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飯テロ⑥下手すりゃ甘味ひとつで国滅びる

たまには甘味オンリーのテロです。

ースズメバチの陣地ー


「姉さん…バッタが持ってきた果物、全然甘くないよ…。」

「蝶は美味しかったって言ってたのに…。」

「そんなはずは…私にも持ってきて頂戴。」


水で喉を潤していたスズメバチの女王は、泣きついてきた子供達の様子を見てバッタから支給された果物を試食する。用意されたのはスズメバチ達も大好きなよく熟れた瓢箪型の梨、いわゆる西洋梨だ。強い甘みとねっとりとした柔らかさがたまらなく美味しい。なのに、口に含んだ梨は、食感こそ食べ慣れた梨と似ているが甘味が一切感じられない。甘味が感じられないからか、寧ろざらっとした食感が不快にすら感じる。


「何なのこれ…?」

「どれ食べても全部甘くない…。全部まずいの…。」

「姉さん、これはあんまりじゃないっすか!?バッタのやつ俺たちにだけまずいの廻してる!」


見た目は美味しそうなのにどれも味がしなく、落胆する子供達に何が起こっているのかと頭を悩ませる女王。


「おめぇさん達のところもまずい飯か?うちのも全く味が感じられなかったぜ。」


そこへやってきたのは昆虫のなかでも屈強なカブトムシの男達。


「カブトムシ、あなた達のところもなの?」

「あぁ、いろいろ探りを入れてみたがどうやら、うちとおめぇさんのところだけのようだ。クワガタもミツバチもカミキリもカナブンもみんなすげーうまかったって絶賛してた。」

「蝶も美味しかったって言ってたらしいわ。ミツバチに美味しいご飯をあげてるのに私たちにまずいご飯を配るなんて…これは由々しき事態ね!」

「同感だ。そこで相談なんだが…」


まさか甘味を感じなくなったのがギムネマ茶の所為だとは露知らず、バッタが一部の種族を贔屓していると感じたスズメバチとカブトムシ達はバッタ種への協力に懐疑的になっていく。食べ物の恨みは娯楽が少ない戦場では重い。味覚テロをきっかけに昆虫族の中で生まれた小さな不信感は不穏な空気を確実に生んでいった。






一方その頃オアシス近くの桃群生地で楽達は料理の準備を始めていた。


「楽、お腹すいた。」

「クルもお腹すいた。」


クルが参加したため、お腹すいた攻撃が倍増してます。仕方ないのでさっさと作るとしますか。

今回作るのは【白桃の冷製スープ】だ。まるでフレンチみたいなメニュー。


【白桃の冷製スープ】


材料

・白桃

・じゃがいも

・コンソメ

・塩

・胡椒


作り方は野菜スープと似ている。

まずはじゃがいもを薄切りにして水にさらし、水気をよく切ったらコンソメで煮る。じゃがいもが柔らかくなったら火を止め、冷ます。

白桃を湯を沸かした鍋に数秒浸け、冷水で急冷して皮を剥く。いわゆる湯むきだ。

種を取り除いたらコンソメで煮たじゃがいもと合わせ、ミキサーで混ぜる。塩胡椒で味を整えれば完成だ。


「うまうまうま。」

「おいしい!」

「えっと、君たち食べ始めるの早くない?」


食いしん坊は放っておいて、釣り飯はできたので次は誘い飯。ここに美味しいご飯があるよって、昆虫族を呼び寄せなきゃだからね。

俺が考えたのは、甘い甘ーい【フルーツ綿菓子】だ。

綿菓子機はもちろん持ってないので自作から。缶詰や蓋つきの缶コーヒーの缶の底の方の側面に細かい穴をたくさん開ける。缶コーヒーなんてないから、もちろんこだま産の缶を使用する。蓋の部分には真ん中に紐をくくりつけるための穴を開けて長めの紐を結びつけた。これは振り回す用の紐だ。後は缶の中に砂糖を入れて缶の底から熱すれば振り回すことで細かい穴から溶けた砂糖が出てきて綿菓子になる。本当はハンドミキサー とかドリルとかモーターとか回転させるものをふたに固定し、鍋など飛び散らないような場所で回転させ、割り箸で絡めとるのだが、今回はあえてばら撒きたいからロープで振り回そうと思っている。

