「婚約破棄?お待ちになって貴女努力いたしまして?」本編
過去作った作品を掘り起こしてリテイクしてみました。こてこての婚約破棄物語ですが、ちょっとスパイスきかせています。よろしければご覧ください
※8/2 内容に少し矛盾があったので内容を修正しました。
※日計のランキング3位になりました!評価くださってありがとうございます。
「シャルディア=ブラッドアイ!貴様の所業もはや明白!その非道な行いは貴族として、女として、人としても最低なもの。よって今日を以て婚約を破棄する!そして、新たな婚約者としてこのエミ=ピーチフィズ子爵令嬢を我が婚約者とすることを。この場を借りて報告する!」
大勢の貴族の令嬢、令息がいるあるパーティー会場で我が国の第一王子にして私シャルディア=ブラッドアイ伯爵令嬢の婚約者であるレオンがいきなり訳の分からないことを宣言した。
最近はエミという女と仲良くして、私のことを冷遇して、ここ最近連絡しても露骨に無視されていたので嫌な予感はしたのだ。だが、ここまで突き抜けた馬鹿なことをするとは思わなんだ。
「・・・」
「ええっと、レオン王子?それは御冗談で?」
ここで冗談だよとでもいえば致命傷は避けられなくもないのだが、
「冗談?認めたくはないのは分かるが、これは現実だ。現実逃避などせず、まずはこのエミに頭を下げて、謝罪せよ」
馬鹿は致命傷を負った。しかも格下の貴族の令嬢相手に格上の貴族の令嬢に頭を下げろとは、その意味を分かっているのだろうか?
「一応お聞きします。私が一体何をしたのでしょうか?」
「誤魔化すな!貴様はこのエミに俺の愛情をうばわれたと、下らぬ嫉妬から嫌がらせを行っていたらしいな。私物を盗む、足を引っ掛ける、パーティーに呼ばない、嫌味を言って心を傷つける。証拠もある。もう一度言う、ここで皆の前で己の非を認め、誠心誠意謝罪せよ。さもなくば、王族としてしかるべき処置を行われければならない」
こいつ何言ってんだ?見ると、常識ある人々は突き抜けた馬鹿の言動に疑問符を浮かべている。
とりあえず、私は事実無根の誹謗中傷を否定すべく、抗弁を始めた。
「・・・とまぁ、そんなことがあったのさ♪」
この騒動で家に帰った私はなじみの自室で、紅茶をたしなみながらその時の出来事を話した。私は腹心にして友人であるメイドのクールなマリーと陽気なミリアの2人に事情を説明した。
「はぁぁ?」
「うわぁー」
2人とも呆れて開いた口が閉じないようだ。普通そうだよね。まず立ち直ったのはクールビューティーマリーからだ。
「待ってください。その婚約破棄というのは王様が正式に許可したんですか?」
「するわけないでしょ。王子が勝手に判断して言っただけよ」
「ということは、シャルディア様との婚約の真意とかは」
「絶対知らないわね。あれはおそらく一貴族の娘としての婚約としか見てないわ」
特徴の三白眼が思わず丸くなるほどにマリーが唖然としている。
そう、レオン王子と私シャルディアの家ブラッドアイとの婚約は政治的意味合いが強い。我がブラッドアイ一族は現在他国の王家と繋がりが深いのだ。母は隣国の第六王女だし、父の姉は同じく別の国の王の右腕である宰相の妻である。今回私とレオン王子が結婚することで、他国とのつながりを強化し、多国間の折衝や問題を緩和させることが目的なのだ。つまり政略結婚である。
当然、このことは王族のレオン王子も知っている。だが王子は厳密にいうと意味は知っていても理解はしていなかったのだ。大事なのは腹黒い女に権力を持たせることよりも信頼できる心優しき女性を国母とすること。それが王家の繁栄につながる。つまり、私の結婚は重要でないと思い込み、その考えに酔っていた。つまり馬鹿なのである。
「っていうか、まずくないっすか。それ?」
絶句しているマリーの代わりにミリアが尋ねる。
「まずいわよ。当事者同士だけで話し合うならともかく、大勢いるパーティー会場での出来事よ。しかも他国の留学生もいる前で、堂々と。もう隠せるわけないし、箝口令も無意味だわ。すぐに他国でも噂になるわよ」
「おぉぅ」
