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飯テロ③マチュール王国ケルプ村

子供達と町の成長は早いようです。

久しぶりに町に出てみれば様子が一変していた。

というのも、王都から町に寄らず直接家に戻り、長い事籠もっていたからその変化に全く気づけなかった。じゃがいも食堂の人気に端を発し町は一大じゃがいも産地へと変貌を遂げていた。

現金なことですね。

ってか小麦蹴散らしすぎちゃいました。飯テロやばい。でも結果片栗粉なども商品として買えるように。作る手間が省けたのは良かったのかな?


孤児院に行ってみると、


「【ブランボラーク】3人前!っさっさと持ってけ!」

「【ローズポテト】10個上がり!次は!?」

「【でかニョッキ】まだか!?」

「こっち【チーズニョッキ】3人前、【トマトニョッキ】4人前、全部大盛りで!」

「【トルネード】足りなくなりそう、ちょい外れる!」

「マジか!【トマトニョッキ】は!」

「あと3分!おい、スープまだか!?」

「ったく! 俺スープやるから【トルネード】急げ!」


狂気じみた勢いで働いていた。子供達のキャラはあれであってるのでしょうか?

触らぬ神に祟りなし。

そっと後にしておこう。


それにしても、メニュー増えてたな。

【でかニョッキ】、チラッとみたけど小籠包?って感じの皿だった。

チャレンジし続けなければ成功はない。このまま頑張って欲しい。


そんな中、不穏な噂を耳にした。

王都から最南西端にある村が人族に襲われたらしいと。また人族が余計なことをしでかしたらしい。俺が誤解されたらどう責任とってくれるんだ?

今は麹ちゃんの熟成待ちでやることもないし、様子を見に行ってみよう。


善は急げとその足で早速出発することに。

大切な味噌、醤油の管理に孤児院でアルバイトを雇っておいた。温度に注意しつつ大切に混ぜて頂きたい。

味噌、醤油で篭りすぎて気がつけば季節は春になっていた。雪が少し残った大地に光る緑色。土っぽいがどこか爽やかな香り。漸く外に出られる悦びに大地も生物も喜んでいるような空気感。とても凄惨な現場が待っているとは思えない。のどかさを楽しみながらも先を急ぐと、遠くにこじんまりとした村が見えてきた。一応港町っぽさを感じるが大きい船はあまりなさそうだ。


たどり着いた村はシーンと静まり返っていて人の姿が見えない。音の一切しない村というのはこんなに薄気味悪いものなのか?

因みに今回は変に刺激しないよう仮面を着用することにした。何年か前のハロウィンで購入したオペラ座の怪人みたいなあれだ。痛い格好だが、辛い思いをしたであろう人たちにこれ以上刺激しないため。俺は配慮もできる常識人。いい会社に就職できた男は伊達ではないのだ。

しかし、村に踏み入れても誰も出てくる気配はない。


「誰もいないのかな?」


思わず呟くと、「家の中に人の気配ある。」とのこと。

仕方なく、一番大きそうな家を選んで訪ねてみる。


「すみませーん。誰かいますか?」

「………。」

「楽、おじいちゃんがいるぞー!捕まえていい?捕まえていい?」

「エディ、おじいさんはかくれんぼをしてるんじゃないと思うよ?」

「楽、お腹すいた。」


シリアスな場面なのになんとも呑気な仲間たち。


「いないですかー?入っちゃっていいですかー?」

「…だ、誰だ…?」


粘ってみたらひどく痩せて、憔悴した感じの老人が出てきた。いや、老犬?犬っぽい感じの人だ。


「この村はもう老人しかいない死んだ村だよ。何もないからさっさと出て行ったほうがいい…。」

「噂で人族に襲われたって…。」

「やめてくれ!もう思い出したくもない…。」

「お辛いでしょう。でももし話していただけたら、まだ何かできることがあるかもしれないですよ。」

「わしらの気持ちなんて分かるはずがないじゃろ!」

「分からないですよ。でも俺にも人族に怒りが(おさ)まらない事情があるんでね。」

「…事情?」

「驚かないでくださいね。」


重ね重ね警告し、仮面を外す。


「なっ!!」

「俺は人族じゃないですよ。でもこの見た目。俺がどんな目にあってきたか想像できますか?」

「ほ、本当に人族じゃないのか…?でも、確かにその見た目、さぞかし生きづらいじゃろうて…。」

「えぇ、それはもう、泣いて土下座するくらいじゃ許さないと思ってますよ。」


笑顔で返事すると、ちょっと震える犬のおじいちゃん。名前はダンさん。睨んだ通り村の村長だった。そして、この村で起こったことを詳しく話してもらった。ここはケルプという港町で町や王都とちがって、粗方犬人族だけで形成されている村だそうだ。漁業と自分たちが食べる分の少しの小麦を育てている貧しい村。

漁業と言っても人手が少ないので、貝や昆布などを拾って売っている位だ。

なんと、昆布はここから来てたのか!

