30「化け物vs化け物」
「『隠れパンツ』」
前回の遭遇時のように、大量のパンツで全身を覆い、ティーパが隠れる(やはり、額から上が出てしまっており、更に、以前よりも保有するパンツの数が減ってしまっているため、肩も覆えておらず、見えている)。
「お兄ちゃん……それ、隠れたつもりなの?」
ディクセアの事は知らないものの、先程悲鳴を上げたアンの怯えた表情から、何かしらの因縁があるのだと推測しつつ、呆れて半眼で見詰めるリカに、だがしかし、アンが横から口を挟む。
「意外と気付かれないのよ、それ。……何故かは分からないけど……」
「パンツパワーだ。パンツを信ずる者は、救われる」
「何か、ヤバい宗教みたいになってるわよ!」
そんな中。
ディクセアが飛行する高度よりも高い位置にいるガーゴイルの一匹が――
「ガアアア!」
――〝敵〟と見做して、ディクセアに向かって両手を翳す――
――が。
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
「!?」
――それよりも数瞬早く、ディクセアが上空へと目を向けて、両手に持つ炎槍と氷槍の内、炎槍を無造作に投げると――
――どうやら魔法で速さと動きを操作されているらしいそれは、猛スピードで飛翔、一瞬で距離を詰めて、ガーゴイルの胸を貫き――
「ギャアアアアアア!」
――その全身を炎で包まれたガーゴイルは、焼き尽くされながら、落下していった。
「ガアアア!」
「ガアガアアア!」
「ガアアアアア!」
仲間が瞬殺された事で、同じ〝空中〟にいるディクセアを、最も警戒すべき敵であると認識した、残りのガーゴイルたち三匹が――
「「「ガアアアアアア!」」」
――眼下を飛行するディクセアに対して両手を翳し、同時に、氷柱、猛炎、巨岩を飛ばした。
攻撃特化型の上級モンスター三匹による同時攻撃に、ディクセアは――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
「「「!?」」」
――交差させた手を勢い良く外側に開くと、右上空から迫る氷柱に対しては、炎槍を、左上空から飛んで来る猛炎に対しては、氷槍をそれぞれ飛ばして、真上から飛翔しつつある巨岩に対しては、新たに生み出した雷槍を手に、自分自身が猛スピードで突っ込んでいき――
「「「ガアア!?」」」
――炎槍は、瞬時に氷柱を蒸発させて、勢いそのままに――
「ギャアアアアアア!」
――右上空のガーゴイルの胴体を串刺しにして、その身体を燃やしながら、落下させて――
――氷槍は、猛炎を掻き消しつつ飛来し続けて――
「ギャアアアアアア!」
――左上空のガーゴイルの腹部を貫き、その全身を氷漬けにして、地面へと落として――
――ディクセア自身は、雷槍で巨岩を真っ二つにしつつ――
「ギャアアアアアア!」
――真上のガーゴイルの顔面を、その手に持つ雷槍が貫通して、全身を雷撃で黒焦げにしつつ、雷槍を抜いて落下させた。
都を壊滅の危機に陥れた上級モンスターたちを、あっという間に殲滅したディクセアは――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
――そう叫びながら、眼下を見渡して――
「ヒッ!」
――アンと目が合って、ピタリと動きを止めたかと思うと――
「どこですのおおおおおおおおおお!? おパンツ男おおおおおおおおおお!」
――ギッギッギッ、と、錆び付いたブリキの玩具のような不気味な音を立てながら、ディクセアの首が、水平に傾き――
(もう、人間じゃないじゃない、アレ!)
――夜闇の中で怪しく光る、その血走った目に、アンが怯んでいると――
「誤魔化せ」
「ま、また!?」
――ティーパによる無茶振りに対して――
――諦観の境地に至ったアンが――
「あ、あっちに走って行ったわああああああああああ!!!」
――東の方向を指し示しながら、叫ぶと――
「感謝いたしますわ! 待ちなさい!! おパンツ男おおおおおおおおおお!!!」
――ディクセアは、飛び去って行き――
「お願いだから、そのまま大陸の端を越えても飛び続けて、力尽きて落ちて、海の藻屑になって欲しいわ」
「ボソッとエグい事言うな、おい」
――度重なる強烈な恐怖体験からか、真顔でそう呟くアンに、思わずティーパが突っ込んだ。