そうなのだ。パーティー会場全員が聞いたならばもう隠し立てはできない。本人たちは「卑劣な悪者」を大勢の前でやっつけて、結ばれた正義のヒーローとヒロインの気分なんだろうけど。少しやり方を考えろよ。国の上の人達今頃大忙しだよ。
「まぁ・・・それは大人の人達のお仕事として、先ほどの続きをお嬢が反論した後はどうなったんすか?」
とミリアがこくんと小首をかしげる。どうでもいいがミリアの褐色肌とくりっとした目のその仕草はなんか猫みたいで私のお気に入りである。
「ああ、レオン王子は“もういいこのおろかものがー。やはりきさまがねっからのくずのようだなー、あとで王族としてだんざいにしょすー。”と顔真っ赤にして追い出されたわ」
その瞬間、私を馬鹿にされたからか冷静なマリーと陽気なミリアの顔に怒りが灯る。
「でまぁ、私はその後を知らないんだけど、愛すべき友人であるローズマリーとダリアに話を聞いたけど、当然あんな馬鹿なことを信じている人はほとんどいなかったらしいわ。ダリアが調子に乗って“素敵なお相手おめでとうございます”と皮肉言ってわざとらしく拍手したら、上機嫌だったらしいわ。あれはまさしく道化だわって笑いながら言っていたっけ」
ころころと笑う私に、怒りをおさめて笑う2人。
「だけど、あんな堂々と馬鹿なまねするから、本当に信じ込む純粋な人がいるんじゃないかと心配したけど、何もなかったみたい。よかったわー」
「そうですわね。お嬢様は学園でも人気のお方なのですから」
レオン王子とエミそして取り巻き連中は気づいていないだろうが、彼らの評判は最悪だ。曲がりなりにも生徒会が一般生徒であるエミといちゃついて、杜撰な仕事や対応しかしないのだ。かといって王族に注意もできず、それらの細かい問題や仕事は面倒見が良いという私に廻ってくるのだ。彼らは順当に仕事を片付けているようだが、そのしわ寄せはすべて私に来ている。一般生徒からはいつの間にか“裏生徒会長”とまで言われる始末である。
さらにエミの評判がすこぶる悪い。婚約者がいる男にべたべたする。挨拶はまともにしない、交流のためのお茶会にも出席しない、礼儀や規範を無視した問題がありまくりなのだ。あばたもえくぼとは言ったもので、王子をはじめとする男たちからは“規範に縛られない自由な乙女”に見え、今まで身の回りにいなかった新鮮な言動に心惹かれているらしい。
だが、他のみんなからは礼儀知らずの尻軽女でしかない。これで人気があろうはずもない。みんな表面上普通に接しているが何も言わないのは、関わり合いにすらなりたくないからである。
注意してくれる人がいないため、仕方なく私から注意すると、被害者面して、言うことなんか全く聞かない。それでも何度か注意をして、時には強く警告じみたことを言ったのだが、逆効果っぽかった。婚約破棄の理由である無視やら嫌がらせとやらはそれがネジ曲がって伝わったのだろう。友人のローズマリーとダリアからはお人よし過ぎると怒られるほどだ。
「まぁ、今後のことは何とかなるでしょ。とりあえず今御父様とお母様がその件で外出しているらしいし」
私は昨日のことを思い出す。
昨夜、婚約破棄の後にパーティー追放後
「シャルディアぁ!」
「ぶみゅぅ!」
思わず変な声が出てしまいました。今起きたのは、母であるシャルロットのもうダッシュによる突撃。そして悲しいかな自分に継承されなかった大きな母性の象徴に思い切り顔がぶつかったことによる声である。説明したら、これですよ。
「おぉぉ。なんてかわいそうな目に!やはり旦那様の言うとおり、あの馬鹿王子なんかと婚約なんてさせるんじゃなかったわ!シャルディア!あの時婚約に賛成した愚かな母を許しておくれ!」
「母上。ぐるじいでふー」
「うぅぅっ、あなたの器量と才覚ならばこの国を支える良き王妃となると思って賛同したのに・・・シャルディア。ああ、シャルディア。母は貴方の味方ですからね。あの馬鹿王子の婚約破棄など気にしなくてよいのですよ!」
「ぐぐぅぅぅ・・・」
私を胸に力いっぱい抱きしめ、号泣する母。まじで苦しい!抱擁で窒息死とか勘弁してよ!
