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 -5 『暗雲たちこめる様子です』

 それから、道すがらに城下町の市場で名産品のお菓子などを食べ歩いたりした。


 外の生地は大福のようなもっちりとした弾力で、中には甘味と酸味のあるドライフルーツが入った、手の平サイズのお菓子だ。どうやらリュクセンでは有名なものらしく、同じような商品を売っているお店が数軒おきに並んでいるほどだ。


「この国を治めるニール王が大の甘い物好きでねえ。この『甘露餅』が一際お気に入りで、それから何十年と、この町の名物として広まっていったのさ」


 お菓子屋の軒先で店主の女性がそう教えてくれた。


 ボクもまだ人里にいた頃は幼く、この国の王のこともよく知らない。


「よっぽど愛されているんだね、ここの王様は」

「そうさね。もう五十年もこの国を平和に治めてるんだから。ただ跡継ぎにはなかなか恵まれないというのが残念だけれどねえ」

「子供がいないの?」


「いや、いるよ。ただ、王位継承権一位の王子ルクレール様が先日、病魔にやられて急逝なさったらしくてね。ただでさえなかなか跡継ぎに恵まれず、高齢になってからやっと授かった期待の子だったというのに。悲しいわねえ」


「そんなことがあったんだ」


 ずっと森の中にいたから知らなかった。

 なにより愛国心などがあるわけでもないから、興味がないといえばそこまでなのだが。


 それにしてもこのリュクセンの人たちは、今の国王をよほど敬愛しているようだった。長きに渡り平和を築いてきたその実績もあれば当然なのかもしれない。


「いたっ」


 軒先にいたボクの背中に、通りすがった男性がぶつかった。簡易な兜と鎧を纏い、腰には剣が添えられている。


 その男性はぶつかったボクに一瞥もせず、そのまま黙々と歩き去ってしまった。


「なんですかあの人ー!」と、何故か俺じゃなく、ぶつかられていないパーシェルが頬を膨らます。


 そんな彼女をなだめるように、店主の女性は頭を掻きながら言った。


「町の巡回兵だね。イラついてるんじゃないかい。先日、ボードって町で暴動があったって話もあって、ここ数日はろくに宿舎にも帰れずに見回り警戒を続けさせられてるって話さね。多忙で風呂も入れてないんだろうねえ。相当疲労もたまってるんだろうさ」


 なるほど。

 確かに、何十年と治世が保たれていた最中にあれほどの騒動があったとなれば、厳重な警戒が敷かれるのも仕方がないのかもしれない。それに駆りだされる兵士の心労は大きそうだ。


 町が一つ、事件に巻き込まれた。人口の多い町ではないとはいえ、その事実は王都を確実に揺らがしているようだ。


「じゃからって一言くらいは寄越してもよいじゃろうに」


 ミレーナまで決まりが悪そうに腕を組み、去っていった兵士の背中を睨む。


 そんなミレーナの肩に手を置いて寄り添うリリオは、


「……ボードで……暴動。……えへへ」


 また急な駄洒落を自己満足に呟き、勝手に頬を赤らめて恥ずかしがっていた。


「王子の逝去。ボードの騒ぎ。随分イヤなことが続くもんだ。もうこれ以上、悪い事が起きなければいいんだけどねえ」


 苦笑しながら言う店主の女性に、「そうですね」とボクは頷く。そんなボクらの隣で、エイミは晴れない表情を浮かべたまま、どこか中空を見やるようにぼうっとしていた。


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