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「バート様、私……嬉しいです」
二人に見られている事に気づいていないティアラは更にくっついてきた。
ちょっ……
いつもより胸の開いているドレスだから、そんなにくっつかれると困る。
俺も男だから、そんなに無防備だと……
ネグリジェのティアラを思い出してしまい、頬が熱くなる。
殿下達だけではない。人にチラチラ見られているのも恥ずかしい。
(一番……!!)
余程嬉しかったのか、零れそうな笑顔を向けられる。
幸せそうに両手で腕に抱きつかれて、俺だって嬉しくないわけがない。
生温かい視線が刺さって気になるが、恥ずかしいからといって、ここで突き放す程、馬鹿じゃない。
だって、こんなに喜んでいるんだ……
(バート様、大好きです!)
「俺も……」
心の声にうっかり答えてしまってから、ハッとする。
いけない。つい……
ティアラは一瞬、驚いた顔をしていたが、すぐに『嬉しいです』の返事だと思ったのか、ゆるゆるな笑顔になった。
もー。可愛くて、困るんだけど。
(もう一回キスしたいな。帰り際とかにしてくれるかしら。また、さっきの顔、見たい……)
……俺はさっき、どんな顔をしていたんだ。
聞こえてきた声に照れてしまう。
ここで赤くなったりしたら変だぞ。何か違う事を考えて──
「ティー!」
ようやく助け舟が入った。
声の方を向く。
「アイザックお兄様! 来てくれたのね。お仕事は大丈夫だったの?」
ティアラの二番目の兄だ。若いながら剣の腕に優れていて、騎士団副長を務めている。
「可愛い妹の誕生日だ。都合つけるに決まってる。ギルバートも久し振り。相変わらず格好良いね」
笑顔の中に鋭く目が光る。
(またイチャイチャしていたな。悔しい! 俺の可愛い妹がすっかり恋する乙女みたいになっちゃって……昔は『にいさまにいさま』って俺の後を付いてきていたのに! ……お? カフスがダークブルーだ。留具もか……? なんだ。クールな振りして、こういう事もできるのか。ティー、喜んだだろうな……ギルバートにベタ惚れだし。あぁ、だから今日のティーはこんなに嬉しそうで幸せそうなのか。く……兄は応援しているぞ。幸せになれよ……)
兄というよりは父親寄りで、直接何かを言われた事は一度もないが、だいぶブラコンを拗らせた人である。