「そこまでにしなさい。シャルロット。シャルディアの顔色がまずいことになっている」
呆れた声の主はシリウス=ブラッドアイ。グレーの髪をオールバックにした目つきが鋭い壮年の美男子である。
帰宅後、父と母に説明したらこれである。2人は一見悪人面だが、とても心優しく、家族仲はとても温かい。
「ち、父上。この度は申し訳ありません。ブラッドアイの名前に傷をつけてしまいました」
ようやく乳地獄から解放された私は父に頭を下げた。
「安心しろ。事情は聴いている。あの馬鹿王子のくだらぬ茶番程度でブラッドアイの家に傷はつかん。それよりこっちの方が問題だ。緘口令も聞かない状況となると姉上に話がいく頃だろう。あの人はお前のことを我が子のように可愛がっているからなぁ。どうやって抑えるか・・・それが悩みの種だ」
父が頭痛をこらえるように顔をしかめて、眉間を抑える。
伯母様は小さいころから私を可愛がってくれたもう一人の母のような存在だ。私の前では微笑みを絶やさず、猫かわいがりしてくれるが、嫁いだ国では「烈火の薔薇」と苛烈な性格で知られ、その国の社交界の顔役である。そんな伯母が今回のことを知ったら、どうなるか想像するに恐ろしい。恐らく王子とエミと取り巻き連中のバカっぷりが伯母を通して各国にばらまかれることだろう。あああ。南無三。
数日後
私は王宮に呼び出された。
場所は王宮の大会議室。円卓の最奥には国王陛下。その周りには、お妃様、宰相、大臣、将軍といった国の要職につく名だたる面々、私、バカップル、取り巻き連中、要するに関係者全員である。
最初に国王陛下が静かに宣言する
「まず、国王の名においてレオンお主とシャルディア伯爵令嬢の婚約破棄を認める」
「父上・・・!」「やったぁ・・・!」
喜ぶ馬鹿2人。周りの反応見ろよ。そんな空気じゃないだろ。違和感くらい察しろよ。取り巻き連中に至っては実家で相当絞られたのか、陰気なオーラを纏い真っ白な顔をしてうつむいて何も言わないじゃん。
「そしてレオンお主を王位継承権第一位から外す。王位は留学中の第二王子であるリエンが継ぐ」
『え?』
続く王様の言葉に硬直する2人。
「ち、ちょっと待ってください!どうして私がそのようなことに!」
慌てて問いただすレオン王子に王様は静かに答える。
「お主、事の大きさをわかっておらぬのか?」
そして王様は今回の結婚が国際間において重要な意味を持つことを改めて説明した。そして、私の罪が冤罪に近いものだと。
「というわけだ。今回の一件で、今まで考えていた国際間の交渉は白紙になり、大きな問題となった。そのような事態を引き起こした以上、レオンお前には責任を負ってもらう」
しばらくの間ぽかんとしていたがレオン王子だが、いきなり声を上げた。
「それならば、シャルディアを第一王妃にします。そしてエミを第二王妃にする。それで解決ですね」
何言ってんの?こいつ。見ると他のみんなもぽかんとしている。
「婚約解消がそこまで問題ならば仕方なく結婚します。シャルディア光栄に思え。お前を第一王妃にしてやる。けど調子に乗り、勘違いするなよ。貴様とエミはこれから同等な王妃なのだからな」
「え?え?そ、そうですね!レオン王子の一番になれないのは残念です。けど、これも国のために仕方がないことなんですよね。はい!私第二王妃で我慢します!」
盛り上がる2人。現在進行形で我慢しているのは私だよ。というか第二王妃などという肩書はない。それは側室という役職だ。
「・・・すでに大勢の前で婚約破棄の話を告知したじゃないですか。皆にどう説明するおつもりで?」
「そもそもお前がまいた種だ。それはお前が考えて釈明せよ」
「・・・・・・・はい?」
馬鹿に尋ねたら理解不能な答えが返ってきた。
「何惚けた顔をしているシャルディア。今回の件の発端は私の婚約者でありながら、立場をわきまえず迷惑行為を行った貴様が一番の原因なのだ。お前が処理するのは当然だろう。まさか私たちに尻ぬぐいをさせるつもりではないだろうな」
