32「人類最終防衛ライン」
新たな仲間を得たティーパたちは、デホティッド皇国の北にあるチェイフォレート共和国の都、プロサガーデに向かうため、皇都リギトミを発った。
結局、ガーゴイルがどこから現れたのかは分からなかったが、誰も死ななかったため、それで良いと思っていた。
実は、あの襲撃は、ある人物が意図的に仕掛けたものだったのだが、ティーパたちには知る由も無い。
※―※―※
太陽の光が燦燦と降り注ぐ中――
馬車から見える景色は、砂漠地帯から、温帯の荒野へと徐々に変化していく。
ティーパが持っているパンツの内の一つを貰って、物陰で穿いたマーサは、彼らと共に馬車に乗り込んでいた。
ただ、今回は、行商人の男性――トスマルには頼まず、馬車も、他の業者から借りたもので――
――更に、馬車にも拘らず、馬はおらず――
――代わりに――
「ドワハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
――あの感動的な別れの場面は何だったのか、闘気に包まれたワードフが、ティーパたちを乗せた車体を縄で引っ張りながら、猛スピードで走っていた。
「さすが父ちゃん! 格好良い!」
「そうじゃろそうじゃろ! ドワハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
二頭立ての馬車よりも遥かに速いスピードで、しかも休憩は一切無く、走り続けて――
※―※―※
「では、またな! マーサと若人たちよ!」
「ありがとうございました!」
「助かりました。もぐもぐ」
「おじさん、ありがとうなの!」
「ドワハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
――馬車で三日掛かる距離を、一日で走破してしまい、更に、そのまま馬車を引きつつ折り返して、皇都リギトミへと走り去って行った。
「本当、出鱈目な強靭さね……」
いつの間にか辺りは真っ暗になっている。
「とうとう着いたの!」
一行の目の前には、チェイフォレート共和国の都、プロサガーデ。
そして、その背後には――
(天然の要塞……か)
雲を穿つ連峰――
――悠然と聳え立つ、トレウォリア山脈があった。
「お腹空いたの! まずはご飯なの!」
「僕もお腹空いた!」
「もぐもぐ」
馬車では空腹で元気が無くなっていたリカと、空腹でも「どわははは!」と筋トレをして元気だったマーサが、プロサガーデに到着したことで、どちらも元気一杯に主張する。
「はいはい。まずは宿を取ってからね」
まるで母親のような受け答えをするアン。
ティーパたちは、城門の衛兵二人に冒険者カードを見せてやり取りをしつつ、今までに訪れたどの国の都よりも、〝強固な城砦〟という見た目を持つプロサガーデの中へと、入って行った。
※―※―※
安宿を確保した一同は、安そうなレストランを見付けて、入った。
「美味しいの! 生き返るの!」
「母ちゃんのご飯程じゃないけど、美味いな!」
食事をしつつ(マーサは当然のように、茸料理を頼んでいた)、ティーパは、ここから〝北〟の地理について、考察する。
今彼らがいる都、プロサガーデの背後に聳えるは、トレウォリア山脈。
その北部にある、グロモラージ平野――ダンジョン外で唯一モンスターが出没する地域――からのモンスターの侵入を防いでいるのが、このトレウォリア山脈だ。
プロサガーデは、トレウォリア山脈南側の麓に位置する。
モンスターたちに対する最終防衛ラインであり、ここを突破されては、自分たちも被害を免れない、という事から、他国からの援助もある。
尚、山脈によってモンスターを阻むと言っても、限度がある。
そこで、陸路・空路問わず、モンスター〝のみ〟に対して発動する自動防衛装置――魔法罠が展開されている。
モンスターが越えようとすると、最上級雷魔法が発動、凄まじい威力の雷撃によって、殆どのモンスターは死ぬ。
万が一、侵入を試みるモンスターが雷属性で、雷に耐性があって効かない、という時があっても、問題は無い。
その場合には、代わりに最上級炎魔法が発動、それでも効果が無い時は、最上級氷魔法が発動するからだ。
この魔法罠は、人類を守るために、四百年前に勇者が仕掛けたものだ。
一説によると、基本的にモンスターがダンジョン内にしか棲息しないのも、勇者が何らかの方法を用いて、ダンジョンにモンスターたちを閉じ込めたからであるらしい――が、これは本当かどうかは定かではない。
と、そこまで思考したティーパだったが――
「何考え事してるの、お兄ちゃん? リカの事を考えてるの? 奇遇なの! リカもお兄ちゃんの事を考えてたの!」
「せっかくのご飯が冷めるぞ! 早く食べろ、ティー兄!」
――リカ(とマーサ)に話し掛けられ、頭の中に思い描いていた事を、言葉にする事になった(リカの影響なのか、マーサは、ティー兄と呼ぶようになっていた。リカの時には、「あんたは妹じゃないでしょ!」と突っ込んでいたアンだったが、もう諦めたようで、溜息をつくだけで、何も言わなかった)。
「さすがは勇者ね! 四百年経っても、未だに機能し続けるような魔法罠を仕掛けるだなんて!」
ティーパの話を聞いたアンが、勇者を褒め称える。
