第二章 「胎動」 第七話 「しがらみ(柵)」
「天眼 風をみる」
第二章 胎動
第七話 しがらみ(柵)
龍気は、長政の屋敷の裏手で、「休んで」居たが、
そろそろ、夜明け前になってきた。
永光寺での「修行」の刻である。
龍気は、小鉄を長政の屋敷の裏に待機させ、永光寺へと向かう。
永光寺に着いた。
道願「龍気殿、お菊さんは、どうかね?」
龍気「はい、もう大丈夫のようです、 大変、お世話になりました。」
道願は、一目、龍気の顔を見ると、即座に言った。
道願「せっかくじゃが、龍気殿、 今日は、そのまま帰りなされ・・、
そのような状態では、修行にならぬ
修行は、体力、気力、どちらも充実していなければ、
意味が無い・・・、 無理をすれば、逆効果じゃ」
龍気「う、うむ、これは、大変失礼いたした・・・、
道願殿に、隠し事は出来ぬので、ありもうしたな・・。
わかりました、 今日は、休ませて頂きます、
大変失礼いたしました・・・、 御免・・。」
そこに、遅れて、玄海がやってきたが、道願は、
玄海には何も言わず、昨日の修行の続きをさせた、
玄海は、あの後十分に休んだのであろう・・・。
龍気は、永光寺を出た後、歩きながら考えた。
龍気(道願殿は、総てを解った上で、あのようにおっしゃったのであるな・・、
確かに、十分に寝ておらぬこの状態では、修行をしても
逆効果かも知れぬ、 じゃが、今回の事は、云わば人助け・・・、
お菊さんを助けねば、命を落としていたかも知れぬ、
その事が道願殿には、わかっておったから、
責められてはおらぬが・・・、
此れから先も、同じような事が起きるやも知れぬ・・・、
例えば、我が娘、お鈴が何か窮地に追いやられる
事があった時・・・、 わしは、この命をかけて、娘を守るであろう・・・、
もし、わしが、その時に命を落とすようであれば、
修行も意味が無くなる・・・。
まてよ、お鈴が「窮地」に追いやられる前に、
その事を事前に察すれば、よいのだ・・。
そう、道願殿のような、総てを悟れる力を手に入れれば、
危険を回避出来る・・。
じゃが、それには、まず修行するしかない・・・、 堂々巡りじゃな・・・。
わしが、その力を早くに、手に入れるのが、先決か・・・。
人は、「守るもの」があれば、強くなれると言うが、その一方で、
その存在が、「しがらみ」(柵)となる。
じゃが、「しがらみ」には、水の流れを弱めるために打ち付ける
杭の意味もある・・・。
お鈴が小川に流された後、 あの後、小川に「杭」を打ち込んだ、
そこに自然と「笹の葉」などが引っかかり、水の流れを弱くした。
誰かが流された時にも、そこで、引っかかるかも知れぬ。
強すぎる川の流れは、危険じゃ・・・、
また、人の強すぎる「想いの流れ」も諸刃の剣になりうる・・・。
じゃが、人を素直に信じる心、愛する心も、
人が生きる為には、必要じゃ・・・。
いかん! 考えがまとまらん!
今は、知恵を絞って、修行に専念出来るようにしなければならぬ・・。
どうする・・・、
お菊さんは、長政殿から、犬笛を授かっているゆえ、
今のように小鉄をお菊さんの傍に置いておけば、何かの時は、
わしの所に小鉄が走ってくるが、即座に命にかかわるような
火急の時は、間に合わん!
では、火急な時とは・・、野犬に襲われる時のように、
「命」を狙われる時か・・・、 あの時は、長政様が居られたから、
「刻」が、かせげたが、 お菊さん、一人の時は、どうするのじゃ・・・。
お鈴も犬笛を持っておるが、お鈴は、自分の身を守る術を、
身につけておるから、そう心配はいらぬ
あれで、中々の腕じゃからの・・・、それに忍びの仲間も沢山居る・・・。
やはり、問題は、お菊さんじゃ・・、今も、「守り」は小鉄だけじゃ・・・、
長政様から小鉄の刀を常に持ち歩くように言われておるが、
小鉄、一匹では、危険を報せぬ役が、足りぬ・・。
お菊さんを守りながら、報せる訳にはいかぬからの・・・。
小鉄は、わし以外から「餌」を受け取らぬゆえ、長政殿の屋敷に
住まわせる訳にもゆかぬ、
わし以外では・・、そうよの・・、 亡き妻以外でわの・・・、
・・・似ている、お菊さんは、妻に似ている・・・、
あの「一途な優しさ」は、そっくりじゃ・・・。
い・いかん・・。冷静になれ!
お菊さんが、忍びの里に住むとなれば、
いいのじゃが、それは、お菊さんを「こちら側」の人間とする事となる・・・。
そこまでは、言えぬ・・・。
いかんの・・・、やっぱり、考えがまとまらん・・・。)
日頃の龍気なれば、もっと冷静に「対処」出きたであろうが、
龍気は、すでに、お菊を「忍びの里の仲間」と同等にみていた・・・、
いや、それ以上かも知れぬ・・・。
その「想い」が龍気の判断を狂わせていた。
そして、いつの間にか、龍気は無意識のうちに
長政の屋敷に向かっていた。