底を熱して砂糖を溶かさなければならないが、俺にはこだまがついている。缶を魔法で熱して貰えば振り回しても熱々、綿菓子が出続けるという寸法だ。さて、早速作っていこう。


【フルーツ綿菓子】


材料

・砂糖

・フリーズドライしたお好きな果物


砂糖にフリーズドライして粉末にした果物を混ぜる。今回はいちご、桃、りんごなど香りが強そうなものと、香りが強いということでバニラエッセンスもフリーズドライしてみた。ちなみにバニラエッセンスはバニラビーンズを発酵乾燥させて、アルコールに漬け込んでおいた自作バージョン。いつか精霊コンビを誘き出すのに使おうとこっそり作っておいたものだ。オイルとかアルコールってフリーズドライ しにくいらしいけど、我が家の魔法フリーズドライ機は難なくできました。ハイテクノロジーです。


【フルーツ綿菓子】の準備ができたら、ジャクブズに乗っていざ空へ。もちろんオアシス前には大量の【白桃の冷製スープ】も準備済みだ。なかなか【白桃の冷製スープ】から離れたがらなかったこだまとクルは、水筒に入れてあげて、リアに連行してもらった。こだまはお仕事あるんですからね?


空に上がってみると、丁度昆虫族が進軍を始めたところだったようで、一斉に街に向かって動き始めていた。俺はジャクブズでグルグル旋回してもらいながら綿菓子機の紐をグルグル回す。なんか虫笛で巨大なダンゴムシ森に返すあの娘みたいで楽しい。綿菓子が空に舞い、風に乗って漂いはじめると、次第にいい香りが広がっていく。リアに風魔法で虫達の方に風を起こしてもらいひたすら流し続ける。最初は香りの強いバニラの綿菓子。ある程度終わったら、次はいちご、桃、りんごと続ける。【白桃の冷製スープ】に夢中になっていたこだまとクルも甘い綿菓子の香りに興味津々だ。後でちゃんと作ってやるから我慢しろってなだめつつ、全ての綿菓子を流し終えるまで続けた。かなりの量流したのできっと昆虫族も気づくであろう。




ー再び昆虫軍ー


昆虫は食事を済ませた後、すぐに行動に移っていた。いつドラゴンが戻ってくるかわからない。そんな中バッタを先頭に一斉に飛び立つ昆虫。その後に真っ先に続くスズメバチとカブトムシ。その他の昆虫達は、先陣きった虫達に遠慮し、若干遅れてだが後に続いている。


「おい、女王。こっちはそろそろ離脱しようとおもうがそっちはどうする?」

「バッタと他の虫達と十分距離ができたし、私たちもそろそろね。」


スズメバチとカブトムシは、戦いに参加するのが馬鹿馬鹿しくなり、どうせならちょっと嫌がらせしつつ離脱しようと考えていた。バッタの後に敢えて続くことで、他の虫達との距離を空け、突然離脱することで援軍を妨害しようと考えていた。つまり、バッタとその後に続く虫達の間には、スズメバチとカブトムシ集団分の距離が空くというわけだ。ちょっとした意趣返しして帰ろうという魂胆だった。


「そろそろ頃合いだな。みんな!スピードダウンだ!」


先頭集団のバッタから徐々に距離が開き始める。そんな時だった。ベジ族とは別方向、オアシスの方から甘い匂いが漂い始めた。


「何かしら…前からすごく美味しそうな匂い…。」


その魅惑的な香りの発生源を見つけようとスズメバチもカブトムシも動きを止める。すると、前を進んでいたバッタ達が徐々にオアシスの方向に吸い寄せられるようになり、さらにはボトボトと落ち始める。


「おい、女王見ろ!オアシスの方から雲みたいのが漂ってきている。あれからすげぇいい匂いがするぞ!」

「本当ねぇ、あら、どうやらあの雲がバッタに絡まって落ちていっているようね。お前達ちょっと見てきなさい。でもあまり近づきすぎないようにね。」

「「「了解です、女王!」」」


部下を偵察に向かわせると、どうやら甘い雲は粘着質で、翅などに絡まると飛びづらくなってしまうようだ。しかし、すごく甘くて美味しいらしく、バッタ達は地上で夢中で雲を舐めていたそうだ。