しかし、貝も昆布もあまり売れないから貧乏なのだそうだ。そんな村に、4日ほど前突然人族が大群で襲ってきた。若者を中心に必死で抵抗したが、ここは小さな村。

しかも寝静まる早朝の襲撃。抵抗虚しく全ての村人が掴まってしまった。

見せしめなのか、ストレス発散なのか、気に入らない奴は嬲り殺し、人妻だろうが、幼かろうが気にせず慰み者に。少ない金品、食糧を根こそぎ奪い、要らない老人だけ残して去っていったそうだ。

若い男性は奴隷に、女子供はいろいろな使い道があると卑しい目でみながらニタニタ笑っていたそうだ。

反吐が出る話だ。

村長の娘と孫も連れて行かれ、娘婿はダンさんたちの目の前で嬲り殺されてしまったらしい。


「この村にはもう魔物にだって食えるようなものは残ってない。あいつらが根こそぎ持って行っちまったからな。今のわしらは、静かに餓死するのを待っているのさ。」


ギリギリの体力だったのか、話し終わるとフラフラっと倒れ込んでしまったダンさん。


「ダメですよ。諦めるなんて、人族に屈服したまま死のうなんて俺が許さない。今すぐ、村の人たちを全員集めてください。」


話を聞いていて人族への怒りが高まった俺は、この爺さん、そしてこの爺さんと同じ考えであろう村人たちを何とかしたいと思うようになっていた。


「でもわしらは…。」

「つべこべ言わずに呼びに行く!リア爺さんたちのフォロー頼める?エティ、お前はリアのお手伝いな。」


リアたちが出て行ったところで、家の外に出て炊き出しの準備だ。さぁ久々、飯テロのお時間です。人族に抗うための鋭気を養う、飯テロを。昔から言うじゃないですか、武器は使い方次第で攻撃にも守りにもなると。今回は守りの攻撃さ。

折角だから、貝、昆布を使った料理がいい。そして、栄養価の高いもの。

栄養価高いと言えばぱっと思いつくのは牛乳?

ということで、1品目は【クラムチャウダー】。


【クラムチャウダー】


材料

・あさり

・白ワイン

・ベーコン

・玉ねぎ

・じゃがいも

・人参

・小麦粉

・バター

・コンソメ

・塩

・胡椒

・牛乳

・粉チーズ


いっぱい作るのでバケツコンロ2つを並べて置き、大きな寸胴鍋を跨いで設置してみた。

今回はあさり、根こそぎ奪われているので王都で買ってあったストックから。砂抜き済みなのでそのままあさりと白ワインを鍋に投入。火にかけ蓋をして口があくまで蒸し焼きにする。


その間にフライパンにバターを溶かし、細かく切ったベーコン、玉ねぎ、人参の順で炒めていく。火が通ったら小麦粉を入れよく混ぜ合わせる。


小麦粉が具材に馴染んだらあさりの鍋に入れ、牛乳、コンソメ、塩、胡椒、粉チーズを入れてコトコト煮込めば完成。爺さんたち久しぶりの食事だろうし、胃が弱ってる人はスープで、食べられそうな人は米にかけてチーズをまぶしてオーブンで焼く。ドリア風にしても良いかもしれない。


さてさて2品目は【マッシュルームとあさりのカルドソ】。

スペインの米料理にはセコ、メロソ、カルドソの3つがあるのをご存知だろうか?3つの違いは出汁の量で、パエリアのように乾いている水分量の少ないものをセコ。リゾットやおじやみたいな出汁量のものをメロソ、汁だくのカルドソ。ということで昆布出汁とあさりを使ったスープご飯だ。汁だくだからこれも食べやすいだろう。


【マッシュルームとあさりのカルドソ】


材料

・あさり

・マッシュルーム

・にんにく

・オリーブオイル

・米

・昆布出汁

・塩

・胡椒


フライパンにオリーブオイル、みじん切りしたにんにく、みじん切りしたマッシュルームを入れて中火で炒める。

にんにくの香りが立ってきたら米を入れて、米が透き通ってくるまで炒める。

塩抜きしたあさり、昆布出汁を入れて強火で加熱。煮立ったら蓋はせずに弱目の中火で15〜29分煮て塩胡椒で味を整えれば完成。


こだまにダンさんの家から机を持ってきてもらい、出来上がった料理をどんどん並べていく。ちょうどそのタイミングでリアたちが戻ってきた。事前に俺の説明をしておいてくれたらしく、驚いた顔はしていたが誰も睨んでくるような事はなかった。

他の村人たちももれなくガリガリで憔悴した様子。皆一様に生気のない顔をしていたが、俺たちの作った料理の匂いを嗅ぎ、一斉に腹の虫の音をならしていく。お腹が鳴るという事は、体は元気になろうとしている証拠。よかった、まだこの人たちは生きられる。

どんどん村人たちに料理を渡していく。


「うまうまうまうまうま」

「オラ、ドリアにしてほしいぞ!」

「出汁の優しい味がします。」


美味しそうに食べるこだまたちに絆されたのか、村人たちも次々に料理を口にする。村の人たちは俺たちが取り戻す。この料理で元気になって人族と戦い続けてほしい。そんな願いを込めつつ、俺は全員がお腹いっぱいになるまで追加を作り続けるのだった。

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