謎めいた女性と僕の4日間。
5話になります!
毎回読んでくださってありがとうございます!
「そういえば友也くん、部活は入ってるの?」
僕らは神社の敷地内にある屋台を軽く見渡し、看板が凝っていて一際目立っていた唐揚げ屋で唐揚げを買い、隣にあったお好み焼き屋で広島風お好み焼きを購入する。僕らはそのまま、向拝所の階段で座って食べることにした。
「入ってたけどもう引退したよ。もう高校3年の夏だからね」
そういえば僕が高校3年生であることを椎名さんに言うのは初めてだった。
「椎名さんは?ていうか、椎名さん高校生…だよね?」
「あぁ………うん。まぁ、そんな感じだよ。えっと、ちなみに何部だったの?」
「…写真研究部。まぁ、大した事はしてないけどね」
ふと、彼女も高校生くらいの顔立ちをしているなぁと思い出し、気になって聞いたのだが、椎名さんは何故か曖昧に答え、ズレかけた話の路線を元に戻そうとする。
まぁ、何も無理やり聞くようなことでは無いし、僕としてもそこはスルーしておこうと思う。
僕の入っていた写真研究部の活動内容としては、人を感動させるような写真の撮り方を学んだり、歴史的、またはポピュラーな場所に行って綺麗な写真を撮り、コンクールに応募する。といったようなことをしていた。
「へぇ、写真部か………。じゃあ、撮るの上手なんだろうね」
「ま、まぁ……それなりには…」
ふふ、と微笑みを浮かべた優しい瞳で椎名さんは僕を見つめてくるので、僕は耐えきれず目をそらし、しどろもどろに答えてしまう。そういう表情を向けられるとどうも落ち着かない。
「そうだ。じゃあ取ってあげようか、写真。」
「…んー…、いいや、今日は止めとくね」
微笑を浮かべている椎名さんを写真の中に収めておきたいという気持ちと、照れ隠しのような勢いで僕は彼女に提案したのだけれど、彼女は一瞬、とても嬉しそうな表情をしたのに、すぐに何か悲しい事を思い出したかのように俯く。
「…………今度、一緒に撮ろう。お祭りの、最後の日に。」
それはとても小さい声だったけれど、しっかりと相手に伝えようという彼女の勇気が聞こえてくるような声だった。
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そっか、写真部か…。
隣で黙ったままの友也くんを他所に、私は頬杖をついてしみじみと、締め付けられるような気分に浸る。
友也くんは見た目的にサッカーをしていそうだったから何も考えずに聞いてしまったけれど、写真部だったとは考えもしていなかった。
写真。それは今の私にとってあまり好ましいものではない。
以前は写真に映るのが好きで、友達同士で集まったらよく撮りあったり、SNSに載せたりしていた。けれどそれは今となっては遠い思い出。
……もう好きな事が出来なくなった時のショックは、私のココロに大きな穴を開けた。
─友也くんの思い出に、私は残れるのだろうか。
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「あれー、三尋木くん?」
座っていた僕らの近くを通りかかった2人組の女の子の1人が、ふと気付いたように声をかけてきた。
「高坂さん、奇遇だね。」
「うん、三尋木くんもお祭かぁ。1人?」
「いや、この人と一緒に来てるんだ」
「わ、ほんとだ。気付かなかったぁ。どうも、高坂奏でーす」
「椎名…葵、です」
チャームポイントであるらしい肩まで下ろした茶髪を揺らし、明るくピースしながら自己紹介している子が高坂奏。
彼女は学校でもこんなふわふわした感じで、その性格故に誰からでも話しかけやすく、いつもクラスの中心的存在でいる。
それに対して椎名さんは、言葉が身に染み込んでくるような、淑やかな口調で返事をした。
「へぇ、椎名さんっていうんだ。三尋木くん、こんな綺麗な彼女持ってたなんて知らなかったよー。これは面白くなりそうだね」
「ま、待って、僕と椎名さんはそういう関係じゃないから…」
「冗談冗談、ちょっとからかってみただけ」
くすくすと笑みを浮かべている高坂の言葉に僕は見事に翻弄されてしまった。
彼女は前からそうだ。クラスにいる時も誰かをからかって遊んでいる。僕はよく話すわけでもないし、最近は特に話していなかったから、からかわれることに対する耐性が落ちていたのだろうと勝手に仮定する。
高坂は持ち前のコミュ力で、お祭りであった出来事や楽しい話を僕らに語りかけていた。
もう充分なんじゃないか…と苦笑が溢れるくらい話した後、隣で居づらそうにしていたもう片方の子に、かなちゃん、と呼ばれ高坂は僕らに手を振り踵を返した。
「ふふ、元気な友達だね」
「あはは、ごめん…ああいう人なんだ」
苦笑気味に笑う椎名さんにつられて僕は苦笑を浮かべてしまう。
「でも、学校でも楽しそうでなによりだよ」
「まぁね、ありがと。椎名さんは学校楽しい?」
「うん?んー、まぁ楽しい…かな」
そういうと椎名さんは微笑みを浮かべ僕を見た。
「なにそれ、微妙だね」
「うん、微妙」
僕達はくすくすと微笑み合ったまま、目の前で賑やかに、煌びやかに輝いている屋台を、まるで今思い出したかのように見渡す。
この時の僕たちは、見ている景色は同じなのに、そこにいる人たちとは別の空間にいるような気がした。