「・・・・・・」
「そうだ、自らの愚かな行為を反省して私とエミに必死に謝罪して寛大な私たちの慈悲によって許しを得たというのはどうだ?それならいいだろう。話は合わせてやるぞ」
「そうですね!安心してください。私達ちゃんと話を合わせますから」
・・・こいつらどうしたらここまでお花畑な考え出来るんだ?大勢の前でいきなり婚約破棄をして、今王様が同じく「王命」で破棄を認めたというのに。王命は覆らないから王命なのだ。そんなポンポン話が覆ったら、王族の威信が堕ち。他国から信用されなくなる。というか、それ以前に非もないのに謝罪など、伯爵家の威信にかかわることを認めるはずもなし。ああ・・・見ると、みんな頭痛そうな顔してるわ。
「レオン、お主何かそのエミという女性と結婚して王族の一員となることを前提に考えておるが、そもそも誰が賛成したのだ」
見るに見かねたのか王様からの助け舟がはいりました。
「え?先ほど、シャルディアとの婚約破棄を認めたのでは?」
「どうしてそれがその女性との結婚につながる?そもそも王族の一員になるにはエミとやらはふさわしくない」
「なにをいうのです!父上!確かに身分こそ低いものの、エミは誰よりも私を理解し、愛してくれているのですよ!!」
「ならば、その娘は何ができるのだ?」
「え?」
王様の質問にレオン王子が素っ頓狂な声を上げる。
「理解や愛など、町娘でもできるであろう。王族となるからにはそれ以外の能力が必要だ。まさか王族になれば何もせずに贅沢三昧の遊び放題ができるなどと考えてはいないだろうな?」
「え?え?」
視線をエミに移す王様。おーおー慌ててるー。そう思ってたんだろうなぁ。
「王族となれば他国に行くことも多い。国ぐるみの付き合いには他国の知識が必要だ。この国だけでなく周辺国の文化風習、歴史や風土、地理は全て把握しているのか?」
「ぜ、全部ではありませんが、一部だけなら」
「・・・それでお主はどれほど他の貴族とつながりがある?王族は他の貴族とのつながりも重要だ。お主が親しい貴族は誰だ?そしてよく行くお茶会、最近行ったサロンはどこか教えてみよ?」
「ひ・・・お、王子ぃぃ!」
「ち、父上!エミをいじめないでください!そんなのこれから覚えればいいじゃないですか!」
半べそになったエミをかばうようにレオン王子が立ちはだかる。おいおい王妃教育を舐めすぎじゃないかい?学校の勉強とはわけが違うよ?
「ほぅ。才ある女性が幼少時より10年かけて覚える王妃教育を、これからか。気の長い話だな。しかも今まで軽視し続けていた他の貴族たちから支持されるほどの信頼関係を今から結べるのか。王妃から聞いているが、エミとやらお主の評判は最悪だぞ」
見ると王妃様が厳しい目をして睨んでいます。王妃様は私が婚約したころの仲であり、母の友人でもある。非公式の場では「シャルちゃん♪」と親しげに呼んで、実の娘のよう接してくれる。
反抗期で全然かまってくれないレオン王子と留学して不在なリエン王子の代わりもあるかもしれないが、公式の場では理知的で誇り高き女性なのだが、普段プライベートであるときはとにかくいつもにこにこと笑顔で気さくでお優しい方なのだ・・・だけど今日のエミと王子を見る顔怖ぁ。目元だけ歪んだ能面みたいで優しさなどみじんも感じさない。
そんな王妃様の視線に気づかず。馬鹿は必死で弁解中。
「うっ!?・・・しかし、父上!エミは私にだけその優しさを与えているわけではありません!エミはよく孤児院に寄付を行い、かわいそうな子供に恵みを与えているのです!」
「そ、そうです。いつもお金やお食事を持っていっています!」
「他の貴族にはできない視点で、民を見て、慈しんで、厚い信頼を置かれている、そんなことができる貴族が他にいますか?」
「・・・そうか。ところで王都に孤児院は2つあるがその2か所に定期的に寄付をする家があり、そして定期的に文字の読み書きと数字の計算を教えに行って、子供たちと交流を深めている他の貴族にはできない視点で厚い信頼を置かれている貴族がいるのを知っておるか?」
