一難去って、ないのにまた一難
野菜の天敵あらわる。
街の外に急いで向かうと、丁度眠っていたはずのドラゴンが上半身を起こしていた。
「お前つえぇな!オラ達つえぇ奴の魔石欲しいからくれだぞ!」
「たわけたことをぬかすな、小さいの。くれと言われて魔石をあげるやつがどこにいる?」
「小さいのじゃないぞ!オラ、エティだぞ!」
「名前なぞどうでもいいわい。痛い思いをしたくなかったら何処かへ行くがいい。」
「どうでも良くないぞ!エティはエティだからな!お前、俺と勝負…」
「煩い奴よのう…。」
一人で勝手に騒ぐエティを久々のワシッポーンする。どっかの麦わらじゃないんだから、強いの見てワクワクするんじゃない。ドラゴンを刺激してどうする!
「何十年も起きたことがなかったのに何故…!?」
集まってきたベジ族の人たちも恐々様子を窺っている。
この国の事情に一番詳しいであろうティガルさんも初めての状況に思わず息を飲む。
「お腹一杯になって眠りこけてしまっていたようだ。ちぃとばかし長く寝てしまったようだな。また腹が減ったわい。」
「ま、まさか我々を…。」
「ん?お前らはあまりうまそうに見えないな…。ワシは肉が好きだからな。どれ、肉を探しにいくとするか。」
飛ぶためか、羽を広げようとするドラゴン。するといつの間にかドラゴンの前にスチャしたエティが盛大に賛同します。
「肉はうまいからな!オラも一緒に狩り行くぞ!」
「また煩いのが戻ってきたか…。ワシは一人でいく。邪魔だから絶対についてくるな。」
絶対なんて言っちゃったら、ついていくのがお約束なんだけどな。
「あ、あのー…質問よろしいでしょうか…?」
食べられないと分かってホッとしたのも束の間、恐る恐るティガルさんが訪ねます。
「ご飯を食べに行かれたらまたここに戻ってこられますか?」
「ここはお腹いっぱいになってうっかり眠てしまっただけの場所。ワシは寝たい時に寝たい所で寝る。だからもうここに戻ることはないだろう。」
「そ、そんな…。」
ドラゴンの足元に国を作ることで数々の脅威から逃れてきたベジ族にとってドラゴンがいなくなることは死活問題だ。ドラゴンの発言にティガルさんだけでなく、後ろのベジ族達も息を飲む。
「あのーちょっといいですか?」
「今度はなんだ?ん?お前は…人族、とも違うようだが何者だ?それによくみたらエルフも。あと…」
「楽は、料理が上手な地球人だぞ!んで、あれがこだま、その横がリア。そして俺がリーダーのエティだぞ!みんなオラの仲間だぞ!」
「……。」
「すみません、エティが煩くて…。後エティ、お前いつリーダーになったんだ?」
テンションの高いエティがドラゴンさんの周りをちょこまかと動き回り全力で存在をアピールしていく。
「かなわん…、さっさと行くとするか。」
「あ、あ、ちょっと待ってください!ドラゴンさん、肉、ここに戻ってきて食べたらもっと美味しく食べられます!是非戻ってきてください!!」
「わざわざここに戻ってきて食えというのか?肉は新鮮であればあるほど旨いんだぞ?」
「もちろん鮮度は大切ですが、ここでならいろんな美味しさが試せるんです。絶対後悔させません!肉が好きなら、いろんな肉食べ尽くしたくないですか??」
「ふむ、それは一理あるな…。」
「楽は料理がすげー旨いんだぞ!早く、肉捕まえに行くぞ!」
エティの催促にドラゴンはすごく不服そうですが、渋々飛び立っていった。エティを頭の上にのせて。ドラゴンにまで面倒臭いって思わせるって流石エティだ。
「さぁ、肉をめちゃくちゃ食わせる作戦開始だ。みんなも…」
「ティガル!!大変だ!!!昆虫の大群がこっちに向かってる!!!!」
「な゛、なんだと!!!」
肉を美味しく食べる準備に取り掛かろうとしたら、見回りに出ていたと思しきベジ族がジャクブズに乗って駆け込んできた。聞けば昆虫族とは、バッタを主とする昆虫でできた魔物で、普段はあまり群れることなく自由気ままに点在しているそうなのだが、稀に集結し爆発的な数でこの国へ攻め込むため向かってくるそうだ。所謂、蝗害ですね。
「今までは攻め込んで来ても、ドラゴンのおかげで助かっていたんだ。まさかドラゴンがいなくなった途端に動き出すとは…。終わりだ。あいつらは全てのものを食い尽くす悪魔の大群。きっとこの国は全て食べ尽くされてしまう…。」
