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もう一度、勉強したい  作者: AKANE
クラウディア
9/29

この世界のこと 1

 診察と呼ばれるなにかが終わり、部屋から誰もいなくなったあと、私はベッドをおりてまずは部屋の中をもう一度調べてみた。

 やっぱりというか当たり前というか、クラウディアちゃんの記憶にも穴がある。

 自分の興味のないことは覚えていないみたい。

 特に絵本のあたりは、あることは覚えているけど中身は全く読まれてない。

 さっきあとで読もうと思っていた動物の絵本を引っ張りだす。


 最初のページにある牛、豚、ニワトリ、犬、猫。

 このあたりは文字と絵がだいたい一致する。クラウディアちゃん、基礎の文字は覚えていて偉い。

 あ、雄と雌で名前が違う言葉の動物がいる。えー、親子で単語が違うのもいる……。

 後半になると絵さえ見慣れない生き物になっていく。

 頭が二つある犬や、明らかにドラゴン(四つ足の、有名な児童小説に出てくるやつ)だったりするとちょっと読みにくい。

 アルファベットはひろえてもどう読むの?ってかんじ。

 リーディングもヒアリングも受験が終わったら綺麗に忘れたよ……。

 あのオレ様ドクターの言うとおり、知識は必要だわ。

 あ、そう言えばアルファベット表みたいな絵本もあったはず。


 さらに別の本を取り出す。

 文字と、それを使った単語が数個ずつ書いてある。

 文字は数えてみたところ30文字。

 英語は26文字だったからちょっと多いけど日本語ほどじゃないね。

 後ろのページには数もあった!

 10進法っぽいからこれは数字さえ覚えたらなんとかなる。理数は得意よ。

 発音がわからないのが難点だけど、とりあえずこれで勉強するしかなさそう。

 今とってもノートと鉛筆が欲しい!