「え?そ、そんな人が私のほかにいるんですか?」
戸惑うようにいうエミ。王様は深く深くため息をついた。
実は私です。
孤児院に寄付金を出している家の一つが我が家なのである。そこは資料にあるが、私が担当として孤児院に定期的に訪問し、子供たちに文字や計算など教え、交流を深めているのは公表されていない。
だけど、それは機密でもないのでちょっと調べればすぐにわかる。それこそ孤児院の職員や院長にでも聞けばすぐ返ってくる。
無論、王様ならそんなことは知っているだろう。そんなことも知らないのは、孤児院に全く関心が無いかほとんど交流をしていないということに他ならない。どうせ、可哀そうな子供だからと適当に物と金だけ挙げて子供達を見ていないんだろうな。
「もうよいわ。お主の能力が無いということがよくわかった。もうレオンはっきり言うぞ。今回の処遇の本当の理由は貴様が無能だからだ」
「な・・・!」
絶句するレオン王子とエミ。
「お主は世間でどう評価されているか知っているか?女にうつつを抜かした馬鹿王子だ。貴族の間では有名だぞ?お主らはまったく世間に目を向けておらんから知らなんだろうがな」
「なにをおっしゃいます!父上!私は2年から学園長直々に生徒会長に命じられ、学園を滞りなく仕切ってきたのですよ!」
「貴様が生徒会長になったのはわしの指示だ。いずれ国を背負って立つお主のための勉強と試験としてな。貴様が特別有能だったからではない。知っておるのか?お主らが学園で遊んでいる間、生徒間のトラブルは全てこのシャルディアが片付けていたことを。言っておくが周りは誰もお主らのことを優秀などと評価しておらぬ。そして、そんなシャルディアに礼儀知らずで悪人などという風評被害もばらまきおって」
2人は呆然としていたが、私をにらむと大声を張り上げた。
「シャルディア!貴様!父上に何を吹き込んだ!」
「王様!騙されないでください!この女は悪女なんです!自分の都合のいいように事実を捻じ曲げているんです!なんて人なの!」
一斉に私を非難する2人。なんというブーメラン。王様の顔がやばいです。
「もういい!!黙れ!!!このバカ者ども!!!」
一喝。くたびれていても長年国という巨大なものを統率してきたのだ、なんというか重みがある。バカップルは文字通り飛び上がり、私も心身鍛えた兵士さんたちも身をすくませている。ただ王妃様は動じず。
「とっくにわし自ら調査済じゃ!レオン!貴様をこの度の婚約破棄の責任で王族の権限を外す!反省してシャルディアや我々に謝罪して誠意ある態度を見せれば情状酌量で、まだ今までの生活を続けさせる余地はあった。だが、この期に及んで反省でもするかと思いきや、反省どころか自分の無能さにも気づいていない上に、他人に責任を押し付ける体たらく。もはや情状酌量の余地はない」
「あわわ」
「もう一度言うぞレオン・・・無能で面倒ごとを引き起こすばかりの馬鹿な貴様には王族たる資格はない!次期国王にはなれん!例えリエンに何かあってもな。今後は王族の名を振り回しての人事権も国費の使用も一切権利も許可も認めん!一臣下として勉強をやり直せ!そしてエミ。”これからの”レオンの伴侶になるのは自由だ。だが王族とは親戚などと思うな。たとえ子供が生まれても、一切王家とはかかわりももたせん!支援も一切せん!両者とも再び王族と関わりにあいたくば勉学に励み、相応の実力をつけろ!これは決定事項だ」
おおお、国王陛下すげー。見るとレオン王子は顔を真っ青にして口をパクパクさせ、エミは「こんなのルートにない・・・なにこれ?」とつぶやいている。
その言葉の意味を知るものはこの場所では私しかいないだろう。
やっぱり、あの子私と同じ転生者だったのね。
そう、私シャルディア=ブラッドアイは転生者なのである。
