エルフの国タルウィドゥナ
使えるものは誰でも使え。たとえ高貴な立場の人でも。
突然ですがリアが家出しました。
いや、置き手紙があるから正確には家出ではないかもしれませんが。
こだまに読んでもらうと、どうやらエルフの国が人族と戦争をしそうだと知り、いても立ってもいられず駆けつけることにしたのだと。こだまとずっと一緒にいると宣言したのに申し訳ない。迷惑かけたくないから勝手にいなくなったこと、気にしないでほしいと。そう綴られていたそうだ。
水臭くないですか?これ、絶対水臭いっていうやつですよね?人族に嫌がらせしようっていう俺たちなのに?
エルフの国はタルウィドゥナというなんとも呼びづらい名前で、大陸の中央、魔の森の入り口付近にあるらしい。比較的ワノナ、人族の国とは距離が近いそうだ。人族とは常にいがみ合ってきたが、戦争は長いことしてなかった。だが、最近になって人族が兵を集めている、攻め入ろうとしているとの情報を得て、応戦の準備に入ったそうだ。前回行った人族の町は大分辺境の地で、他の村や町との距離もあったようだが、エルフの国に攻め入ろうとしているってことは複数の町が近くにあるのだろうか?
何故こんなに詳しく分かったのかって?書いてありましたから、リアの手紙に。追ってくれと言わんばかりの10枚、大作手紙に。
と、いうわけで目下エルフの国タルウィドゥナを目指して移動中だ。
移動手段はなんと電動バイク。あのウォーキング系ドラマの激強男もバイクだったからもちろん持っていた。そしてできる男はエコを気にして電動。おかげでこっちでも使えるように。ありがとう○リル!
このメンバーなら自重しなくてもいいし、何よりリアがいないから馬車操れない!必然的にバイク移動となりました。一応街道から大分外れて目立たないルートをとっています。マイナールートでもこだまがいるから迷わないので安心です。
タルウィドゥナへの道のりは、これまた絶景の連続でした。一面広がる大地は真っ白。メキシコ北部のあのサボテンだらけの道を想像してほしい。あの見た目で、全てが白いのだ。所々に生えている草、まさにサボテンの形の背高い植物。ゴロゴロ転がる岩。遠くに見える山までもが真っ白だ。色の印象だけでいうとイタリアの白い街アルベルベッロみたいだ。一度は行ってみたいと思っていたアルベルベッロ、ここでちょっと満たされた。そして途中湖が点在していたが、水が色とりどりだった。ピンクの水の湖もあれば紫の水の湖もある。あの水、飲めるのだろうか?途中間欠泉みたいに水が飛び出す場所があったが、色とりどりの水が飛び出し、綿菓子みたいな雲を生み出していた。間欠泉の一帯には青紫色の丸い植物がびっしり生えていた。
「これって、紫キャベツじゃ…。」
生えていたのはサラダとかサンドイッチを映えさせるためによく登場する、紫キャベツだった。紫キャベツの色が染み出し、その水が間欠泉により吹き出し、雲にかわる。青紫からもたらされた雨により、美しい湖ができたのだろう。きっと酸性の土、アルカリ性の土が複雑に集まる土地なのだろう。紫キャベツの色素はリトマス試験紙みたいに、酸性アルカリ性でピンクや青に色を変えるから。原因を推測してみたら…全然ファンタジーじゃねぇ!
「まぁ、酸性アルカリ性が入り乱れてる辺りは不思議。ギリ異世界合格だな。折角だから紫キャベツ持って帰ろう。」
嬉々として紫キャベツを収穫する楽達。しかし、結構進んできたのに一向にリアに追いつかない。馬も早いと思うが、こっちは電動バイクですよ?
「リアはウィリデと出て行ったから、もう着いていると思うぞ?お菓子でお願いしてるのオラ見た!」
なんと、リア、精霊便使ったのか!崇拝しているのに足に使うなんて抜け目ない!!あと、精霊ちょろいな!
「…まぁ、久しぶりの故郷ゆっくりさせてあげるためにも、俺たちはゆっくり向かいますか。」
拍子抜けしたが、こっちは引き続きバイクで旅をすることにした。ひたすら白い大地を進み、巨大な湖にぶつかった。湖の先には巨大な森が広がっているのできっとタルウィドゥナはあそこにあるのだろう。あそこまで行くのは至難の技だが、こちらにはエティがいるので、気にせずバイクで進みます。
森前に広がる湖は青、今度は普通の水っぽい。魚もちらほら見える。バイクで進みながら暇を持て余したこだまとエティは釣り糸を垂らして釣りしてる。船を走らせながら餌を引っ張るトローリング漁法?マグロ漁船じゃないんだから…
「掛かった。」
「えぇ!!わっムズイ!引っ張られると運転ムズ過ぎるっぅっっっ!!」
必死に倒れないように堪えながらもバイクを走らせる。こだまがクィッっと釣竿を捌くと拮抗する引っ張り合いに痺れを切らしたのか巨大な魚が勢いよく湖面から飛び出した。すかさずエティが湖面を凍らせる。飛び出した勢いのまま巨大魚は湖面を滑っていき…ドンッッ!!大木にぶつかって停止した。
「な、何事だ!?」
音を聞きつけどこからともなく男達が姿を現した。みんなエルフ族のようだ。濃淡の違う茶色のポンチョを重ね着したような衣装に、首元口元を隠すようにストールのようなものを巻いている。ストールの下からはクリスタルで作ったお守りのようなものを覗かせている。人によって色が違うが、もしかして崇める精霊の違いとかかな?
