第一章 「旅立ち」 第三十二話 「元服の朝」
「天眼 風をみる」
第一章 旅立ち
第三十二話 元服の朝
「お断り」
主人公、元服の為。名を、 「小笠原 長利」改め「大日方 長政」(おびなた ながまさ)
といたします。ご了承ください。
正覚寺に朝が来た。 朝の光を受け、長政が目を覚ますと、
お菊はすでに起きているらしく、 綺麗に布団が畳んであった。
長政が身支度して、まだ酒の匂いが残る部屋に行くと、龍気が朝げの
膳の前に座っていた。 玄海はまだ寝ているようである
龍気「おはようございまする、長政殿。」
と、ちょっと、おどけた表情で一礼した。
長政「うむ、おはようでござる 龍気殿」
と、長政も同じような表情で返す。
双方が自然と微笑みあい、お互い、必要以上の事は、何も話さない・・・。
長政「なんじゃ、膳に手をつけてはおらぬではないか、せっかくの朝げじゃ、
はよう食べようぞ」
龍気「そうでございますな、頂きましょう、せっかくお菊さんが、
作ってくれたのですからの・・。」
長政「ん? お菊は、どうしたのじゃ?」
龍気「先程、お館様の屋敷に向かわれました。 何でも、春風に飾りをつけると申しましてな」
長政「春風に飾りとな?」
龍気「はい、五色の布に鈴もつけると、言っておりました。
お館様の元服の儀を少しでも、華やかにしたいと申しましてな・・、
そこで、拙者も、配下の者に場を盛り上げるように、先程、手配した所でございます。」
そこまで、言うと 龍気はかすかに、微笑んだ・・・。
長政「何か、たくらんでおるの・・・、 ま~よい、読まぬ事にいたそう、
さて、飯じゃ、食おうぞ」
膳に手をつけようとした所に、玄海がのそのそと這い出してきた。
玄海「おう、二人とも、早いな・・、 ん? 飯が出来とるの・・、
そうか、お菊さんが、作ってくれたのか・・、」
玄海がそこまで言うと、長政の顔を覗き込む・・、
長政「なんじゃ、玄海、何か言いたそうじゃの、」
玄海「い・いや、何でもないわい・・・、 さて、わしも頂こうとするかの・・。」
玄海もまた、気を使ってか、何も言わず、膳に箸をつけ始めた。
長政「仕方が無いの~、この際じゃ、はっきりと言っておこう、
「何も無かった」、これでどうじゃ」
そこまで言うと、長政も黙々と食べ始めた。 龍気と玄海は互いに顔を見合わせ、
噴出しそうになるのを、必死にこらえ、玄海などは、肩を小刻みに震わせながら、
飯をたいらげていた・・・。
長政「さて、今日の段取りじゃが、わしは、一度、屋敷に戻り、身を清めてから、
兄、長棟の所に行き、今日の元服に使う衣装を借り、父上の屋敷に向かう。
父上の屋敷で「元服の儀」を執り行うが、これは、身内だけで行う為、
そなたらに直接見ていただく訳にはいかぬ、その代わり、皆の前で「舞」を
披露しようと、思っておる」
龍気「ほう、「舞」を舞うのでございますか」
長政「うむ、町の入り口に「永光寺」と言う寺があろう、そこの本堂を借りて舞うつもりじゃ」
玄海「おう、曹洞宗の寺じゃな、じゃが、 禅寺じゃぞ、あそこは、厳しい仕来りがあって、
そんな本堂で舞えるのか?」
長政「実は、そこの雲水と知り合いになる機会があっての、この事を話したら、
住職に話をつけてくれてくれたのじゃ、 その後、わしと住職の二人で話し合い、
了解は得ておる。」
龍気「なるほど、抜かりなしでございますな・・。」
長政「永光寺の本堂は、かなり広いからの、それに、襖を取り外しておくとの事じゃから、
外からも見る事が出来る、 どれぐらいの人が集まるのか分からんが、
せっかく来てくれた客人に楽しんでもらいたいからの・・、
「舞」が終わったら、町の大通りを抜け、そのまま、「はぐれ村」に向かう、
長末に元服した姿を見てもらうのじゃ」
龍気「そうでございますな、 元は長末殿に一目見てもらいたいが為の、
此度の元服の儀でございましたな」
長政「うむ、旅から帰ってからでは、間に合わぬかも知れぬでの・・、
いや、此度の旅も「不治の病の薬」を探し出すのも目的のひとつじゃから、
必ず、間に合わせてみせる。」
龍気「永光寺に集まる刻限は、いつ頃になりましょうや?」
長政「そうじゃの~、昼の八つ(午後2時)頃になると思うが、皆に
ふれてまわれるかの?」
龍気「お任せください。 すぐにでも・・・、」
そこまで言うと、龍気は、自分の犬笛を取り出し、聞こえぬ笛を吹いた。
すぐに小鉄が飛んできて、 「待ち」の姿勢で、「命」を待つ・・、
龍気は、紙にサラサラと忍者文字を書き、小鉄の首に付いている
竹筒に入れると、小鉄に向かい、「半兵衛」と唱え、行け! と命令する。
小鉄は、脱兎のごとく走り出し、あっと言う間に見えなくなった。
龍気「後は、半兵衛が上手くやってくれます。」
長政「うむ、何時もながら、手際がいいの~、頼もしいかぎりじゃ」
玄海「おぉ~、そうじゃ、忘れておったわい、これを見てくれ、」
そう言うと、玄海は、昨日の夜に書いた、「幟」を見せた。
玄海「どうじゃ、こんな感じで」
長政「おう、これは、なかなか味があってよいの~」
玄海「永光寺で舞を披露するのであれば、まず、適当な所を探してくくり付け、
町からはぐれ村までは、わしが長政の前を、この幟を持って歩こうぞ、いいかの?」
長政「もちろんじゃ、よろしく頼む、さて、いよいよじゃの、行くか・・・、」
そう言うと、長政は腰を上げ、自分の屋敷に向かって歩き始めた・・・・。
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