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ジャイアントシベット

今日はゆっくり狩りのお話。

ジャイアントシベットが生息するという川の上流付近への道のりはきっちり3日だった。魔の森に慣れているリアの移動スピードは相当早い。同行者を気遣って多少はスピードを緩めていたが、同行者はみな、なんとか付いてきていたので良いペースを維持することができたのが大きい。この話を街の人たちに話せば、え゛、3日であそこまで行ったの?無茶するねぇ、となるのだが、当の本人はひとりだったら半分ぐらいの時間でこれたのになぁ…となる。


「今回は魔物に殆ど遭遇しなかったから、ラッキーだったすね!こんなこと初めてっす!」


と冒険者のランバーさん。だが、もちろんリアが近づく前に矢で仕留めていただけである。

食材になる魔物だけ敢えて遭遇していたので、2日目の夜からは大型の魔物にも遭遇している。

リアの間引きには気付いていないが、ヴォルトさんもランバーさんもなかなかの手練れらしく、食材魔獣は主にヴォルトさんとランバーさんが倒していた。ヴォルトさんは後方支援と魔物探知が得意なのか的確に魔物の出現を知らせてくれ、ランバーさんが逃した魔物に炎系魔法を打ち込んでいく。ランバーさんは植物系が得意というだけあって大きな斧をメインの武器にしている。武器の大きさゆえにスピードはあまり速くないが、ヴォルトさんの的確な指示もあって無駄の少ない動きで確実に魔物の急所を攻撃していく。ただ何度も言うが、戦っているのは敢えて遭遇している魔物なのだが。

そんな感じであっという間にたどり着いたジャイアントシベットの生息地は、動物や魔物の気配が少ない静かな場所だった。


「どうです、静かでしょ?ジャイアントシベットが縄張りにしているからなんすよ。他の動物があまり寄り付かないんっす。」


そんなことわざわざ説明しなくてもわかるのに。この人、お喋りが好きな人なんだな。

真剣に話を聞いているようで失礼なことを考えるリア。


「近くにあまり強い気配を感じない。まだ近くにはいないようね。手分けして痕跡を探しましょう。」


2手に分かれ周辺を探索していく。足跡や糞、何かしら見つけることができれば移動ルートが推測できる。そこから罠を張ったり、待ち伏せしたりなどいろいろ対策が考えられるようになる。しかし、なかなか痕跡は見つからない。


「リア殿、こっちだ…!」


ヴォルトさんに呼ばれた先には巨大な木がそびえ立っていた。そしてそばには大きな獣の足跡も確認できた。


「きっとここはジャイアントシベットの通り道。あるいは、この木が休憩場所のひとつなのかも!」


得意げなヴォルトさんを華麗にスルーし、とっくに罠作りに取り掛かるリア。

木の付近で戦いに適した場所を探し、その場所へと誘導するべくガルの実を仕込んでおく。さらに囮として捕まえておいたギバに痺れ薬をたっぷり塗り込み縄でつないでおく。

後はジャイアントシベットが現れるまで近くに潜んでおくだけだ。

そう思い立ち上がったとき、そいつは現れた。


ぐるるるるるうる・・・・・・・・!


「しまった!隠れる前に現れた!バジット、お前は急いで隠れろ!!」

「は、はいぃぃぃ…ですだぁ…!」


バジットが茂みに滑り込んだと同時に、ドゴーン!巨大な黒い影が頭上にかかったかと思うと大型の猫が上から降り立った。


「で、でかい…!」


そーっとジャイアントシベットとの距離を取りつつ観察すれば、その魔物は優に5mはあろうかという大きさ。白と黒の毛並みは長くまるで体全体が渦を巻いているような模様。背中の毛だけ一際長くまるで馬の鬣のようだ。顔は中心から縦に半分づつ、白と黒で分かれていてどこか神秘的な雰囲気。銀色の目は真っ直ぐこちらを見つめ、口元の長く鋭い牙からはよだれがぽたりぽたりと垂れていて明らかに獲物を狙いを定めている。


「やばいっすよ!狙われてないですか!?」

「あ、慌てるな!まだおとりのギバもいるし、ガ、ガルの実だってばら撒いて…」


瞬間、ジャイアントシベットから毛針のようなものが飛んできた。スッと横にずれて軌道から外れるリア。ヴォルトさんとランバーさんも辛くも避けることができた。


「気をつけて。その針、毒がついてるわ。」

「や、やばいっす。とにかく、あの木の生えてるあたりまで距離をとるっす!」


ヴォルトさんとランバーが慎重に距離をとるべく離れていくと、リアは逆にスッと一歩前へ出る。


「猫さん、遊びましょう?」


3本の矢を掴み、牽制とばかりに同時に放つリア。そして放つと同時に回り込むように走り出す。

ジャイアントシベットは矢を尻尾でいなすと、距離を詰められないように横へ飛ぶ。

再び毛針で攻撃してくるがリアは縄付きの矢を放ち、縄を操作することで毛針の軌道に沿って矢を操作。難なく防いでしまう。毛針ではダメと判断したジャイアントシベットは大地や木を足場にランダムに飛び回り高速移動を始める。同時に体から紫の香を放つ。ジャイアントシベットの動きによりあたりに豊潤な香りが立ち込めていく。


