第一章 「旅立ち」 最終話 「旅立ちの朝」
「天眼 風をみる」
第一章 旅立ち
最終話 「旅立ちの朝」
本堂で語り合っていた三人は、途中でお菊さんが作った「夕げ」を食べ、
その後も話こんでいた。
いつしか、三人は、そのまま、本堂で寝てしまっていた・・。
まだ、日も明けぬ、薄暗い勝手場では、昨日の夜からずっと寝ずに、
お菊が「握り飯」を大量に作っている。
「お菊の感」では、「長政様の旅立ちを、見送る人が沢山来る!」
そう、感じていた。 そこで、長政に持たせる「握り飯」はもちろんだが、
その見送りに来た人にも、せめて、「握り飯」を食べてもらおうと
考えたのである。
あいにく、かまどもお釜も、一つずつしかないので、何度も、何度も、
飯を炊き、炊き上がる間は、握り飯を握りそれを、吾平に貰った、
「笹の葉」で包む。 具は、野沢菜の入った味噌である・・・。
同時に大量の湯を沸かし、「お茶」も作る。 点てるというよりも、
「作る」感じである。
お菊「今の私に出来る事をしよう・・・。」
お菊がポツリとつぶやいた・・・。
その様子を長政は、影から見ていた・・・。
長政「お菊さん、ありがとう・・・。」
長政は、両手を合わせ合掌して、お菊に向かい、深くお辞儀をした・・・・。
徐々に、東の空が明るくなり始める。
長政は、その東の空に向かい。 正座して合掌し、自分を守りし
神々に祈願する。
長政「南無観世音菩薩 親様、 南無毘沙門天大神
我が、御守護神の親様 我と我が愛する者達をお守りくだされ」
何度も、何度も、御祈願していると、なぜだか、長政の両の目から、
自然と涙が溢れてきた。
悲しいのでは、無い・・・・。
今まで、自分を支えてくれた人達の事を考えると、 感謝しても、しきれぬ
「深い想い」がある。
それに応えたいと思い、ようやく、ここまで来た。
お菊さんが、つぶやいた「今の私に出来る事をしよう」
その言葉は、今の長政も同じ気持ちである。
様々な「想い」が心の中で、幾重にも、幾重にも、入り混じっていた。
そんな時の涙なのである・・・・。
涙しながらも、「言霊」は、何度も繰り返し、発していた・・・・。
登りきった日の光をまっすぐに、見据えながら・・。
お鈴と半兵衛を先頭に忍びの里の者達が、正覚寺にやって来た。
もちろん、長政を見送る為である。
足の悪い「吾平」の姿も見える。 その他、村の者や
小笠原家の家臣の姿も見える。
「数」にして、合わせて百人程か・・・、
さっそく、お菊さんが、徹夜して作った「握り飯」と「お茶」を
皆に配り始めた。
その様子をみて、お鈴や半兵衛達、忍びの者も手伝いにまわった。
自分達の分は後回しで、まず、村人や家臣達に振舞われた。
それでも、「握り飯」は残ったので、忍びの者達も美味しく頂いた・・・。
お菊が、一晩かけて作った「握り飯」は、あっと言う間に無くなった。
「お菊の感」は、やはり、間違ってはいなかった・・・・。
その間、長政は、来てくれた全員と言葉を交わしていた。
涙もろい「吾平」などは、終始、泣きっぱなしであった。
お鈴は、最後まで、「私も行く!」の一点張りであった。
お菊は、長政に「握り飯」を持たせ、やっぱり、泣いていた。
玄海は、「旅立ちに涙は不吉じゃぞ」 と言いながら泣いていた。
龍気だけは、気丈に振舞っていたが、何やら半兵衛と話をしていた。
最後に長政は、皆にお礼を述べ、「では、行ってまいる」と一言、言い。
踵を返すと、その後は、一度も、振り返らずに一歩、一歩、
確実に歩いた。 その後姿は、「必ず、事を成し遂げる」と信念に満ちていた
様々な人との関わりの中で人は生きている。
自分が「我」を通せば、相手も「我」を通してくる。
「義」をもって接すれば、相手も「義」に応える。
人は、自分の「鏡」である。 それが人である。
誰かが言った。
「人を変える事は難しい、でも、自分が変われば、人は変わる」と・・・、
その言葉は、「真実」であって欲しいと願うばかりである・・・・。
第一章 完




