入国費用を稼ごう
入国審査の列の先頭で商売やったら儲かるだろうな。旅行へ行くたび感じてます。
あ、だから入国審査後にお土産屋さんが待ち構えているのか…。
4時間ほど並んだだろうか。ついに入国審査の番が回ってきた。ちなみに誰も戻ってきてはいない。
受付には体のでかいリザードマン系の男数人がかりで入国者を捌いていた。
その中の一人、モヒカン頭のリザードマンが俺の担当となったようだ。ただでさえたっぱがあるのに、モヒカンでより一層高さがでている。
「なんだお前一人か?」
「いえ仲間がいたんですが戻ってきてなくて。こだまっていう小さい子、リアっていうエルフ、エティっていう毛むくじゃらの変なの、クルっていうかわいいきのこ、見てないですか?」
「その4人ならもうとっくに入国しているぞ?」
「ええぇーいつの間に。まぁ、こだまとリアは心当たりあるが…。」
「とりあえず入国税、他国から来たものは一人500ポルト、みんなお前が払うって言って入国したから2500ポルト払ってくれ。」
「えぇ!入国にお金かかるんですか?」
「当たり前だろ。大抵の国は入国税がかかる。お前今までどうしてたんだ?」
「ドワーフの国でそんなこと言われなかったなぁ。」
「あぁあそこは金に無頓着だから忘れてたんだろう。一応あったはずだぞ?」
「さすがドワーフ…。ちなみにポルトって?リロならあるんですが。」
「ポルトはイルーヴァントの通貨さ。今のレートだと5リロで1ポルトだから、12500リロでもいいぞ。」
「い、12500リロ…?レートえぐいな。そんなに持ってないんですけど…。あの、お金が足りない場合は…?」
「それは困るな、すでに4人は入国済みなんだから少なくとも12000リロは払ってもらわないと。」
「何か商売しようかなって思ってたんで、とりあえず入国して、後で返済なんて…」
「ダメに決まってるだろ。」
「ですよねー…。しょうがない一旦出直すか。」
しぶしぶ列を外れようとしたら、入国審査官に首根っこを掴まれた。俺はエティじゃないんだから首根っこはやめていただきたい。
「そのまま返すわけないだろうが。4人分払わず逃げない保証がないからな。」
「えーでもここにいてもお金を稼げないじゃないですかー。」
「いや、どうにかここで稼げ。そして払え。」
「えーそんなぁ…。」
首根っこを掴まれた挙句、列を外され、リザードマンの横で見張られた状態に。何かしら稼ぐ方法を考えなければ逃してはくれなさそうだ。
「まいったな。急に商売と言われても…。やっぱり屋台でもやるしかないかな?でも12500リロも稼げるのだろうか。それに材料もない…。」
何を売りつければ良いのか、ヒントを求めて後ろに並ぶ列の人たちを眺めてみる。
並んでいるのは基本イルーヴァント以外の国から来た人と商人がほとんどだ。長旅だったのか疲れた様子の人も多い。中には腹をさする人、味気なさそうな干し肉をかじる人、さらに長時間並ばされているからかイラついている人も見受けられる。やはり屋台しかなさそうだ。
「お腹にたまるものと、あとイライラしている人も多いし、さっぱりストレス解消ドリンクが良さそうだな。」
メニューの方向性はなんとなく決まったが問題は材料だ。もうここは一か八か、この中にお医者様はいませんか方式だ。
「すみませーん!この中にキャベツを売っている人はいますか!?小麦粉を売る人、卵を売る人もいますかー!?」
「うちは野菜売り、キャベツだってあるよ。」
「うちの小麦は安くて上質だぜ?」
「うちの卵は鮮度が自慢さ!」
ものは試しで叫んでみれば、難なく材料を手に入れることができた。いろいろ食材を買い込んだ結果手持ちの資金はそこをついてしまったが屋台さえやればなんとかなるだろう。きっと…。
俺がこの列に並ぶ、空腹とストレスを抱えた人達のために選んだメニューは【はしまき】と【レモンスカッシュ】だ。屋台といえば…真っ先に思い出したのがお好み焼き。しかしお皿や箸といった備品が足りないのでお好み焼きを串に巻き付けた、九州中国地方の定番屋台グルメ【はしまき】にしようと思い立ったのだ。ザ・安直発想。そしてイライラをすっきりさせるには【レモンスカッシュ】。こちらもザ・安直発想だ。しかし酸っぱいものは疲れに聞くし、シュワシュワもストレスに良さそうであながち安直も悪くない。
やることが決まり、材料も手に入ったとなれば早速行動。ホバーボードに乗せていたバケツコンロとテーブルを拾げさっそく調理開始。
【はしまき】
材料
・小麦粉