「やばいっす!ヴォルトさん、もっと距離をとるっす!この香りを嗅いじゃうと幻影を見させられて狂っちゃうっす!リアさーん!!!早く逃げるっすっっっ!!!!!」


立ち込める香りの中心でリアは感心する。


「なるほど、香を使った戦い方というわけね。流石気品ある魔物と噂されるだけあるわ。」


エルフの国ではジャイアントシベットは戦い方が美しいと噂される魔物のひとつだった。それゆえこの戦いを楽しみにしていたリア。ポケットからデオドラントを取り出し体にかける。


「でも偶然にも匂いを消す薬を持っていたの。その攻撃は私には効きませんよ?」


念のためデオドラントを吹きかけたマスクも装着すれば、香を気にせず攻撃の手を緩めないリア。ジャイアントシベットもたまらず直接攻撃に切り替える。高速で動き続け、矢と爪の応戦。香の外で戦う様子を見守るヴォルトとランバーは見守ることしかできなくなっていた。


ドン!!!


森の中を走り回って再び巨大な木のもとに戻ってきたジャイアントシベットは、巨大な木にドロップキックすることでスピードを殺す。


「あら、もう一人いたの?」


木を背にリアと向き合うジャイアントシベット。すると木の上からもう1匹ジャイアントシベットが現れたのだ。


「や、やばいっすよ!1匹でもやばいのにもう1匹なんて…。」

「う、うむ。これはリア殿でも厳しい…。」


距離を取り隠れていたヴォルトさんとランバーも流石にこの状況に焦っていた。ジャイアントシベットを討伐できたという話はもう何十年も聞いたことがない。それほど危険と言われている魔物なのだ。そんな魔物が2匹同時など、逃げの一手しかありえない。離脱の二文字が頭をよぎってしまう。


「楽しかったけど、そろそろ捕まえた方が良さそうね。」


そういうと風魔法を体に纏い始める。そして今までとは比べ物にならない速さで走り始めるリア。風の力を利用してスピードをどんどん上げていく。その様子に焦るジャイアントシベット。

2匹同時に左右挟み込むように攻撃を仕掛けてくるが、スピードを上げたリアに当たることはない。空を切りつづける攻撃にイライラがつのっていく様子が窺えた。

その姿に口角を上げるリア。徐に縄とつながった2本の矢を取り出し、空に向かって放つ。リアに突進してくる2匹がリアの姿を見失ったと気づいた時には、リアにより軌道を変えられた矢が、縄の先の網をぐるっと巻き上げあっという間に2匹のジャイアントシベットを捉えてしまった。縄から逃れようともがくジャイアントシベットだが、もがけばもがくほど縄に仕込まれた眠り薬が目や鼻に塗り付けられていく。痛みは感じない。ガルの実も刷り込まれていて、むしろ気持ちよく眠りについていく。

そしてとうとう動かなくなってしまった。


「す、凄い…。エルフの力がこれほどまでとは…。」

「リアさんすごいっす!2匹まとめて捕まえちゃうなんて聞いたことないっす!」


興奮して駆け寄るランバーさんに気にすることなく、2匹の処理を淡々とこなすリア。眠らせたとはいえ安易に近づくのは危険である。なるべく傷をつけないよう注意しながら止めを刺していく。


「まさかこれほどまでスムーズに狩りが完了するとは。いや、流石ですリア殿。バジット、とりあえずこの二体、アイテムボックスにしまってくれないか。解体は街に帰ってからにしよう。」

「待って。」


リアは眠るジャイアントシベットの片方のお腹を丁寧に撫でていく。ナイフを取り出すとそっと刃を入れていく。深く刺しすぎないよう気をつけつつ丁寧に。すると中から3匹の赤ちゃんが出てきたのだ。3匹の元気な鳴き声に思わず目元を緩めるリア。


「この2匹は番だったんっすね。ジャイアントシベットは群れる魔物じゃないのになぜ2匹いるのか不思議だったっす。しかも出産間近だったとは…。」

「きっとこの木を寝床にしていたのね。大丈夫3匹とも元気。」


3匹のジャイアントシベットの赤ちゃんを取り上げたリアは丁寧に布で拭いていく。そして暴れないように布で包んで抱き上げる。


「リア殿、その子たちをどうするおつもりですか?」

「この子たちは私が連れていく。さぁ、街に帰りましょう。」

「なるほど…、わかりました。では後は街に帰ってからということで。」


3匹の子ジャイアントシベットを物欲しそうな目で見つめたヴォルト。しかし、それも一瞬で、帰り支度をバジットさんに指示していく。2匹のジャイアントシベットをアイテムボックスにしまうのを見届け、一行は帰路へとついた。


余談だが、帰りは半分の時間でと考えていたリア。しかし、他の者達がついていけるはずもなく、更に子ジャイアントシベットも居たのでのんびり3日かけて帰ったリアだった。

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