表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
肖像画の佳人  作者: 涼華
8/8

エピローグ


「どうだい。ピエール。この話、どう思う?」


金髪碧眼のいかにも貴族的な顔立ちの青年が声をかけた。


「そうだなあ。」


ピエールと呼ばれた青年は、ソファーから起きあがると、部屋を歩き出した。部屋といってもかなり広く、ホールといってもいいそこには肖像画が何枚も掲げられていた。その肖像画を見ながら、ピエールは、少し考えていたようだが、おもむろに口を開いた。


「甘ったるいな。変に史実っぽいところが中途半端だ。それに、ミスマッチだし、悪いけど、ルドルフ。これ、受けないよ。」栗色の目がいたずらっぽく光った。


「どうしてさ。」金髪碧眼の青年は憮然としている。


「お前の処女作、けなして悪いけど、率直に言えっていったのそっちだからなあ。」ピエールは栗色の髪をかき上げた。


「だって、史実に基づいてんだぜ。このゴートベルグ城の」


「お前のご先祖様の話なら、何もよりによって、ヘルマン一世剛胆公の恋物語なんて書かなくてもいいじゃないか。他にいくらでもあるだろう?若き日の公の武勇伝とか、セシリア・ヴァルバラ姫と組んだ権謀術策の数々とか」ピエールはずけずけと言った。


「だ〜め、そんな話なら何世紀も前から書かれてるよ。だから、この意表をついた話がいいんじゃないか。中世騎士物語だよ。ロマンス小説じゃないか。」


「お前ねえ、騎士物語にはパターンがあるだろう。パターンが。」ピエールはつづけた。


「年の離れた王様と若くて綺麗な王妃様、その王妃様を慕う若い騎士。トリスタンとイゾルデみたいなお話と決まってるでしょうが。それをこの、」ピエールは1枚の肖像画を指さした。


黒い鎧に身を包んだ壮年の武人の姿が描かれている。


「ヘルマン一世と」さらにその隣の絵を指さした。


「この少女のような姫君との恋だなんて。確かに綺麗な姫君だけど、あの公とねえ。」


ピエールは笑い出した。


「だめかなあ。」ルドルフは頭を抱えている。ピエールは気の毒になったのか、こう付け加えた。


「もっと濃厚なラヴシーンをたっぷり書くんだよ。それならうけるよ。」


「僕はポルノを書きたいんじゃない。」ルドルフはいよいよふくれっ面になった。


「でも、ヘルマン一世とこの姫君もどう思ってるだろうね。直系の子孫が自分達のことを書こうとしてるなんて知ったら。」


「僕は、ヘルマン一世の直系じゃないよ。」


「だって、君はゴートベルグ大公家の直系で、ここゴートベルグ城のご当主様じゃないか。」


「ヘルマン一世に子供はいなかった。甥のカール王子を跡継ぎにしてセシリア・ヴァルバラ姫の従姉妹にあたるヴェルツェン侯爵家のアンヌ・マリーエ姫と結婚させた。その長男がカール・シュテファン一世、僕の直系のご先祖様なんだ。」ルドルフは説明した。


「カール王子は?」


「彼も25ぐらいで亡くなってるよ。まあ、そのあいだに、アンヌ・マリーエ姫との間に十人も子供を作っているから、まあ、領主のつとめは果たしたことにはなるんだけどね。」

「ふーん、じゃあヘルマン一世っていくつまで生きてたんだい?」


「八十五かな。」


「その当時にしたらずいぶん長生きじゃないか。」ピエールは目を丸くした。


「そう、丈夫で長生きだったってだけでも名君だったんだ。領主が死ねば、必ず戦争になって領民はひどい目に遭うからね。ヘルマン一世はカール・シュテファン一世が成人するまで生きていてくれたんだ。」


