-4 『ひとつの終わりの始まりです』
その日の昼すぎ。
長い休息を終えたボクたちは旅を再開させることにした。
身支度を済ませ、ふかふかなベッドに根付いた腰を名残惜しく持ち上げる。
「私たちの旅も、次の町で最後よ」
ふと、襟元を正しながらエイミが言った。
理由も目的も聞かされず、ただ手を引かれるままについてきたこの長旅。いつまでも続くんじゃないかとすら思えていたその旅は、しかし突然に終わりを告げられた。
「……そっか」
思えば急にやってきて、ボクが必要だと無理やり連れ出されたことで始まったこの旅。
何故ボクなのかはわからないけれど、生まれて初めて誰かに必要とされたみたいで、内心凄く嬉しく思ったことを覚えている。
それからリリオを助け、ミレーナと事件に巻き込まれ、ついでにパーシェルもくっついてきた。
短くとも、詰まりに詰まった日々だった。
そんな旅が、終わる。
今いる宿場町より先の町はひっつしかない。
王都――リュクセン。
そこでなにが待っているのだろう。
そのあとにボクはどうなるのだろう。また独り、森に戻るのだろうか。
そんなことを物憂げに考えながら、エイミの身支度が整うのを待った。
◇
宿場町を出てから丸一日ほどかけて、王都リュクセンへたどり着いた。
切り立った山々に囲まれた天然の要塞の中にある大都市で、この国の三割近い国民がひしめき合っている。
町の中央に引かれた大通りにはたくさんの馬車や人が行き交っており、喧騒の絶える気配もないほどに賑わいを見せていた。
荷馬車がいくつも続いていて、なかなか町に入れない商人たちで門の検問所は混雑気味だ。相当な数の物流が行き交っているのだろう。
そんな主幹道路が延びた先、ねずみ色の山の麓には、町のどこからでも姿を窺えるほどに巨大な王城が佇んでいた。
「すごい町だね」
「この国の心臓部だもの」
唯一の入り口である巨大な吊り橋式の門を抜けながらボクが呟くと、エイミはさも平然と答えた。
「ただ大きいだけのつまらない町よ」
そうぼそりと呟いたエイミは、ボクたちを先導してどんどん進んでいく。
随分と勝手を知っている様子で、人混みの多い市場の手前などを裏路地に入って迂回したりと、雑多に混みあうリュクセンの町をすいすい泳ぐように歩いていく。
「エイミ、土地勘があるの?」
「まあ、ここに家があるからね」
「そうなんだ」
つまりは帰郷といったところだろうか。
けれど、わざわざそのためにボクを連れてくる必要があるとは思えないけれど。
――ま、まさか。
勝手にボクの脳内で妄想が広がってしまう。
異性を実家に招くなんて、まるで親元に婚姻の挨拶に伺うみたいだ。
まさかボクも……なんて思ったけれど、見ず知らずのボクのところにいきなりやってきてすることではない。淡い妄想も一瞬で砕かれてしまった。
「なにやらスケベな顔をしておるのじゃ」
「ええっ?!」
ふとミレーナに顔を覗きこまれた。
つい妄想でにやけてしまっていた口許を引き締める。
けれども頭に浮かんだエイミのドレス姿は綺麗で可愛らしくて、また心臓がドキドキした。
「……手汗」
「うわあ、ごめんなさい!」
エイミに指摘され、ボクは慌てて謝った。
最近は慣れてきたのか少しマシになってきたと思ったのだけれど。克服するのはまだまだ先のようだ。
エイミと手を繋いだままではろくに変なことも考えられない。
けれども、森の中にいる頃には思いもしなかったことだ。それが少し嬉しくもあった。




