9.交渉
「俺の報酬取り分を取り立てに来た」
腕を組んで戦闘態勢。睨みつける。
「こんなことしてないでさっさと治療してこい」
「ほとぼりが冷めたらちゃんと払うから」
「ほとぼり?なんのほとぼりだ?今すぐ払え!」
交渉が始まるとすぐに俺は怒り出した。
アレスは相変わらず俺が理解できないことを言ってくる。
「今はだめだ。いつか払う」
「いつか?いつかっていつ?適当なこと言って逃げるだけだろ!」
「何が不満なんだ?こんな大金5人でも4人でも変わんねーだろ!」
「10年来の親友を貶めてまで金が欲しいのか!」
俺は思いつく限りどんどんアレスの行いを咎めた。
「不満ならある。扉や宝箱開くのを毎回俺にやらせていただろ。なんでも面倒ごとを俺に押し付けやがって!」
「それが前衛の役割だろ?!」
「神官が負傷したら誰が治療をする?現に俺が負傷したら誰も治療できなくてこのザマだ!」
「それなら俺があの変化の薬を浴びたら助けられたのか?」
「……火傷なら治せる」
「あの場所で治すのか?」
「昔俺が罠で大けがをしたときお前がどうしたのか忘れたのか?」
「あれは仕方がなかった」
「治療には時間がかかる。治療している間にモンスターに囲まれたら危険だ」
「応急処置にとどめて地上に戻ってから治せばいい」
「それなら今回と同じだな」
「現地で応急処置はした。地上に戻ったのだからさっさと治療したらどうだ?」
俺に比べてまだ落ち着いてやがる。その落ち着き具合に腹が立つ。
確かに罠があるかもしれないプレッシャーを毎回続けるのはつらい。体験したので痛いほどわかる。変化の薬を浴びた俺はもう二度とごめんだ。
だがパーティには役割というものがある。誰が負傷しても結果は同じなのは前回と比較すればという話だ。安全な場所を見つけてキャンプができれば神官が残っていた方良い。
今度は俺の不満をぶつけた。
「だいたいお前が集めたメンバーは一体何なんだ?」
「危険な探索だったから前金渡したのにいつもの装備で来やがった!」
「死ぬかもしれないから出来る限りの最高品質の装備くらい揃えろっての!」
「全部酒代にでも消えたか?!」
「どんな鍵があるかわからないから様々な鍵開け道具を買いそろえた」
「今回の速度重視の探索の要求通りに鞄だって新しいものを買い直している」
「ポーションも値段は高いが純度の高いものに厳選している」
「それに装備は買ったばかりの物より使い慣れた物のほうが信頼できる」
「手入れは行き届いていたし、実際に戦闘も問題なかった」
「それは結果論だ!もっと強敵が出てきていたらどうする?」
「そんなに使い慣れた装備がいいのなら神殿で祝福してもらえばアンデッド特攻になるだろ!」
「……祝福をしたらアンデッド特攻になる?……今知った」
「高位の神官様と長年の付き合いがある俺でも知らないんだ。無理もないだろ」
「なんだったらお前が祝福してやることもできたのにどうしてしなかったんだ?」
「彼らなりにベストを尽くしていた」
「不備があるならダンジョンに行く前に指摘することも出来たし、希望があるなら事前に言えば済むことだろう?」
「とにかく騒ぎを起こしたくない」
「もう帰ってくれ」
話は平行線でこれ以上話を続けても意味がなさそうだった。だが俺は引き下がらなかった。不毛な口喧嘩が続いた。
感情的になった俺はアレスの胸倉を掴み、そのまま怒鳴りつけてやろうと思ったがハッとした。またやってしまった。
昔も一度だけ口論になったことがある。その時も俺はこうやって胸倉を掴んで怒鳴りつけた。アレスをひどく動揺させた。俺は力関係をわからせてやった高揚感があった。
だが俺はアレスのことは尊敬していたし対等な関係を望んでいた。すぐに謝罪をして関係修復を試みたが、随分と時間がかかった。
もう二度とするまいと誓ったがまたやってしまった。