「飛行しながらは危なさそうね。なら、風の向きを読んで、雲の飛んできた方向に進んでみましょう。きっと美味しいものが待っているわ。」

「ちげぇねえ!おめーら、雲に羽を取られないよう気をつけながらオアシス方向に移動だ!!」


こうして先頭をいくバッタ達は地上で足止め、続く虫達は方向を大きく変えて飛んでいってしまった。

こっそり様子を確認していた楽達は、胸を撫で下ろし街へと戻ることに。きっと虫達は美味しい【白桃の冷製スープ】も気にいるだろう。そうなれば、満足して帰っていくだろうし、野菜より果物派になって今後は無理してまで攻め込もうなんて考えなくなるだろう。


「楽、結局どうしてギムネマ茶は2樽分だけだったの?」

「俺のいた世界には中国っていう国があってな、昔、スープ一杯で国が滅びたっていう伝説があるんだ。」

「スープ一杯で?」

「そう、出陣前に部下に食事を振る舞った華元っていう武将がいた。しかし、うっかり御者に配るのを忘れたんだ。」

「それでどうなったの?」

「いざ出陣ってときに、その御者が『あなたは誰に羊を食べさせるか決めましたけど、今日の勝敗は俺が決めますんでッ!』って言って武将が乗る馬車だけを敵陣に突っ込ませたんだ。もちろん武将は呆気なく殺され、戦争は大敗。国が滅ぶ結果となったってわけ。」

「す、すごいね…。」

「虫全員の味覚がおかしくなったら、みんな不審がるだろう?だから、少しだけ味覚を奪うようにしたんだ。結果、スズメバチとカブトムシが裏切ったから先頭のバッタだけが綿菓子で飛べなくなった。もし、虫全部が戦う気満々で進軍してたら、他の種も綿菓子に突っ込んでいただろうね。」

「食べ物の恨みって、怖いね…。あ、楽、見て。バッタが…。」


途中バッタの群れの上を通り過ぎたのだが、地上では悲惨なありさまが展開されていた。甘い匂いに誘われたのはバッタだけではなかったのだ。大量のアリが、綿菓子に誘われ、バッタもろとも襲いかかっていた。アリは甘いものも大好きだが、もちろん雑食。バッタだって格好の餌なのだ。

今回ベジ族を襲おうとしたのは蜜や樹液、野菜を好む虫達。肉食、昆虫食な虫達も人知れず近づいてきていたのだ。スズメバチ達他の虫達は、ゆっくり進んでいたために難を逃れていたのだった。


「あちゃー、まさかこんなことになるとは。でも、悪いバッタだけの被害でよかったよ。ご冥福をお祈りいたします。」


やはり、戦術は歴史に学ぶに限りますね。

悲惨な状況に震えつつも、手を合わせておく楽。しかし、こんなことをしている暇はない。急いでドラゴン対策をしないと間に合わなくなってしまうのだ。




その頃【白桃の冷製スープ】までたどり着いた虫達は…狂喜乱舞していた。味覚も戻り念願の甘味に涙を流すスズメバチ、勝ち鬨をあげるカブトムシはもちろん、ミツバチやカミキリ、蝶やクワガタ達もスズメバチ達についてきたことで味わったことのない味覚を堪能することができた。みんなが満足に食べてもなくならないほどの量、家に持ち帰って家族に食べさせられる程の量を楽達は用意していた。虫達が少食というのもあるが…。


「こんな美味しいもの食べたらもう他のものは食べられないわ…。」

「あぁ、果物だけを食べていけたらどんなに幸せか!」


完全に果物派に転じた虫達は、料理の際に出た大量の桃の種を発見し、それぞれ持ち帰る。以降果物の自給自足にも挑戦し、後にベジタリアンならぬ、フルーツタリアンとなった虫達はスズメバチとカブトムシをリーダーとした王国を作り上げていくこととなるが、それはまた別の未来のお話である。

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