・卵
・水
・出汁
・キャベツ
・天かす
・万能ネギ
・豚バラ
・マヨネーズ
・ソース
キャベツ、万能ネギを千切りにする。
小麦粉に卵、水、出汁を混ぜ、千切りにしたキャベツを入れてさっくり混ぜる。
鉄板に油をひき、豚バラを広げたらその上に楕円形に生地を広げる。生地の上に万能ネギと天かすを広げ、木の棒(割り箸)をおいて火が通って固まってきたらくるくる巻いていく。ちなみに天かすは前天ぷら作った時に残しておいたものだ。仕上げにマヨネーズとソースをかければ【はしまき】の完成だ。続いてドリンクの用意。
【レモンスカッシュ】
材料
・砂糖
・レモン汁
・はちみつ
・重曹
鍋に水、砂糖、レモン汁、はちみつを入れて加熱。少し煮詰めたら冷蔵庫に入れて冷やしておく。
コップに氷、重曹、レモン汁、冷やしておいたはちみつレモンシロップを入れて混ぜれば【レモンスカッシュ】の完成だ。
「おじちゃん、それ美味しい?すごくいい匂い…。」
後ろに並んでいた一行の中に混じっていた少年が早速【はしまき】に食いついた。ソースをかけた瞬間の鉄板で焼けるソースの匂いはある意味暴力的な匂いだから無理もない。しかもきのこのばら撒き菓子をお裾分けした一行、俺が旨いものを作るって既に知っているから尚更だ。
「あぁ、美味しいぞ!これは【はしまき】っていう俺の故郷の食べ物で、安くて美味いソウルフードのひとつなんだ。食べてみるか?」
「いいの!?食べる!!」
子供はいい宣伝になるからな。打算だだ漏れで少年に【はしまき】を渡せば、
「うまーーーーい!!!!おじちゃん、これすげーうまい!!!」
「そうか?」
「うん!お肉のカリカリしてるところも美味しいし、中はトロトロでキャベツがすっごい甘い!」
「だろだろ?もっと大声で褒めてくれてもいいんだぞ?」
「あんちゃん、その匂いたまらないな!ひとつもらえるかい?」
「まいど!」
少年の素晴らしいリアクションの甲斐あって【はしまき】が飛ぶように売れる。
「【レモンスカッシュ】もいかがですか?すっきり感たまらないですよー!」
「うわっ!シュワシュワする!!??こんなの初めてだ…でも、クセになるな!」
「本当!でも注目すべきは甘酸っぱいレモンの味ね。疲れた体に染み渡るわ!」
合わせて【レモンスカッシュ】も薦めれば、こちらも大好評で飛ぶように売れる。未知のシュワシュワ体験に驚きつつも、順調に受け入れてもらえている。
中には宿でゆっくり食べるとまとめ買いしてくれる人もいて、もはやほとんどの人が何かしら購入していってくれる状態。入国入り口での商売って半端ないわ。
「本当にいい匂いだねぇ。ここんところずっと嫌な匂いに悩まされてたから、鼻も喜んでるよ!」
「匂いに悩まされてたって、何かあったんですか?」
ソースの匂いをやたらと吸い込みながらしみじみ呟く女性客が現れ、気になって理由を聞いてみると、どうやら長旅ではろくに水浴びもできず体臭がキツくなってくるのだそうだ。
「うちは男衆が多いからねぇ。仕方がないこととはいえ、汗臭さには慣れないのよ…。」
「分かります、汗臭いのって慣れないですよね…。俺も昔部活から帰ってきたら、汗だくの体操着玄関で脱がされてたもんな。お袋、可愛い我が子の汗ですら耐えられなかったんだろう。」
懐かしい光景に思わず浸る楽。意味がわからないと首を傾げる女性客。
「ぶかつ?」
「あ、いえこっちの話です。良かったらこれ使いますか?」
俺は自作したデオドラントウォーターを差し出す。リアのアイディアでペパーミントオイルだけでなく、花の香りやレモンの香りなど何種類か作ってみた。
「これは俺が作った【デオドラントウォーター】です。消臭効果があるんで匂いがきついものに直接噴きかけてもいいですし、汗をかきやすいところに噴きかけると汗の匂いを抑えてくれるからエチケットにおすすめです。」
「へぇ、いい香りもするねぇ。この花みたいな香り好きだわ。試しに使ってみてもいい?」
「どうぞどうぞ。」
女性が自分の服に満遍なく噴きかけていく。
「本当だ、匂いが和らいだ。しかもいい香りが漂って気持ちがいいわ。ねぇ、これ私にも売ってもらえる?」
「こんなので良ければいいですけど…。」
こんな調子でちょこちょこ【デオドラントウォーター】まで売ることができた。その日一日分の長い列が無くなる頃漸く5人分の入国費用を達成することができた。入国審査官に安宿を紹介してもらい、ベッドに倒れ込み、ヘトヘトになりながらイルーヴァント初日を終えたのだった。




