やめて! 私は妓女じゃない」 梅乃の悲鳴が裏路地に響く。


 「ちょっと止めなよ。 まだ子供じゃないか」 注意する人もいるが、酔っ払いは聞かず

 「早く来いって」 男がムキになって腕を引っ張ると



 「痛っ―」 男が悲鳴をあげる。

 「大丈夫? 梅乃……」 小夜が男を棒で叩いていたのだ。


 「逃げよう!」 梅乃と小夜は、精一杯に走って逃げていく。

 「いたた……」 酔った男は追う元気がなかったようだ。



 「大丈夫?」 小夜が心配すると、 「小夜、どうしてここが……」


 「夜鷹から教えてもらったの。 そしたら、何となくコッチを探すかな~って」

 小夜が話していると、梅乃の目に涙が溢れてくる。



 「小夜…… 助けてくれてありがとう」 梅乃が小夜に抱きつくと


 (梅乃でも怖かったんだよね……) 小夜は、抱きしめながら梅乃の背中をポンポンと叩いた。



 「しかし、古峰は何処に行ったんだろう……」 梅乃と小夜が探し始めてから数時間。 街の明かりが少なくなってきた。



 梅乃と小夜は古峰から家の場所を聞いていたが、吉原でしか生活していない為、見知らぬ土地に困っていると



 「でも、売りに出すんだからボロの家だよね?」 梅乃が言うと、小夜が頷く。



 「街の明かりって言っても、吉原ほどじゃないよね」 小夜が外の夜景を見て笑うと

 「本当に吉原は最高だよね」 梅乃も笑う。



 「ちょっと疲れたね……」 歩きつかれた二人は、裏路地に座り込んでしまう。

 (ちょっと…… ちょっとだけ……) 梅乃と小夜は目を瞑ってしまう。

 時間が経ち、梅乃たちは眠ってしまった。



 明け方、眠っていた梅乃たちの周りが騒がしくなって目を覚ますと

 「おお 生きていたか……」 様子を見に来ていた大人たちが安心した表情を見せる。



 「あの…… 何かあったのですか?」 梅乃が訊くと、

 「なんだ、生きてて良かったよ。 てっきり死んでいるかと思ってさ……」


 大人たちが説明してくれる。 ここでは貧しい家が多く、食事も摂れない子供が数多く死んでいる場所なのだ。


 「あまり外に出ない者も多くて、どこの子か分からないのが倒れているんだよ……」 


 「そんな……」 小夜は泣き出してしまい、梅乃も渋い表情になっていく。



 「それで、私たちと同じ服を着ている子供を見かけませんでしたか? 私達と同じくらいの歳なのですが……」 梅乃が周囲の人に訊くと、誰もが首を振っていた。



 梅乃たちは歩きだし、古峰探しを再開する。 

 「もう吉原から出たくないね……」 小夜が笑うと、梅乃も同調して笑ってしまう。


 (三原屋から出ようとした小夜が こんなことを言うなんて)



 そして一時間ほど歩くと

 「お お姉ちゃんたち、どうして……?」 古峰が驚いた顔をして立っていた。


 「古峰―っ!」 二人は古峰に飛びつくと、三人は再会の涙を流す。



 「お お姉ちゃん、随分と服が汚れていない?」

 「さっき、路地裏で寝ちゃってさ……」


 そんな話をしながら歩いていると、段々と古峰の口数が少なくなっていくのに気づく。


 「この辺なの?」 梅乃が訊くと、古峰は静かに頷いた。


 「どうして分かったの?」 小夜が訊くと、 「急に古峰が話さなくなったから……」



 「こ ここなんだ……」 古峰が小さな あばら家を指さす。

 「お お父さんは酒を飲んで私を殴ってきたけど、きっと貧乏だったから苦しかったんだと思う……」 


 「行こうか……」 梅乃が古峰の背中を押すと家の中から声がする。



 「悠…… お悠なの?」 古峰の母親が驚いて声をあげると、

 「お悠……」 奥から古峰の父親の声がする。



 (悠って名前だったんだ……) 初めて聞いた名前に、梅乃と小夜は羨ましく思ってしまう。 二人は実の名前さえも知らないからだ。



 「わ 私は お悠じゃない…… み 三原屋の禿、古峰だ」 古峰は涙を流し、声を震わせている。 


 「わ 私は二人に文句を言いにきた」 これを聞き、古峰の両親は息を飲み込む。 そして古峰が息を大きく吸い込んで


 「ふ ふざけんな! そんなに家が貧しくて苦しいんだったら…… 言ってくれれば、私から吉原に行ってやったんだ! それなのに……」


 古峰が大粒の涙をこぼすと


 「すまん! お悠…… このまま帰っておいで。 借金も諦め、知らない所に逃げよう……」 父親が涙を流し、両手を広げている。



 「わ 私は吉原で花魁になるんだ。 だから、私は逃げない…… こうしてお姉ちゃんが出来て、私は幸せだから……」



 これを聞いて、梅乃と小夜も泣き出してしまう。


 「どうか、お悠をお願いいたします……」 両親が深々と頭を下げると

 「私も古峰と一緒に花魁になる小夜です。 楽しみにしていてください」


 「私は遣り手になる梅乃です」 頭を下げると、小夜と古峰の目が点になってしまう。



 こうして、啖呵を切った古峰が

 「す すっきりした…… 帰ろう、お姉ちゃん」 二人に微笑んだ。



 三人が帰ろうとすると 「お悠……」 母親の声がする。


 三人は目を合わせて頷き

 「みんな よくな~れっ!」 大きな声をあげ、ニギニギを両親の前でやってみせた。




 三人は吉原に戻っていく。 そして三原屋の前につくと


 「し 死ぬほど叩かれるよね…… ごめんね」 古峰がシュンとする。


 「三人で冒険したのだから仕方ない。 思い切り叩かれよう!」 梅乃が開き直って玄関を開けると……



 そこに采が立っていた。



 「お お お婆…… 悪いのは全て古峰なんです……」 そう言って、梅乃が古峰を前に差し出すと


 「えーっ? さっき覚悟を決めたんじゃないの?」 突然の裏切りに驚いてしまう古峰。



 「いつまで、そこにいるんだい? そんな汚い格好で…… 早く風呂に入りな! あの子らも、お前らが入らないと風呂に入れないんだよ!」


 そして、禿の六人で風呂に向かっていったのだった。




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