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58話 光干渉魔法インターフェア②

 地面が急に消えて、すごい速度で落下していく。誰かがトラップを踏んだのだと、冷静に受け止める。

 こうなったときにやることはまず一つだ。背中と背負い鞄の間に無理矢理固定していた箒を握り、滞空姿勢を取る。


 自分の安全を確保して下を見れば、すごい勢いでリオネル先輩が箒を乗り回し人を救っている。魔法の使えないイングリッド姐さんも、剣を壁に突き立ててぶら下がっている。流石、慣れている人は対応が早い。

 あと真下に大きな水球が浮かんでいて、その上にアレイシオ殿下とラウル先輩が乗っている。


 状況をおおよそ把握してから、私は土魔法を展開した。

 リオネル先輩が取りこぼした人たちの怪我を、最小限にしよう。柔らかくなった地面に三人の管理官が落下していく。無事とはいかなくても、大怪我にはならないはずだ。



「コイツの光魔法が、トラップ見落としたんだろ!」


 土魔法で柔らかくしたとはいえ、地面に叩きつけられて怪我をした先輩のうち一人が、私を指さして怒鳴る。

 咄嗟に滞空姿勢も取れないような無能が、私の魔法に難癖つけないでほしい。私が何年ダンジョンに潜ってると思ってんだ。

 そんな苛立ちを隠して、申し訳無さそうに頭を下げる。ここは冬の島管区で、私は応援で来たよそ者。対立したら、困るのは自分だ。


「すみません。⋯⋯次から、他の人に光魔法をお願いしてもいいですか?」

「はぁ、わかった。それで誰がやるんだ」


 ため息一つ。そして問いかけたリオネル先輩に、空気がざわついたのがわかる。

 そもそもこの、ピリピリした空気感の発生源は、リオネル先輩なのだ。先日攻略を終えたダンジョンの報告書をダンジョン保全機構 冬の島管区に送ったあと、私達は機構の判断を待っていた。だけどあろうことか機構から来た返事は一つ「次のダンジョン攻略はまだか」だったのだ。一つのダンジョンを攻略したら、機構の判断を仰げという、当初の指示に従った結果がこれだ。

 リオネル先輩はそこから、怒りをぶつけるようにダンジョン攻略の予定を入れ、私達は既に二つのダンジョンを攻略した。

 立て続けに三つ目のダンジョン攻略に挑み、正直皆疲れている。


 先輩達が目配せし合う。リオネル先輩やってくれないんだと、そう思っている気配を感じる。私とリオネル以外に、光魔法を使えるのは三人。誰もやりたくないなら私を責めるなよと、呆れる他ない。


「俺がやりましょうか?」


 冒険者パーティの魔法使いが手を上げる。周囲は安堵の気配に包まれるけど、私は情けない先輩達だと、少し心の距離を開けた。



 疲労と苛立ち。ダンジョンの奥に行くにつれて、上がる難易度。一度悪くなった雰囲気は改善されないまま、私たちは進む。

 重い空気は人に言葉を飲み込ませる。誰も何も言わないけれど、遭遇するモンスターの種類が、想定より一段階ほど凶悪だ。それだけでなく、重傷者はいないものの、軽傷者は少しずつ増えている。

