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31「陽光」

 モンスター襲来による皇都リギトミに対する物的被害は、かなりの物だった。

 ――が、人的被害は、幸い怪我人だけで済み、死亡した者は一人もいなかった。


 あれだけガーゴイルが暴れ回っていたのに、何故か。

 それは、ガーゴイルの数が少なかったことと、早い段階で一匹倒せたこと、そして、冒険者ギルドの職員たちが、情報の共有に努め、尚且つ冒険者たちに協力を要請したからだ。


 現に、銀杖――魔法の杖を持っているリカを目聡く見付けた職員が、彼女が僧侶であることを確認するや否や、魔力回復薬マジックポーション(怪我を治す通常の回復薬ポーションよりも高い)を躊躇なく渡して、怪我人の治療に協力してくれと頼んで来た。


 飛行魔法を使える高位の魔法使いはいなかった皇都だが、リカと同じように最上級回復魔法を使える僧侶はいたらしく、リカ共々、町中の負傷者を治療して回った(即死した者が一人もいなかったのは、不幸中の幸いだった)。


 ティーパとアンは、回復役のリカと共に、あちこちを回って、瓦礫の下敷きになっている人々を助けていった。


 ワードフは、あの後直ぐにスーティが目を覚ますのを見届けると、娘と妻を心配してか、マーサをスーティと共に家の前に残して、自分だけが救助活動に向かおうとした。


「お前はここで、スーティと一緒に待機じゃ」


 ――が。


「僕も行く!」


 マーサは首を縦に振らなかった。


 更に、スーティもまた、穏やかに、しかし強い意志の宿った声で、告げた。


「私は~、一人で大丈夫よ~。あなたの妻は~、そんなに~、やわだったかしら~?」

「むう」

「それに~、マーサは~、何だか~、とっても~、強くなったみたいよ~? まるで~、あなたが~、もう一人~、いるみたいだわ~。私は~、大丈夫だから~、二人で~、行ってらっしゃい~」


 マーサの変化を鋭く感じ取ったスーティに、ワードフは脱帽する。


「分かった。では、マーサ。共に行くとするかのう! 怪我人救出じゃ!」

「うん!」

 

 その後、父娘は、夜の街中を駆け抜け、大勢の命を救った。


※―※―※


 そうして――


 ――夜が明けた。


※―※―※


「家は潰れてしまったが、家族全員生きておった! それなら、何の問題も無い! 生きていれば何とかなるからのう!」

「そうよ~。あなたの稼ぎなら~、すぐにまた~、新しい家を~、建てられるわ~」

「おう、任せておけ! ドワハハハ!」

「どわははは!」

「うふふふ~」


 朝焼けの中で、笑い合う親子三人。


 瓦礫と化した家の前で、しかし悲しみや絶望といった感情とは無縁に思われる明るい表情を、物陰から見たティーパは――


「行くぞ」


 ――声を掛けず、踵を返した。


「せっかく才能が開花したのに。良いの、誘わなくて?」

「勿体無いの! 仲間にするの!」


 アンとリカの言葉に、ティーパは振り返らず、歩みを進める。


「俺は何もしていない。アイツがこれまでに積み重ねて来た〝努力〟と〝執念〟が、父親を救った。それだけだ。だから、『才能を開花させてやるから、俺の冒険者パーティーに入れ』という誘い文句は、もう使えない」

「ふ~ん。ま、良いけど」

「良くないの! やっぱり、勿体無いの!」


 それぞれ違う反応を見せながらも、二人がティーパの後について歩き始めた――


 ――直後――


「待て!!!」


 ――背後から大声で呼び止められた。


 足を止めたティーパの背中に、マーサが叫ぶ。


「夕べのアレ! 君がやったんだろ!」

「さて。何の事やら」

「惚けるな! パンツ脱がされてるのに、気付かない訳ないだろ!」


 鋭い突っ込みに、アンが「そりゃそうよね」と、相槌を打つ。


 事実、あの時、ティーパは、巨岩を持ち上げようと必死なマーサの短パンを一瞬で下ろして、パンツの左右の部分を短剣ダガーで素早く切り、パンツを奪って一瞬で食べて、短パンを上げて元通りにして、マーサの才能を開花させていた。


「君たちのお陰で、父ちゃんと母ちゃんの命を救うことが出来た。借りを作ったままなんて、癪だ! 君の冒険者パーティーに入ってやる!」


 ティーパは、ゆらりと振り返ると、ビシッと指差すマーサに向かって、無表情のまま静かに訊ねた。


「良いのか、大好きな両親と暫く離れ離れになるんだぞ?」

「良い! もう、言ってある! 父ちゃんも母ちゃんも、分かってくれた!」


 すると、そこに――


「ドワハハハ! 〝ドワーフの子はドワーフ〟と言うが、流石は儂の娘じゃ! 溢れる冒険者魂に、漲るチャレンジ精神じゃのう! 何も問題ない! 行って来い! ああ、それと、改めて礼を言わせてくれ! 妻の命を救ってくれて感謝するのじゃ! あと、儂が助かったのも、お前らのお陰じゃ!」

「主人ともども~、助けて頂き~、本当に~、ありがとうございました~。不束な~娘ですが~、宜しくお願いします~」


 ――豪快に笑うワードフが現れ、スーティは頭を下げた。


「良いご両親ね」

「本当なの! リカの親の次くらいに、良い親なの!」


 穏やかな表情で呟くアンと、褒めているように見せ掛けて、実は胸を張って自分の親を自慢している様子のリカ。


「まぁ、それなら問題ないな。もぐもぐ」


 親が了承済みならばと述べつつ、胸元からパンツを取り出して頬張るティーパ。


「では、娘よ! 行って来い! ドワハハハ!」

「気を付けてね~。無理しちゃ~、駄目よ~」

「うん! 父ちゃん、母ちゃん、行って来ます! どわははは!」


 眩い朝の陽光の中、天を仰いで笑い合う父娘。


 ――こうして、武闘家少女のマーサが仲間に加わった。

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