飯テロ⑩香り攻撃
実食!です。
「それじゃみんなでご馳走作りといこう!」
人数も多いことだし皆で料理をすることにした。こうすればノマディ族もレシピを覚えられるしね。是非とも村に戻った村の人達にも作ってあげて欲しい。だってうまいから!
【ビリヤニ】
材料
(マトンマサラ)
・マトン
・ヨーグルト
・生姜
・にんにく
・クミン
・ターメリック
・チリ
・クローブ
・コリアンダー
・カルダモン
・シナモン
・ナツメグ
・フライドオニオン
・バスマティライス
・ローリエ
・ローズウォーター
「まず最初にバスマティライスをよく研いで水につけておきます。30分はつけておきたいですね。そして十分に水を吸ったらこれをローリエと一緒に硬めに茹でていきます。」
「へー葉っぱと一緒に茹でるのか?」
「こうするとローリエの香りが移るんですよ。茹で時間は5分位。半茹ででかまいません。茹で終わったらしっかり水を切ってほぐしておきましょう。」
俺は茹でた米をざるに開け、しゃもじで切るようにほぐしていく。しっかり水気を切っておかないとべちゃべちゃになってしまうからね。続いて、米の水気を飛ばしている間に手際良くマトンマサラに取り掛かる。
「次はマトン…サテュロスの肉を調理していきましょう。一口大に切った肉にヨーグルト、すり下ろした生姜、にんにく、パウダー上にしたスパイスを入れてしっかり揉み込みます。」
「す、凄いいろんな種類のスパイスを使うんだな…。」
「スパイスはお好みなんですけどね。今回は香り高くしたいんでいろんなの入れてみてるですけど、正直ターメリック・コリアンダー・チリが入ってればなんとかなります。後は好きな香りなど試していって好きなブレンドを探していくといいですよ。」
「ふむ。3つならそこまで難しくないのか?」
スパイスの種類の多さに引いて、怪訝な顔をするノマディの爺さん達。しかし3つでもいいとわかると難しくないと感じたのか今度はスパイスの香りを確認し始めた。カレーのスパイスは奥が深いからハマると沼なんだけどね。
「肉にヨーグルトとスパイスを揉み込んだら味が染み込むよう一晩冷たい場所に置いておきます。」
「何!?それじゃすぐには食べられないのか…。」
わかりやすく落胆する爺さん達。
「安心してください。ここに昨日の夜付けておいたものがあります。」
料理番組風に予め漬け込んでおいたものを取り出すと、おぉ!とあちこちから声が上がる。爺さん達のリアクションを見ていると、料理番組も最初は事前に用意しておく手法、画期的だったんだろうななんて想像してしまう。いつ頃始まった手法なのかは知らないけど。
「漬け込んでおいたマト…サテュロスは油を引いたフライパンでしっかり焼いていきます。」
フライパンに入れた瞬間カレーの美味しそうな香りが立ち昇る。
「おぉこのままでもうまそうな香りじゃ…。ちょっと味見しちゃだめかのぉ?」
カレーの香りを嗅ぎ、あちこちからお腹の音が聞こえてきた。
「もちろん焼いたままでもうまいですよ。でも今回はこの肉を使って更にうまいのを作るんで我慢してください。」
「むむ…。そうか。待ちきれん、急いでつくるんじゃ!」
「気持ちはわかります。後少しなんでちゃちゃっと作っていきましょう。」
味見を我慢しながらどんどんとサテュロスマサラを焼いていく。肉が焼ければ後少しだ。
「最後はフライドオニオンを作るんですが…面倒なので事前に作っておきました。これは多めの油でこんがりするまで炒めた玉ねぎです。」
「「おぉ!」」
再び料理番組風にフライドオニオンを取り出すと、歓声が上がる。ちょっと気持ち良いな。
「この丸い、ハニワ鍋の底にフライドオニオンを敷き詰め、米、サテュロスマサラの順に交互に重ねて詰めていきます。最後にローズウォーターを振りかけ、蓋をして蒸していきます。」
「ほほう。スパイスも良い香りじゃが、更にこの花の香りの水を入れるのか。不思議な料理じゃの。」
「複雑だけどクセになる香り高い料理なんですよ。蒸し上がるのを楽しみにしていてください。」
こうしてワイワイ賑やかに料理をし、全てのハニワ鍋に米とサテュロスマサラを詰め終わった頃人族も俺達が狙った通りの位置で夕食の準備を始めた。ちょうど俺達の風下となる位置だ。風向きがよく笑い声も多少聞こえているのかチラチラとこちらに視線を送ってくるやつもいるが気づかないフリだ。こっそり人族の食事事情を伺ってみると鍋に水と米、干し肉を入れて炊いている。ザ・兵糧といった食事だ。味気なさそうではあるが、しかし量は十分ありそうだ。
「どうやらやつら、食料の備蓄には余裕がありそうじゃの。まぁ、攻め込む前だから当たり前じゃが。」
「でもあの味気なさそうな料理…うまそうな料理を見せつければ兵士達の不満は煽れそうですね。さぁ、皆!お待ちかねの【ビリヤニ】の完成だ!!」
俺の合図で一斉にハニワ鍋の蓋を開けると、湯気と共に強烈なスパイスの香りが一気に広がる。
ゴクリ。
思わず唾を飲み込むと同時に、同じような音があちこちから聞こえてくる。
「能書きはやめて、早速食べましょう!」
「「「おーーー!!!」」」
俺達は思い思いに【ビリヤニ】を皿によそい、早速口に運ぶ。
「んーーー!!!」
「うまうまうまうまうまうま。」
「これ、凄いうまいんだぞ!」
「これは…とても香りがいい。スパイスの刺激的な香りに花の爽やかな香り、複雑なのに喧嘩してなくてとても不思議…。」
「本当ねぇ。宝石っていうのも頷けるわ。」
「クル、これ好き!」
「そうだろ、そうだろ!俺もこれ好きだぞ!いっぱい食おうな!」
そう、この【ビリヤニ】はマトンのクセになる味わいがスパイスと花の香り、そしてバスマティライスの香りが相まって爆発的にうまいのだ。ミルフィーユみたいに段々に重ねて蒸しているのでぱっと見ムラがあるのだがそのムラがまた良い。濃い目の味とあっさり目の味がランダムに来るので飽きが来ないのだ。さらにバスマティライスのサラサラとした食感がスイスイ喉を通っていく。世界三大炊き込みご飯と言われているらしいが味以外の食べ心地で見てみれば世界一と言えるのではないだろうか?
