第二章 「胎動」 第十九話 「目覚めた龍」
. 「 天眼 風をみる」
第二章 「胎動」
第十九話 「目覚めた龍」
龍気にとって、「八雷陣」は、文字通り、命がけの術であった。
龍気は、以前、 お鈴に、術の名と技の仕組みだけを話し、
聞かせていた事があった。
その時お鈴は、「そんな事が出来るの、とっちゃ」と、半ば信じていなかった。
その時の龍気の心は、「嘘」をついていなかったが、お鈴にも半信半疑
だったのだ・・・。
忍びの里の広場で、龍気がお鈴に術の名をつぶやいた時、
お鈴は、「今がその時」なのだと即座に感じた。
そして、父親、龍気の言葉が、真実であった事を、お鈴は、宙に舞い、
龍気の体にしがみつきながら、雷鳴の音と同時に、感じていた・・・。
龍気が、長政の縁側で、じっとしていたのは、雷雲の流れと
風の方向を見、聞き、肌で計っていたのだ。
そして、この術は、いかに雷気(らいき、造語です)と、自分の気を合わせる
事にあった。
最後に浪人達に、話かけたのも、まだ少しの「間」があった為で、
その刻を「話す」事で「気」を合わせたのであった。
焙烙球の爆風で、舞い上がった龍気とお鈴であったが、さすがに目方が
重く、一旦、雷雲から遠ざかると、近くの山道に滑るように舞い降りた。
偶然であろうが、奇しくもその場所は、昼間に龍気が、「野犬」に
雉を放り投げた場所であった。
龍気「この場所は、確か昼間の場所・・・、そういえば、野犬の数とあの浪人共
の数が、同じじゃな・・・、 ・・・偶然であろうな・・・、
どうじゃ、お鈴、傷は?」
お鈴「うん、右目が、見えん。 多分、潰れておる。」
龍気「そうか・・、致し方無いの・・、それ以外はどうじゃ? 痛む所は無いか?」
鈴「うん、それ以外は、治るとおもう・・・、
それより、お菊さんは? 大丈夫なの?」
龍気「うむ、お鈴のおかげじゃ、お菊さんには、怪我一つ無い、心配いたすな」
お鈴「そう・・、よかった・・・・・・。」
そこまで、呟くと、張り詰めた緊張が、一気に解き放たれ、
お鈴は、すーっと、気を失ってしまった。
龍気は、そっと我が娘を支えると、自分の背負っていた「羽」をはずし、
代わりにお鈴を、背負って、お菊の待つ長政の屋敷に向かい、
静かに歩き始めた、 時折光る、雷鳴の明かりを頼りに・・・。
長政の屋敷では、「ご飯」の支度を済ませ、お菊が、
畳の上で正座をし、胸の前で、両手を合わせ、小刻みに震えながら、
つぶやいている・・・。
お菊「南無八幡大菩薩様、 どうか、どうか、お鈴ちゃんと、龍気様が、無事、
帰って来ます様に、 どうか、お願いします、 南無八幡大菩薩様、
どうか、どうか、お鈴ちゃんと、龍気様が、無事に帰って来ます様に、
どうかお願いします、 南無八幡大菩薩様、 どうか、・・・・」
もう、どれぐらい、祈願しているであろうか、お菊自身にも分からない程、
刻が過ぎていた。
頬を伝っていた涙も、乾く程、祈願していた、
表の方で、「カタリ」と、音がすると、パッと目を開けお菊は、
一目散に玄関に向かって走りだしていた。
そこには、血まみれのお鈴を背負った龍気が立っていた
お菊は、真っ先にお鈴の温もりを確かめる、
お鈴の頬に両の手を添えると、温もりを両の手に感じた。
その瞬間、お菊の乾いていた頬が、一気に濡れた。
自分が崩れ落ちそうになるのを、気丈に押さえ、龍気にお鈴の容態を
聞きながら、空いている部屋に布団を敷き、お鈴を寝かせる。
水桶に手拭いを浸し、かたく絞り、お鈴の傷口の血をぬぐう、
綺麗になった顔を見つめ、お菊は更に泣いた。
お菊「右目が・・・、どうして、こんな、むごい事を・・・。」
龍気「右目は、多分使えぬじゃろうが、 命があっただけでも、幸いじゃ、
お菊さん、わしは完全に小笠原家と敵対する事になった。
こうなってしまっては、この長政様の屋敷にお鈴を住まわせる事も
出来ぬ、それに、小笠原家からの追ってが、
またこの屋敷に襲ってくる・・・、そなたも危険に晒す事に
なるであろう」
お菊「分かりました、すぐに出かける準備をします、整い次第、
屋敷を出ましょう、親子三人と言う事で、町の旅籠にでも
泊まりましょう、さっそく準備をします」
そう言うとお菊は、手際よく、旅仕度をする、作っていた「ご飯」も、
おにぎりにして、あっと言う間に用意が整った。
龍気は、お菊が思っていた以上に、動くのを見て、感心していた。
龍気(ふむ、何であろう、この安心感は、手際の良さと早さ、頭の回転も速い、
お菊さんの違う面をみたようじゃ・・、
女は・・、いや、母は強しと言う所か・・・。)
もちろん、この時は、お菊はお鈴の母では無いが、龍気からみたら、
お鈴の母と言っても違和感が無いような感じであった。
それは、同時に自分の妻である事をも暗示していた・・・。
龍気は、もう一度お鈴を背負うと、旅の町人親子の姿に変わり、
長政の屋敷を出た。
屋敷から随分離れた時、小笠原家の家来が、長政の屋敷になだれ
込んで来た。 先頭の一人が、足元に何かを引っ掛けたと
思った瞬間、屋敷全体に仕掛けていた、「焙烙球」が一斉に爆発した。
屋敷には「油」も撒かれていた。
屋敷は、あっと言う間に燃え上がり、 飛び込んだ小笠原家の家来は、
ことごとく焼け死んだ。
小笠原家の長棟は、この事を聞くと、震え上がった、五十人の弓手を壊滅
させ、さらに屋敷に向かわせた手練も、皆殺しになったのである。
長棟「さすがというか・・・、わしは、この世で一番、怒らせては、ならぬ者を
怒らせてしまったのかも知れぬ・・・。」