 引き返しましょう。誰も言わないなら、私が言うしかないと恐る恐る手を挙げようとする。


「おい、これ以上悪目立ちすんな」


 僅かに持ち上げた手は、ラウル先輩に抑えられた。

 首を横に振って目を合わせる。このまま進むのは、良くない。


「俺が言う」


 ラウル先輩はそう言い残し、リオネル先輩とイングリッド姐さんがいる先頭に向かって行く。自分だって、夏の島から来たよそ者なのは一緒なのに。お人好しだなぁ。


「もう最奥も近い。最低限、ラスボスの偵察をして帰る」


 耳をそばだてていれば、怒気をはらんだリオネル先輩の声。


「リオネル、ラウルの言う通りだ。皆慣れてねぇんだから、一回帰ったほうがいいべ」

「慣れてないから、そもそも進みが遅いんだろう」


 自分が優秀なリオネル先輩には、この程度で躓いている仲間も、苛立ちの対象なのだろう。

 その上、苦手な調整ごとを代わりに引き受けられる部下もいない。長引いても、自分の負担が増えるだけだ。

 結局、ラウル先輩は「お手上げ」とも言うような顔をして帰って来た。



***



 例えば、虫の知らせというものがあったとして、私はそれを信じていない。勘とか、予知とか、自分から最も遠い能力だと思っている。

 だってもし、そんな風に先々を見据えて行動できる人間なら、私はルミエナ殿下の影武者にはならなかった。


「私も行きます」


 なのにさっき、この言葉を発したのは、嫌な予感がしたからだった。リオネル先輩とイングリッド姐さんに、二度と会えなくなるような気がしたからだ。

 結局、ラスボスの偵察にはリオネル先輩とイングランド姐さん、私の三人編成で行くことになった。本当は六人くらいの予定だったし、私じゃなくて手慣れている冒険者パーティの人達が行く予定だったけど、怪我に疲労、行ける人がいなくなっていたのも大きかった。



「え? いない?」

「セリア、油断するな。幻覚系かもしれない」


 拍子抜けしたような私の声に、すぐさまイングリッド姐さんが叱責を飛ばす。

 その瞬間、上空から羽ばたくような音が聞こえて、音の発生源を見上げる。特に何もいないそこに目を凝らせば、わずかに光が揺れているのが見えた。

 もしかして。嘘でしょ。喉が変な空気の吸い込み方をした。咳が出そうになった。

 そんな全てを無視して、私は杖を握りしめる。


「結界術展開!」


 全く同じ言葉が、他の人と被る。リオネル先輩だ。右腕を掴まれ、後方に投げられる。イングリッド姐さんだ。

 二人も私と全く同時に、このモンスターの正体に気付いたらしい。

 ミラージュ・ドラゴン。クアドリア王国のダンジョンに出る、最恐のモンスター。


 投げ飛ばされた姿勢から立ち上がる前に、上空から光が降り注ぐ。ミラージュ・ドラゴンのブレスは光であり、他のドラゴンのブレスと比べて、速度が段違いだ。もっと言えば、色んなものに反射するから、避けるのも難しい。そして一撃の威力も大きい。

 そんな情報を、私は経験を持って知っていた。このモンスターの、攻略法も。


「撤退だ! セリアはそのまま出ろ! イングリッド姐も今のうちに走れ!」


 叫ぶリオネル先輩の結界に光が反射して、壁に向かって進んでいく。これが壁に当たれば、もう最悪だ。いくつもの方向に分散して、避けようがなくなってしまう。だから、今のうちに、光の種類が少ないうちに撤退するしかない、リオネル先輩の判断は正解だ。


「わかった」


 イングリッド姐さんはリオネル先輩を小脇に抱えて走り出す。壁から反射した光が、二人と、そして入口にいる私に向かう。私はリオネル先輩が展開した結界の隙間を埋めようかと考えて、やめる。

 結界じゃ無理だよ。絶対にやばい怪我するし、その状態でダンジョン出るまで戦えないだろ。


「干渉光魔法インターフェア」


 光が私を中心に広がっていく。リオネル先輩のそれより、早くて強い光。それが、ミラージュ・ドラゴンのブレスとぶつかり合って、双方の光が消滅する。

 ミラージュ・ドラゴンの攻撃は全て、インターフェアで簡単に潰せる。ただ、インターフェア以外で防いでも反射するし、半端なインターフェアだったら推し負ける。それだけのモンスターだ。


「は?」

「え?」


 リオネル先輩とイングリッド姐さんがそれぞれ、驚いたような声を上げる。

 きっと混乱渦巻いているだろうに、足を止めないイングリッド姐さんは流石だ。


 この後が億劫だ。私はそう思いながらも、何も言わずに扉をくぐった。

次の更新は来週の土曜日になります。

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