食事に興味がない人がいるなんて…
自分と違う発想の人に出会うと毎回思ってしまいます。
発想力ドンキで売ってないかなー…って。
ゆとり、と聞くとどんな印象をもつだろうか。これは世代によって様々だと思うのだが昭和に染まり切っている俺の世代ではあまり良い使い方でないことの方が多い。でも俺は、こと発想力や機転という点においては憧れてしまう部分がある。例えばこんな時だ。
「おいしいご飯?…いらないかな。」
「美味しいって誰基準?」
「…………zzz。」
ワンダ君達とはぐれ悪魔族の拠点である洞穴へとやってきて、早速食事を提案したのだが返事は想像していたものと違った。全く興味を示さない人がいたのだ。俺はこのリアクションに少なからず驚いていたのだか、一緒に聞いて回ってくれていたワンダ君達はあいつらはいつもああだから、と気にするようすはない。昭和の常識、日本人感覚からいえば、おいしいご飯が嫌いな人などいない。家に帰りたくない人などいない。だからこそ、断る理由が気になってしまい、さっさと次へ行こうとするワンダ君に待ってもらい、もう少しだけ粘ってみた。
一番最初に断られた寝そべりながら壁にダラダラ絵を描いているおかっぱ紫髪悪魔、名前はスタンパというらしい。中学生位の年齢に見えるこの子は、省エネモード、子供スタイルだと性別は分かりにくいが(そもそも性別という概念があるのかもわからないが)男っぽい骨格の悪魔だった。生来の画家で、国を出る前も、国を出てこの洞穴に行き着いてからもずっと絵を描いているそうだ。
「ご飯食べて元気になれば、もっと早く好きな絵が描けるようになるよ?ご飯本当にいらない?」
「何も無いから芸術は生まれる。何かがあったらそれはもう芸術じゃない。」
「何かってエネルギーのこと?」
「違う。ご飯を食べたらいろいろなことを考えられるようになっちゃう。そしたらからっぽじゃなくなっちゃう。それにこの絵は描き終えちゃだめなんだ。」
「描き終えちゃいけない?」
「そう。からっぽは何もないから終わりもないんだ。終わりがないなら絵も終わらない。あぁダメだ!考えちゃ…グゥ。」
スタンパは質問したことでわずかなエネルギーでうっかり思考を巡らせてしい、エネルギー切れで寝息を立て始めた。いつも、起きて描いて、力尽きて寝る、の繰り返しをしているそうだ。彼が言っていたことを要約するとエネルギーがないからこそ生まれる何かを表現しているからエネルギーはいらない。だからご飯にも家に帰ることにも興味はない、ということだろう。
2人目に断られた短髪金の癖っ毛悪魔パルは髪をネジネジ弄りながら、「おいしい」と言う言葉に難癖をつけてきた。
「ワンダ君達もおいしいって言ってたし、きっと君も気に入ってくれると思うよ。」
「ワンダが美味しいって言ったからって私が美味しいと思うかは別。美味しくなかったら時間の無駄じゃない。」
「時間の無駄?でも食べる時間はそんなにかからないよ?」
「あら、美味しくなくてブルーになった後の時間は長いでしょ。」
ふむ、確かに美味しさは人それぞれの感覚だし、好みの味じゃなかった場合のダメージは大きい。そしてブルーな時間は何もしたくなくなる時間と考えると、長い時間の無駄になるとも考えられる…。要約すると美味しいものを食べられるという対価に対し、期待を裏切られるリスクと時間のリスク、割りに合わないと言う判断を下したということだろう。確かに、美味しくないものを食べた後ってよく考えたらすごいダメージだけど、うーむ、その発想はなかった。
返された言葉に思考を巡らせていると、会話が終わったと判断したのか、パルは話しかける前と同じように遠くを見てだらりと座り込む。ボーッとしてるだけで何もしてないじゃん…って一瞬いいかけたが、この場合それは別次元の話だと言われそうだなと思ってやめた。人は何かするべきものというのが昭和の固定概念なのかも…とこの子の雰囲気を見ていて感じてしまったから。
そして3人目は、真っ赤な長髪美少女ジェネ。寝ていても分かるぱっちり大きな目と長い睫毛。丸みを帯びた柔らかい顔立ち。リボンをあしらったワンピース。男の子だったとしても美少女認定される雰囲気の子だ。起こしたら悪いかなと一瞬躊躇したのだが、寝ていても気にせず話しかけたワンダに、ジェネは目を開けることなく答えを返してくれた。本当に寝てたのかな?
