0,[書き手と読み手]
『やぁどうもどうも、こんにちは。 急で申し訳ないんだけど、ひとつ質問いいかな? 君はこの世に、いくつ"物語"が存在すると思う?』
と、いきなり目の前の人物が話しかけてきた。
戸惑いながらあたりを見回すとそこは、見知らぬ場所だった。
本棚が沢山あり、そこには大量の本が並べられていた。図書館,書庫と言える様な場所だった。
一通り見回した後、話しかけてきた人物の方を向き直す。もちろん、目の前の人物にも自分は心当たりがない
仮に"彼"としよう。彼には薄い靄の様なものがかかっており、姿がよく見えない。
目をよく凝らしてみても、より一層その靄が濃くなるばかりで、彼の姿を捉えられない。
わかるとすれば帽子を被り、黒いスーツのようなもの身に纏っている、といった感じの服装をしているかもしれないということだけだった。
あくまでもシルエットによる判断ではあるが。
そんなこんなしていると彼は
『もしかしてわからないのかい?』
と、こちらの様子を伺うようにそう言った。
ここで嘘をつく理由やメリットもないため、自分は正直に「はい」と答えた。すると彼は、
『君もなんだね! 僕もわからないんだ、仲間がいてよかったよ! まぁわからないのも仕方ないよね。 この世界はとても広く、沢山の人々がいるからね! 今、この瞬間にどこかで新しい物語が生まれているかもしれないし、書物にもならず、口頭伝承もされず、この世に残らなかったものだってあるかもしれないのだからね!』
「!?」
彼は嬉々として、そう口にする。
彼の発言に驚きつつも、今の状況を整理しようと必死に頭を働かせる。
だが、そんな自分を置いて彼は話を続ける。
『ただひとつ言えることは、この世界に住む人の数だけ物語が生まれ、存在すると言うことだよ! なんならその物語を生み出してる人こそが、物語の詰まった本とも言えるのではないだろうか!!』
彼が自身の考えを熱く語り終わったところで、自分はここは一体何処なのかと尋ねた。
『此処は"現実"、夢なんかじゃあないよ。まぁ君が何を夢とし、現実とするかにもよるだろうがね。 とと、んなことはどうでもいいのだよ。 さっき僕が"人は本の様"と言ったよね。 そう、まさに此処はその"本"を保護し、管理、そして必要とあらば貸し出しもしている場所さ。 いわば図書館というわけだね』
その返答に、自分が訝しげな顔をで彼を睨んでいると、それに気がついたのか彼は、慌てて訂正した。
『大丈夫だよ! 別に人を本にしているわけではないから。 人の人生、生き方を物語として本にし、保管しているんだからね! ーーそして君は……ひとつの物語と出逢う』
先程までのおちゃらけた態度からは想像し難い真面目な口調・声で、そう言いながら彼は一冊の本を差し出してきた。
差し出された本を受け取り見てみると、かなり古いモノなのかその本は埃を被っていた。そのうえ、表紙の文字は大文字の"O"或いはただの"丸"かもしれないモノだけを残し、他は薄れて読めなくなっている。
『あっ!そうそう、此処の本は手入れがあまり行き届いてないから埃っぽいかもしれないからね! 埃で咽せない様にね、ゴホンゴホンってね……本だけに。 どうだい?面白いだろう! なんせ僕はこんせい……ってなんだいその顔は!? その冷めた目は!? ま、まぁいいだろう、君も知らない場所で気が動転していたってことだね。 うん、そういうことだ』
と、彼はそうつまらないジョークと共に埃で咽せないよう、自分を気遣ってくれた。
『おや、時間の様だね。 さあページをめくってご覧。 楽しい世界が広がっているだろう』
言われた通り自分はページをめくろうとしたが、ふと気になり、彼に最後の質問をした。
「・・・?」
『僕の名前かい? いいよ教えてあげる。 僕の名前は[・・・・・・・]だよ。 覚えておいてくれると嬉しいね。 さぁ楽しい世界へ行ってらっしゃい』
彼がそう優しく言葉を紡いだ瞬間、目の前が真っ暗になった。