かつて、女子高生だった私は青信号を渡るときに、信号無視した暴走車に巻き込まれて意識を失い、もはやうろ覚えだが真っ白な美女に何かを言われ、気が付いたらシャルディア=ブラッドアイという名の少女として私はこの世界に再臨した。
最初は困惑した。女子高生だった時の記憶を持ちながら違う世界にいるのだから、そして知る。この世界はとあるゲームに酷似していることを。
そのゲームは1日に3回のコマンドを選びステータスを上げたり、意中の相手と交流を結んだりして、攻略対象の好感度を上げ、イベントを重ねて、エンディングを迎える恋愛シミュレーション。というまぁ、ありきたりの内容。そしてエミという子の立ち位置は正ヒロイン。
でもね、いくらゲームと環境が似ていてもこれは現実なのよ。努力しなければ何も報われないの。だから貴方が知っているルートなどという線路は存在しない。自分で切り開くしかない。私はこういう転生なる話など詳しくはないが、現実である以上、その世界の住人として努力する必要があることだけはわかる。
攻略対象に引っ付いてお決まりの言動をするだけでハッピーエンドになれると思い込み自身の才能を一切伸ばそうとせず、そして調子に乗りやすい王子に耳触りの良い言葉だけを吐き続け自分の都合の良いことしか見ない馬鹿王子にしてしまうというおまけつき。
この世界で幸せになるために幼少時より10年以上も必死に努力してきた悪役と、幸せになるのが当たり前と努力しなかった主人公じゃ、結果に差が出るのは当然でしょう。
努力しなかった「貴方の幸せ」はここまでなのよ。
騒動は解決した。しかし、一つだけ疑問が残った
私は呆然とするエミに語り掛ける。
「一ついいかしら?」
「な、何よ」
「どうして努力しなかったの?何も努力もせずに遊び惚けていたら、こうなることくらいわかっていたでしょ?非もない悪役令嬢を貶めるような真似したらこんな結末待っているなんて当然でしょう?」
転生者としてはそこだけが気になった。王子にヒロインに悪役令嬢の婚約破棄に異世界転生。今じゃ、そのストーリーはお約束。なのにどうして自ら破滅に突っかかる真似をしたのか?が、そこでエミは意外な反応をする
「あくやくれいじょ・・・?何わけのわからないこと言ってんのよ!」
え?
「ねぇ?一つ聞くけど、貴方“作者になろう”って知ってる?」
「サクシャニナロウ?何よそれ?」
あ・・・この人もしかして“なろう”系見てない・・・もしくは存在しない世界から転生した?だからか、こんな現実を見ないことをしたのは。
悪役令嬢の婚約破棄の話は私のいた世界ではテンプレと言われるほど知られている。私でも知っている。
エミの“馬鹿令嬢”のような立ち位置と言動をすればテンプレ通り身を亡ぼすことはわかるのに何でこんなお約束通りの馬鹿なことをしたのか疑問だったが・・・そうか「異世界転生」のヒロインハッピーエンド物語は知っていても、「ナロウの婚約破棄」のお約束を全く知らなかったのね。ようやく合点がいったわ。
だから何をしてもヒロインはハッピーエンドになると思い込んで危機感を抱くことすらなく、好き放題しでかしたのか。
「ううん、なんでもないわ。ありがとう。それだけ」
「・・・は!?もしかしてあんたも転生者なの!だから、私のルートをぶっ壊して、奪ったのね!?ふ、ふざけんな!!返せ!私のハッピーエンドを!!」
ようやく気付いたであろうエミがいきなり切れて襲い掛かってきた。が、すぐに私近くの兵士が抑え込んだ。
そうしてこの世界の人にとっては意味不明な言葉を叫ぶエミを無視して私は部屋を退出したのだった。
さてさて、その後の努力しなんだ馬鹿2人は絵に書いたようなテンプレ没落人生を歩むことに。
さて、どうなったのかは次の機会あった時に詳細をお伝えすることとしますね。
なんで、ヒロインちゃんは自滅するとわかっている婚約破棄をしでかすんだろうという疑問から生まれた作品です。少しでも面白いと思われた方は、ぜひ次の後日談もお読みください♪