「じゃあ、この綺麗なお姫様も、お婆ちゃんか。」


「マルガレーテ姫は若くして死んだ。」ルドルフはぽつんと言った。


「佳人薄命か・・・病気で死んだのかい?」


「よくわからないんだ。船が遭難したらしい。」


「何で船に乗ったんだろう?」


「さあなあ。」


「もしかして、駆け落ち?それで、剛胆公が怒って姫を殺したとか?」ピエールがふざけていった。


「止めろ!そんなこというの!」ルドルフは怒り出した。


「悪かったよ、何てったって、ここじゃあ、英雄だもんなあ。ヘルマン剛胆公は。」


「でるんだよ、この城、剛胆公の幽霊が。」ルドルフは声を潜めた。


「まさか。」


「あの肖像、そのままの姿で、マルガレーテ姫の肖像画の前に立ってるんだ。僕も小さいころ見たことがあるんだよ。」


ピエールは、一笑に付そうとして、ヘルマン一世の肖像画を見た。射すくめられるような鋭い眼光に、彼はぞっとした。


「あんまり、公の悪口を言うと、夜中、首絞められるかも知れないぜ。」ルドルフは真顔でいった。


「とにかく、公はマルガレーテ姫が亡くなってから四十年近く、ずっと独身を通したんだ。」


「それで、公の純愛物語を?でもそれだけじゃ、」


「客観的証拠に欠けるって、言いたいんだろう?ピエール。ちょっと手伝ってくれ。」


「何をするんだい?ルドルフ。」


「マルガレーテ姫の肖像画をはずすんだ。」


「雑に扱って平気なのか。これ板絵だろう?」


「だから、ピエール、お前に頼むんだ。考古学専門だろう。それに傷でも付けたら。」


「それこそ、剛胆公に祟られるな。」


二人はそっと、肖像画をはずした。ルドルフが言った。


「この絵の裏を見てみろよ。古語だけど読めるだろう。」


「ああ、え〜っと。我が・・最・・愛の・・人・・マルガレーテ・・」ピエールは読み上げた。


「剛胆公の直筆だ。筆跡鑑定もした。鑑定したら、もっと面白いことが解った。」


「どんなことだい?」


「まず、絵を戻そう。」二人は肖像画をヘルマン一世の絵の隣に戻した。


「面白いことって?」ピエールが尋ねた。


「あの筆跡は少なくとも、剛胆公が六十歳過ぎてから書かれたらしいってことさ。」


「そんなことまで解るのか?」ピエールは疑わしげに言った。


「公の署名や文書は年代ごとに城に保管してある。若い頃と老年では筆跡も違う。この筆跡は、公が七十ぐらいの頃書いたものとよく似ているんだ。多分、そのぐらいの時、この絵に書いたんだろう。ヘルマン一世は、何十年たっても、このマルガレーテ姫のことが忘れられなかったんだ。きっと、そうさ。」


そういうと、ルドルフ・フォン・ゴートベルグは、その貴婦人の肖像画に見入っていた。




ある日、友人がこんなことを話しました。


「昔々、ある小国に、高貴な身分のあるお姫様がおりました。しかし、ある時、領土問題で隣国の親子ほども離れた王といやいやながら結婚しなければならなくなり、でも、彼女には愛を誓った身分違いの騎士がいて・・・さあ、続きを書いてみて。」


とても面白そうな設定だったので、勢いで書いたのが、この「肖像画の佳人」です。

最初は、お姫様と騎士がめでたく結ばれてハッピーエンドとしたかったのですが・・・

書いていて、正義の味方が出てこないと、話がまとまらない・・・そんな設定は面白くないし;;;

駆け落ちは?二人で異国の土地で末永く幸せに・・・・

ダメダメダメ;;;花嫁に逃げられた隣国の王様が、怒り狂って攻め込んでくる;;;リーフェンシュタール公国は本当に丸焼けになるかも;;;


それじゃあ、もう、あきらめてその王様と結婚してもらうしかない;;;

お姫様なら、お市の方やエカテリーナ女帝みたいに、政略結婚は当たり前、敵国で自分の地位を確立するのも、姫君の腕の見せ所だろうし・・・


そう考えて、楽しんで書いた初めてのロマンス小説です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