「寝るのに忙しいからいらない。」
「でも元気になってお家で寝た方が良くない?」
「寝れればどこでもいい。帰る時間がもったいない。」
食べなくても死なない種族だから、一番好きな睡眠を食事より優先したいのだろう。死ぬことを気にせず惰眠を貪り続ける、そんなことができる種族が存在していたとは。俺くらいの年齢レベルになれば寝るにも体力がいることに気づき始め、寝れるって若さだなって分かるから少しこの子が羨ましい。でもずっと寝ていたいのなら、そもそもなぜこの人達と森へ出てきたのだろうか?しかしやはりゆとり世代に感じたことと既視感があるな。つまり…
「いい悪いは置いといて、やっぱ発想力が柔軟だなぁ。べつにぶっ飛んだ発想って訳じゃないが、忖度がないというか、合理的と言うか…まぁ無理強いするもんでもないし、食べたいって言ってくれた人達だけでいいかぁ。」
「え、みんなで一緒に帰れないんですか?」
俺が諦め、ワンダが結果に頷く横でテニンがシュンとする。テニンはみんなで国に帰りたかったようだ。
「テニンはみんなで帰りたいの?」
「うん。」
「寝てる子は布団ごと運べばいいけど、壁画ごとはなぁ。時間の無駄ちゃんも移動をメリットと感じてくれるかどうかによるな。」
「せ、せめてジュネだけでも…。」
「ジェネ?あの寝る優先の子の?」
「そう!ジェネは戦姫だからジェネが帰るって命令すればみんな帰るから。」
「戦姫?」
「そう、悪魔族の軍の頂点なんだぞ!」
まさかの悪魔軍トップがこんなところでお昼寝してるとは。悪魔族も今は平和なんだろうな。
「軍のトップがこんなとこでサボってて大丈夫なの?。それに君たちはあの子の部下ってこと?」
「そう、僕達はジュネに命令されてここまできたんだ。本当はそろそろ国に帰らないとダメなんだよねー。だから、ジュネに帰還命令出してほしいの。」
「そっか…悩みなさそうで君達も大変なんだな。でも食べる事を拒否した人達に食べさせる方法かぁ…。あ、なら大好き作戦だな。」
「大好き作戦?」
「美味しいものじゃなくて『好きなもの』なら我慢できなくなるかもだろ?人は好物の前では無力なんだよ。と、言うわけで悪魔族の好物って何?」
俺達は一度洞窟の入り口へと戻ってきて悪魔族の好みについて勉強することにした。好みだけでなく環境や特産品なんかも重要なヒントとなる。例えば寒い地域だと体を温める食べ物が多くなったり、濃い味付けになっていったり。そしてワンダ達をインタビューし分かったことは、悪魔族は辛いものが大好き、ということだった。
「悪魔族の国は1年中寒いからな。ガシの実を食べると体がポカポカして元気になるんだ!」
説明によるとガシの実とは十中八九唐辛子でどんな肉も刻んだガシの実と炒めて辛い料理を作っているらしい。まるで四川料理の炒め物みたいだな。昔中国に旅行に行った際、四川料理のレストランに入り山盛りの唐辛子に埋もれた肉料理に驚かされた思い出がある。鳥、豚、魚と3種類出てきたのだが、見た目は全て一緒。俺は辛いもの結構好きだから満足したけど、友達は辛すぎて全部同じ味にしか感じなかったって言ってたな。なつかしい。
「楽!」
思い出に浸っているところにこだま達が帰ってきた。
「でっかいの捕まえたぞ!これで何か作るんだぞ!」
戦利品を持ち上げてアピールするエティ。軽々持ち上げているが、超超超巨大な牛と猪と熊を合わせた様な魔物だった。
「おぉ!バクラですね!」
「これはかなり大物だわ!」
「バクラはとっても美味しいお肉なんですよ。」
「ぁ…すごい…。」
立派な戦利品にワンダ達も釘付けに。うん。それじゃ、このバクラとか言うので旨辛料理に決定ですな。