「ぬわっ!?」
めちゃくちゃ矢が降ってきます。明らかに攻撃されている。
「タイムターイム!!!おーれー、人族じゃないですよー!!!!」
叫んではみたものの、矢は止まる気配がない。
「楽、お腹すいた。」
「こだま、いまちょっと手が離せないから後でねー。今攻撃受けてるでしょー?」
相変わらずのこだまを放っといて、策を練るが攻撃を止めさせる手立てが思いつかない。
「もうあれしかないか…!」
万一のために作っておいたとっておきを取り出し、
「あまーい、あまーい【ロックキャンディ】いかがっすかぁーーーー!!!???」
ピンク、青、黄色のクリスタルの結晶に棒を刺したような甘いキャンディを頭上に放り投げる。すると、やってきましたクリスタル鳥のウィリデさん。3本の【ロックキャンディ】のうち1つを空中キャッチ。あとの2本をキャッチしたのは…こだまとエティでした。
「攻撃止めーーーー!!精霊様だ!!!」
攻撃が止み、漸くバイクを停車。するとウィリデは頭の上に降り立ち【ロックキャンディ】を齧る。困った時の精霊頼み、今回も威力絶大です。
「俺にもくれ。」
いつの間にか隣にガルゥボーイも現れていて、取り損なった【ロックキャンディ】を催促しています。辺りを確認すると、こだまとエティは近くに座り込んで夢中で食べています。ガルゥボーイにもあたえつつエルフ達の方をみるとエルフ達は複雑な表情でこちらの様子を窺っている。判断を決めあぐねているようだ。因みに【ロックキャンディ】作り方は超簡単。
【ロックキャンディ】
材料
・砂糖
・水
・紫キャベツを煮出した汁
・レモン汁
・サフラン
砂糖と水を鍋で煮詰めて少しとろみがあるくらいの砂糖水を作る。竹串の半分くらい、キャンディを作りたい長さまで砂糖水で濡らし、砂糖をまぶす。
青いキャンディを作るには、砂糖水に紫キャベツの煮汁を加え、ピンクなら紫キャベツの煮汁とレモン汁、黄色はサフランの粉を少し混ぜる。
後は竹串を砂糖水の上に吊すように漬け込み数日間放置。竹串が容器の底につかないように気をつけよう。砂糖が次第に結晶化し、【ロックキャンディ】になるのだ。
紫キャベツを見つけたときに、家で仕込んでおいたものだ。
「楽?」
しばらくすると、ざわつくエルフの男達を掻き分けリアが出てきた。良かった、これで漸く話ができる。
リアに色々と説明してもらったおかげで攻撃体制が解かれ、連れ立って国の偉い人がやってきた。
「あなたが人族でないということは、リアに聞いた。しかも命の恩人だと。非礼を詫びさせてほしい。」
「いえ、俺もこんな見た目なんで…。」
「その、見た目のことなんだが…、できれば国に入るのは遠慮していただけないだろうか?」
「村長!それは…!」
「リア、いいよ。人間と戦争しようとしてるんだ、混乱を招くような事は極力避けるべきだから。」
「村長さん、国には入らないんで、外で野営してもいいですか?」
「それは構いません。湖の上で野営できるのあなた達くらいですから…。ただあと1ヶ月ぐらいで人族が攻めてくるはずなのでそれまでには離れることをお勧めします。」
「1ヶ月後ですか。なぜ時期がわかるんですか?」
「あと1ヶ月で完全に雨季が終わります。そうなれば馬でここまでくることが可能になりますから。人族は水が引くのを待っているはずです。」
そう、雨季が終われば戦いが始まる、と。
タルウィドゥナは超巨大なツリーハウス?ツリーマンション?が集合してできたような国だった。森の中ではあるが、下に広がるのは湖。しかしそれは雨季の間だけで、逆に雨季が終われば水位が下がり、地面が見えてくるそうだ。1年の半分が水の上、もう半分が陸地なのだと。そして、間も無く水が引いてしまう。それは人族と陸つながりになってしまう事を意味していた。