 これは部屋のどこにもなかったから、仕方なく指で床に書いて書いて書いて覚える。

 そうしてひたすら覚えていたらスープを運んできたハンナに怒られてしまった。


「嬢さま何をされてるんですか!」

「えっと文字を覚えてたの……」

「床に座ってですか?嬢さまは病み上がりなんですよ」


 ハンナに追い立てられるようにベッドにいれられ、そんなに読みたければベッドの中でお読みくださいとまとめて本を渡された。


「急にどうなさったんですか。お勉強はお好きではなかったでしょうに」

「オレさ……じゃなかった先生にもっと世の中を知りなさいって言われたから」

「まったく。先生はお元気になられたらと言う意味でおっしゃったんだと思いますよ。すぐになさらなくてもいいんです」


 今はまだ、安静が一番ですとお昼に食べたスープをまた出してくれた。

 いつの間にか日がすっかり傾いていたようで、スープの匂いにお腹がクゥとないた。

 スプーンを持っていただきます、とするとハンナが不思議そうな顔をした。

 おっと、いただきますは日本にしかない習慣だった。

 海外だと食前の祈りがあるけど、こちらにもそう言うのがあるんだろうか。

 私はハンナの顔に気づかないふりをしてスープに木匙を入れた。

 とろりとした白いスープに溶けかかったジャガイモが浮かんでいて、ホカホカ湯気が立っている。

 一口すすって口に含むとジャガイモと牛乳の甘みとうまみが口いっぱいに広がる。

 こんなに美味しいスープは飲んだことがない。

 記憶にあるそのままのハンナのスープの味だ。

 やっぱり美味しいなぁ。美味しいよぉ。

 これにパンとかチーズとかソーセージとかあるといいよね。

 考えてみれば私にとってもこうして口から食べられる食事は久しぶり。

 入院中は高熱で食欲もなくて、水くらいしか飲めなかったもの。

 まだスープくらいしか食事は食べられなさそう。一杯で満腹です。

 そう言えば暗くなるけどハンナは家に帰らなくていいんだろうか。

 確か村から通いで来てくれてるはずなんだけど。


「ハンナは、今日は帰らなくていいの?」

「今日はこちらに泊まらせていただくことになりました。嬢さまのお世話をさせていただきたくて」

「いいの?」

「なぁに、たまには男どもで過ごすのもいいもんですよ。口うるさいあたしがいなくて羽を伸ばすでしょう」


 ということは、ハンナにいろいろ聞けるチャンス。


あのね、ハンナに教えて欲しいことがあるの」

 「おや、あたしにですか?」

 嬢さまに教えられることがありますかね? と首をかしげながらそれでもそばに来てくれた。

「あのね、魔力ってなあに?」

 わたしはできるだけクラウディアちゃんに見えるように、記憶にあるクラウディアちゃんのような口調で尋ねた。


 私が一番聞きたかったのは魔力という言葉の意味。

 この世界ではとても重要みたい。


「魔力ですか。うーん、あたしらみたいな平民にはあまり関係ないんですけどねぇ」


 そうは言いながら、ハンナは教えてくれた。

 いわく魔力は、生き物全てが生まれつき持っている力だという。

 魔力が多い、少ない、と言うことはあっても全くない生物はそもそもこの世に存在できないらしい。


 え、私魔力ゼロってドクターにたくさん言われてますけれど。


 驚いたことに家畜も植物も地面にさえ魔力が宿っている。

 そしてその魔力は死ぬと大地に溶けていくのだと。


「魔力の多い方は寿命も長いですし、あたしら平民が出来ないこともしてくださいます」


 ハンナが言うには魔力を使って橋や建物を作ったりも出来るらしい。

 それは見てみたい。

 というか魔力が多いと寿命も長い?


「ええ、魔力が多いと長生きされますよ。今の王様はもう200才でしたか。いい王様ですからぜひ長生きしていただきたいですねぇ」


 ……その理屈で言うと魔力ゼロの私は生きてるはずがない。つまりは……私はゾンビって事?

 そ、それはいろいろ言われるわけだ……。


「魔力の多い方は王様や公爵さま方ですかね。位の高い方が多いですね」


 爵位持ちの人たちは魔力が多く、爵位が下がれば少なくなっていくのね。


「たまに平民でも貴族さま並みに魔力の高い方が生まれるので、そういう人は貴族さまに雇われたり、養子縁組で貴族さまになったりもしますね」


 おおお、魔力量って身分を超えるのか。それは確かに大事だわ。


「かくいうあたしの一番上の兄がそれなんですよ」


 ハンナとだいぶ年の離れた一番上のお兄さんの魔力量が多くて、しかも賢かったから特別な学校に入学して一代限りの貴族の称号を貰ったそうだ。

 そんな出世は地方都市では一世代に一人出るか出ないかの大事で、ハンナの実家は今では名家に祭り上げられたらしい。

 じゃあ、ハンナは名家のお嬢様って事?


「あたしはですねぇ、魔力が本当に少ないんです。兄さんが教えてくれたんですがね、普通の人が10なら兄さんは50、あたしは1なんだそうです。あたしの分、兄さんにあげちゃったんですかね。そりゃあ小さい頃は悔しかったですよ。皆が指を鳴らせばろうそくに火をつけられるのにあたしだけ火打ち石を使わなきゃならない、他の兄弟達が魔力を流して遊ぶ玩具をあたしだけは扱えないとかねぇ」


 でも、とハンナは私の頭をなでてくれた。


「魔力が少ないあたしだから出来るお仕事もあるんですよ、嬢さま」

「それはなあに?どんなお仕事?」

「それはまた今度のお話にしましょう。そろそろ終わりの鐘がなりそうですよ」


 ハンナは布団をかけ直してくれ、いつの間にかつけられていたろうそくの灯りを消した。

 起きてから今まで頭の中に新しい知識が一杯詰め込まれてもうぱんぱんだ。

 そのせいなのか今夜の夢でクラウディアちゃんに会うことはなかった。

 そしてがっつり翌日熱を出した。

 また具合が悪くなったと大人たちが騒がしかったけど、たぶん知恵熱だと思う。

 ハンナごめん。責任を感じないでね。





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