第一章 「旅立ち」 第四十一話 「はぐれ村」
「天眼 風をみる」
第一章 旅立ち
第四十一話 「はぐれ村」
長末は、 「不治の病」(ハンセン病、現在では、完治する病気)
にかかり、はぐれ村に居る。
この病に罹ったと、解った時に、長末は、自ら、「はぐれ村」に向かった。
小笠原家の家臣の中では、武士としての作法や所作を若い者に教え、
弓や槍の師範でもある。
本来なら、自分の屋敷の中で養生していても、良いのであるが、他の者に
迷惑をかけたく無いと言い、一人、死ぬ覚悟で、はぐれ村に来た・・・。
今、長末は、 長政から、貰った「手紙」を枕元に置き、
床に入り、「夢」を見ていた。
「夢」の中で、祭り囃子が聞こえる、「ドントコ、ドントコ、ドントコ、ドントコ、」
「 ピイ~ヒョロ~~、ピイ~ヒョロ、ピイ~ヒョロ~」
幼き長政が、「やぐら」の上で、嬉しそうに太鼓を叩いている。
「ドントコ、ドントコ、ドントコ、ドントコ」 その隣で、
女の子が笛を吹いている。
「ピイ~~ヒョロ、ピイ~~ヒョロ、ピイ~ヒョロ」
微笑ましい光景に、いつもは、真面目な長末も顔が、ほころんでいる。
「じい~、そちもどうじゃ、叩いてみんか、楽しいぞ」と、幼き長政が言う。
長末は、笑っている・・・。
突如、どこからか、「勝ちどき」が聞こえた。
あたりは、瞬時に「戦場」(いくさば)に変わった。
いつの間にか、長末も、 鎧、兜に身を包んでいる。
「長末、勝ち戦じゃ、ほれ、勝ちどきじゃ~~」
長政が叫ぶ、「エイ エイ オーー!」
また、勝ちどきがあがる、
長末は、「そうか、勝ったのか・・・、これで、わしも「役目」を終えた・・・・・。」
それでも、自分の名を呼ぶ声が、聞こえる・・・「長末、長末・・・、」
魂の呼びかけである・・。
「若・・、若の声じゃ・・・、」
「長末・・・長末・・、聞こえるか、わしじゃ~・・・・、」
「若・・、」 長末の意識は、少しずつ、覚醒してきた。
その時、長末の部屋に男が一人、入って来た。 「半兵衛」である。
町人の姿をしては要るが、いち早く、長末の部屋に来ていた・・・。
半兵衛「長末様、ご気分はいかがでございますかな、」
長末「そなたは、龍気の片腕、半兵衛じゃな、」
半兵衛「いかにも・・、 表に、小笠原長利様、改め、大日方長政様が、
お見えになっております。
長末様に一目、元服した姿を、 お見せしたいと、
参っております・・。
どうか、此度だけは、長政様のお心をお察しくだされ・・・。
長政「若が・・、このはぐれ村に来ておるのか・・・、名を・・、そうか、
大日向村からとったのじゃな・・、良い名じゃ・・、」
半兵衛「永光寺にて、皆に「舞」を披露された後、
千の諸人を引き連れ、
はぐれ村の入り口に来ておられます。
あの「歓声」が聞こえませぬか・・・、」
表では、長政が、「永光寺」で披露した「舞」を何度も、何度も舞っていた。
その「舞」が終わるたびに、民衆の中から、 「勝ちどき」にも似た、
歓声が沸き起こる・・・。
永光寺では、よく見えなかった者達も、「山」の斜面に駆け上がり、
場所を移動しつつ、観ている・・。
「舞」も「笛の音」と同様に、少しずつ変化していた、繰り返すうちに、
さらに、「息」が合い、永光寺で魅せたものより、その正確さと優雅さは、
増してきている・・。
民衆もそれに気がつき、「また、変わったぞ・・・」
「すごい。何故、あんなに飛べるのじゃ・・」・「き・綺麗・・・、」
と口々に感嘆の声をあげる・・。
踊るが度に進化している「舞」
それに呼応するようにあがる「勝ちどき」の声・・・。
最後の一押しを半兵衛が言う・・。
半兵衛「さ、長末殿、若がお待ちです、参りましょう・・・」
長末は、少しよろめきながら立ち、その歓声に誘われる様に、
表に向かい、歩き始めた・・・。
はぐれ村を囲う「柵」の内側には、長末と同じ病に罹っている民が,
長政の「舞」を食い入るように見ている。
長末がその民の一番前に着くと、長政の舞が良く見える・・・。
長末「お、お、お、あれは、わしの長槍じゃ、わしの「命」じゃ・・・、
な、なんと、うつくしい舞じゃ・・・、」
長末が来た時には、「舞」は、完成していた・・、
長政もお鈴も汗だくになっていたが、
舞ながら、吹きながら、二人の表情は、 涼やかに笑っていた。
最後の「構え」がピタリと決まり、また、「勝ちどき」があがる。
「これが、最後の舞だ!」
と、言わんばかりに、構えの後、右手に持っていた長槍を高々とあげる。
そこで、さらに「勝ちどき」があがる・・・。
恐らく、長政は、長末が、表に出てくるまで、「舞」を舞い続ける
覚悟であったのだろう・・・。
長政が、長末に向かって言う。
長政「長末殿、そなたのこの「命」、わしが預かる、
勝手に死ぬ事は許さん! 必ず、「薬」を見つける。
それまで、生きよ。」
そう、言いながら、右手に持っていた、「長槍」を長末に見せる。
今度は、「はぐれ村」の方から、歓声があがる、
「長政様が、薬を見つけてくれる・・、」・「ありがたい事じゃ・・・」
「お頼み申します・・、」
歓声の後は、 嗚咽がもれはじめる・・・、
「はぐれ村」の住民にとっては、「希望」だけが、生きる望みなのである・・。
最後に「烏帽子」をかぶり、長末の前に、しっかと立つ・・・。
長末には、「涙」で長政の姿が二重に見えた・・・。