「うまぁ…」
世の中には会いたすぎて震える人がいるらしいが、俺は今、旨すぎて震えている。
っていうか、いつの間にか精霊コンビが紛れ込んでいる。しかし突っ込んでいる暇はない!うかうかしてたら食べ尽くされてしまう勢いだ。
「楽、これマジでうまいな!いくらでも食えるぜ!」
「これならサテュロスも浮かばれるってぇもんよ!」
「こうなったら限界まで食ってやる!おめーらじゃんじゃん作るぜ!」
「「「「おーーー!!!」」」
ノマディ族の食いっぷりも凄まじい。作りながらがっつく様子は壮観といえる。爺さん達、口調が若干おかしくなるくらい夢中で作ったかいがあった。
キンキンキンキン!
そんな幸せ絶頂の俺達のところに、食事には似つかわしくない音が鳴り響く。振り返れば空から無数の矢が飛んできて、リアがそれを軽々となぎ払ったところだった。
「人族の奴ら、思ったより早く動き出しおって。ま、この香りじゃしょうがないのじゃがな!がはははは!」
「よし、みんな、予定通り動くのじゃ!」
素早い爺さん達の号令で俺達はさっさと撤退を始める。皿を片手に食べながら。ノマディ族は遊牧民族だからなのか移動しながら食事を取ることもあるらしく、走りながら平気で皿の料理を掻き込んでいる。なんでもノマディ族が暮らす地域では何日間にもわたり魔物の集団に追いかけられることがあり、逃げながら交代で食事睡眠をとることで逃げ続けられるようになったのだと。できないと思うが、良い子は絶対真似しちゃだめなやつだな。もちろん俺達にそんなスキルは備わっていないので俺達はそれぞれホバーボードに乗っている。目立ちたくないのだが特に俺のような魔法を使えない人は移動し続けるのは無理なので結局使うことにした。一人用にもどしてはいるが注目を浴びないことを祈るばかりだ。
矢が飛んできてからすぐに俺達はバラバラに岩場を縫って移動を開始。ハニワ鍋も勝手に自走してついてきてくれるので好きに逃げられるから楽だ。岩場を縫い、時に岩に仕込んでいた足場を使って軽々と飛び乗り岩から岩に飛び乗りながら移動。敵が岩に登ればさっさと下に降り逃げ回る。挟み撃ちにしようと狙われていよいよというときには、これまた岩に仕込んでおいた隠れ場所に入り姿を隠す。計画通り人族は逃げるに徹した俺達に大分てこずっていた。皿に、逃げ回ったおかげで一カ所から漂っていた【ビリヤニ】の香りが広範囲に漂い始め、その香りに悔しさを滲ませる人族達。香りが呼水となり追いかけてくる人族はどんどん増えていったがしっかり準備していた俺達を捕まえることはできず追いかけっこは薄暗くなるまで続いた。
「…今日のところは諦めたのかな?」
薄暗くなり、流石にそろそろ休憩しないと明日にひびいてしまうのでは?という時間帯になると追いかけてくる人族がいなくなった。みれば野営地に戻っていく後ろ姿が見える。
「流石にこんな時間じゃからな。いいかげん休むことにしたんじゃろ。」
「しかし、いい運動じゃった。これならまだまだ食えるぞ!」
「まだ食べれるんですか?爺さん達凄いですね…。」
「こんなうまい飯は初めてじゃからな!悔いが残らないようしっかり食べるぞ!」
人族が野営地に戻ったので俺達も再び付かず離れずの場所に野営地を構え宴会を始めるのだった。こちらを見て悔しそうな表情の人族に笑顔で手を振りながら。