ドラゴン問題をなんとかしようと思ったら次の問題が起こるなんて。蝗害はアフリカ大陸とかで起こるバッタの大量発生のことで、地球でも根こそぎ畑を食べ尽くしてしまう、未だ解決できていない災害だ。どのくらいの規模の虫の大群が向かっているかにもよるが、きっと家も畑も、ベジ族だって食べられてしまうかもしれない。ベジ族のピンチです。
「肉は後回しだ!兎に角情報が欲しい。こだま、リア、偵察にいくぞ!」
「楽、俺もいく!ジャクブズ用意するから待ってろ!」
バイクで移動するより断然空からのジャクブズ移動の方が早い。情報も肉も鮮度が命だから助かる。ジャグブズに飛び乗り空から偵察すると、程なくして昆虫族の陣地が見えてきた。
「凄い多いな…。」
「いや、まだまだ増えるぞ。バッタが圧倒的に多くはあるが、見ろ、種毎に別のも集まってきてる。」
「楽見て、果物を持ったバッタがいっぱいきた。」
リアが指差す方向を見ると、確かに様々な果物を運搬するバッタの集団が飛んできている。暫く見ていると、バッタはそれぞれの種の集まりに果物を配給しているようだ。魔物とはいえ、ある程度知恵は回るようで、バッタの指示のもといろいろな種が集結しているようだ。聞けば魔物の中でも上位種となると、言葉も話すし知恵も回るらしい。かくいうベジ族も上位種が集まって発展していったというルーツを持つようだ。野菜は魔物とも違う気がするが、進化の妙でしょうね。
「見たところ、戦いに協力してもらう代わりに食料を負担しているって感じか?」
「集団になることで好戦的になるのはバッタだけだからな。他の種は食べ物に釣られて参加しているだけだ。」
「ほほぅ。それは付け入りポイントだな。しかし、今回は流石に見た目が違いすぎるから潜入するわけにも行かないし、どうしたものか…。」
「楽見て、今度は樽持ったバッタが飛んでく。」
見ると2匹毎に1樽持って果物を持ってきた方向とはまた別の方向に飛んでいく。
「あれはきっと水の確保だな。あの方向の先にはオアシスがあるから。」
「なるほど。樽を持っての飛行は遅いから先回りも可能。そこがチャンスだな。一旦街に戻って、オアシスに向かうぞ。」
アルに頼んで一旦街に戻ってもらう。なにせ、いいこと思いついちゃったから。
さぁ、飯テロのお時間です。
街に戻った俺たちは、真っ先にあるベジ族の家にやってきていた。
「あなたがギムネマ種の方ですか?」
「そうですが…なにか御用ですか?」
ギムネマはインド南部・インドネシア・アフリカ・中国南西部などの熱帯に自生するガガイモ科の植物でお茶などにして飲まれている野草だ。実はこのギムネマ、主成分であるギムネマ酸を摂取すると、甘さを感じる細胞と甘味物質の結合が阻害されるため、摂取後1~2分で甘味を感じなくなるので、ダイエット効果に役立つと考えられていてるらしい。効果は1時間ほど。このお茶を水に仕込めば…もう飯テロというより味覚テロですね。
あれ、難攻不落の脂肪要塞に悩まされている俺にも必要なのでは…。いや、俺は美味しく痩せるんだ、絶対!
さて、味覚テロだけでは心許ないから、飯テロの準備。果物を運んでいるバッタをみてアルに聞いてみたら、オアシスの方向には丁度桃が生育している場所があるらしい。というわけで、桃を使ったうまい料理でこの戦いをやめさせようと思う。野菜もちょっと使うけど、できれば野菜以外で虫たちの注意を引きたいから、果物を使った料理で。野菜の美味しさに味を占めたら元も子もないからね。
さぁ、オアシスに向かいますか!とジャクブズに必要な材料を載せていたら、クルが俺によじ登ってきた。
「甘いのクルも食べたいからいく。」
ラクティスのスムージーで果物の甘味にハマってしまったようだ。仕方なく頭に乗せてあげる。ジャクブズに乗せたら気づいたら落ちてそうだし、もうここが一番監視しやすくていい。こだままで登ってきたので、こだまは肩車。俺、子供に好かれるタイプじゃなかったんだけどなぁ…。
そんなこんなでオアシスへひとっ飛びすると丁度バッタ達が樽に水を入れている最中だった。こっそり樽のひとつに近づきこだまの魔法でギムネマの茶を煮出してもらい、水に混ぜていく。全部には入れず、今回は2つ程ギムネマ入りを仕込みバッタが持ち帰るのを待つ。20分ほどでバッタ達は陣に戻っていった。
「ねぇ楽、なんで全部に入れなかったの?」
「それは…やってみてのお楽しみさ。さぁ、桃の生育地に移動するぞ。」