ちなみに、四百年前、死闘の末に魔王を封印したのが勇者である、という事は、この世界の者なら、子供でも知っている。
「いや、どれだけ魔力が多く、強力な魔法を扱える者であっても、基本的に死後には、その魔法の効果は切れるはずだ。ただ、〝対象者に対する深い恨みがある者〟による〝呪術魔法〟で、とかなら、死後も多少は効果が残る事もあるみたいだが、それでも数百年続くなんてのは聞いた事が無い。普通は有り得ない」
ティーパの発言に――
「じゃあ、もしかしたら、その勇者がまだ生きてるかもしれないの!」
――長年病床に臥せっており、冒険への憧れが爆発しているリカが、目をキラキラと輝かせる。
「いや、勇者は、エルフでもドワーフでもない、普通の人間だったんだ。そんな訳は無い」
「な~んだ! 詰まんないの!」
リカは、頬を膨らませながら、シチューを掬ったスプーンを口許に運んだ。
※―※―※
食事を終えた後は、宿に戻って、宿代を浮かせるために、四人で二階の同じ部屋に寝た(尚、デホティッド皇国皇都リギトミにて、Eランクダンジョンとはいえ、暫くクエストをこなしたティーパたちは、少しだけ路銀に余裕があった。無論、無駄遣いする訳にはいかなかったため、節約はしていたが)。
「可愛い女の子が三人もいるけど、寝てる間にパンツ食べたら駄目よ!」
「いや、食わんし。ていうか、もう食ったし」
「まだあたしのは食べてないでしょうが!」
「食べて欲しいのか?」
「あんたなんかに食べさせる訳ないでしょ!」
「じゃあ、どうしろと」
「リカは、お兄ちゃんにだったら、パンツ以外も食べられても良いの!」
「あんたはこっちのベッドでしょ!」
「いや! お兄ちゃんと一緒に寝るの!」
「どわはははははははは!」
「あんたは筋トレやってないで、早く寝なさい!」
※―※―※
そして、翌朝。
「どう? 匂い、する?」
「……する……が……」
「また、ダンジョンに行ってるパターン?」
「いや、これは、そういうのとはまた違う感じだ……」
宿の一階にあるレストランで食事をした後。
一行は、ティーパの〝鼻〟で、冒険者になる才能を持った人物を探していた。
彼らは、〝魔法使い〟を探していた。
先日のガーゴイルとの一戦で、〝飛行魔法を扱える、または高空にまで届くような強力な攻撃魔法を扱える者がいないと、飛行タイプのモンスター相手には、分が悪い〟と言う事を、思い知らされたからだ。
無論、才能が開花したマーサなら、ワードフのように、闘気を纏った上で小石を投げて、まるで凄腕の射手のように、高空の相手を射抜く、という事が可能かもしれない。
が、マーサだけに頼るのは、どう考えてもリスクがあり過ぎるだろう。
「また違う感じ、ってどういう事?」
「いや、俺にもよく分からんが……。いつもと違う感じで、方向も掴みにくい……」
俯いて思考するティーパに――
「屋台行くの! 甘い物食べるの!」
「良いな! 僕も食べる!」
リカとマーサが、銀杖と拳を振り上げた。
「さっき朝食食べたばっかでしょ?」
「甘いものは別腹なの!」
「そうだ! 別腹だ!」
「いやまぁ、そりゃ分かるけど……」
という事で、中央通りを歩きながら、露店巡りをする事にした。
「あんまりお金ないんだから、一つだけよ?」
「分かってるの!」
「分かった!」
野菜、果物、雑貨、等々。
様々な露店が立ち並ぶ中――
「これ、美味しいの!」
「こっちも美味いぞ!」
それぞれ違った種類のクッキーを買って食べるリカとマーサ。
「じゃあ、あたしも。……あ! 本当に美味しい!」
アンもまたクッキーを頬張る中、一人、〝強いパンツの匂い〟を辿ろうとしつつ、俯いて思考し続けるティーパは――
「むっ。パンツの悲鳴が聞こえる」
「………………は?」
(悲鳴て……流石にそれは、もうダメでしょ……)
眉を顰めたアンが、本気でティーパを見限ろうとした――
――直後――
「らっしゃいらっしゃい! お! どうだい、そこの嬢ちゃん? 世にも珍しい〝パンツ蜥蜴〟の姿焼きだぜ?」
「それだ」
――バッと反応したティーパが、素早くその屋台へと駆け寄る。
見ると、ジュウジュウと良い音を立て、香ばしい匂いを漂わせながら、〝パンツ蜥蜴〟なるものが焼かれている。
「……確かに、パンツね……。こんな蜥蜴、見た事ないわ……」
〝パンツ蜥蜴〟は、店主の言葉通り、確かにパンツを穿いていた。
人間が着用するそれと遜色のないパンツを。
「これをくれ」
「まいど!」
即座に購入したティーパは――
「え? それ、食べるの?」
戸惑うアンの声など意にも介さず、串に刺すでもなく文字通りそのままの姿で焼かれていた〝パンツ蜥蜴〟のパンツを脱がして、食べた。
ジュウジュウと焼かれていたにも拘らず、何故か全く焦げていないそのパンツを、咀嚼して、飲み込むと――
「「きゃあっ!」」
「うわっ!」
――突如、蜥蜴が、黒い輝きを放って――
ポンッ。
――光が消えた後、そこには――
――子犬程度の大きさで、髪は緑色のセミロングヘア、牙・二本の角・黒翼・尻尾を持つ、吊り目三白眼の褐色美幼女が、漆黒の服に身を包み、虚空に浮かんでおり――
「魔王、復活まお! 脆弱な人間どもよ、この魔王に跪くが良いまお!」
「「「!?」」」
――魔王が復活した。




