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王配たちの交流

『転生したら悪役令嬢だったので引きニートになります』2月3日に8巻発売します!

書き下ろしSSもありますのでよろしくお願いします。


 

 レナリアが獄中死した。

 その報告を受けたが、誰も大して反応を示さない。以前、レナリアの資質を見定めに来た大聖女に長くはないと告知をされていたのも理由の一つだろう。惜しむ感情は微塵もなく、やっと死んだとすら思う。

 とっくに彼女の状況は詰んでいた。

 偽聖杯の乱用による魂の損傷や寿命の消耗。美貌を願った時、複数の死人から容姿を取り換えていた。その代償も彼女に降りかかっていた。

 かつては学園や他の王侯貴族の令息たちを誑かした少女は、投獄された時は見る影もなかったという。素朴で可愛らしい顔立ちは人相が分からないほど変質していた。人に好かれるどころか、忌避されるような醜悪な容姿になっていた。

 肌からは若々しさが消え、腐食するように爛れた。骨はいたるところが歪曲して立つこともできない。喉が焼けたように声はしわがれ、髪は頭を動かすだけで抜け落ちてまばらになっていた。

 レナリアは半分以上錯乱状態にあり、自分を正しく認識できていたか危うい。苦痛が先立ち、そこまで気が回らなかったのかもしれない。

 正直、死に際の彼女は十代の少女に見えなかった。人間より、アンデッド系の魔物だと言われたほうが納得する姿だった。

 数々の罪を犯したレナリアは、己の業に飲み込まれるかごとく命を落としたのである。


「闇魔法の痕跡?」


 ミカエリスは報告書を見て、怪訝な顔をする。

 レナリアの情報とともに、グレアムの報告書も入っていた。彼はダレン邸の自室で自ら命を絶っていた。その異様な死にざまも含め、顔をしかめてしまう。

 眉根を寄せるミカエリスをちらりと見ながら紅茶を傾け、キシュタリアは頷いた。


「まあ黒魔術とか呼ばれる呪い分野に近いんだけどね。特定の人物を攻撃する魔法が使われた形跡がある。

 残された魔法陣や使われた触媒からして、対象は例の悪女『レナリア・ダチェス』だと判断されたよ。極悪犯罪者だし、そもそも偽聖杯の呪いで虫の息だから、放置されることになったんだ」


「グレアムは闇属性だったか?」


 かつては同じ学園にいた生徒同士である。ミカエリスとグレアムは学年が一つ違うが、宰相子息として注目されていたグレアムの噂は耳に入ってきていた。

 彼は確か、魔法使いに多い四大属性だったはずだ。火、水、風、土のいずれかである。他の属性を持つ者は、それらに比べて非常に少ない。


「違うよ。でも、ヤバイ魔道具に手を出してレナリアを呪ったらしい。正確には精神……むしろ魂を使って捨て身で攻撃するっていうのが正解だね」


 グレアムはかつての恋人だったレナリアを、心底憎んでいた。

 学園にいた頃は将来仕えるルーカスの目を盗み、道ならぬ逢瀬を楽しんでいた。かつてアルベルティーナが学園を訪れた際、薔薇の迷路でいかがわしいことをしていたのもグレアムとレナリアである。

 当時は情報規制があったが、ラティッチェの情報網の前では無意味だ。

 レナリアはルーカスの恋人だったが、グレアムもお気に入りだった。彼以外にも複数人と関係を持っていたが、同時に絶えずミカエリスたちにも秋波を送っていたはずだ。気が多いにしても、ここまで来るとある意味才能レベルの男好きだ。

 レナリアが惚れ薬として使っていた『愛の妙薬』。媚薬としての効能と同時に、厄介な依存症を引き起こす。その影響で酷い中毒状態にあったグレアムは、廃人状態だった。

 聖杯で齎された正気がつかの間の物であると、彼は察していたのだろう。レナリアに感謝をしているふりをして、彼女の下へ足しげく通い、呪詛に使う髪や私物を少しずつ収集していた。

 ドレスや宝石を貢ぎ、体を重ねるのもそのためだった。正気に戻った僅かな時間を、復讐に費やしていた。

 何も知らないのは父のダレル・ダレンである。当時はたまたまレナリアと同名の砂漠の聖女として扱われていたので、息子がレナリアに心酔していても気にしていなかったようだ。

 命の恩人に憧憬や感謝を抱くのはおかしくないこと。恩人だから仕方がない。ダレルは学園の悪女レナリア・ダチェスの名は知っていても、面識はほとんどなかった。砂漠の聖女レナリアは王族に連なる貴族から紹介であったし、楚々と振る舞う姿と同一視できなかったのだろう。


「あの女は悪魔の力の反動で酷い有様でしたから、発見が遅れましてね」


 同じくソファに座り、足を組んだジュリアスが頬杖を突いて言う。やる気がなさそうだが、その目は素早く書面を追っているから抜かりなく頭に入れているのだろう。


「すぐ気づいたのがアルベル以外はどうでもいい父様。その後で知ったのは、看守に泣きつかれ様子を見に行ったヴァニア卿。彼も解呪をさせる価値を感じなかったから放置だったし、唯一良心がありそうなクロイツ伯爵も多忙で萎びていたし」

 

 キシュタリアが遠い目をしながら、三人を思い浮かべる。彼らはサンディス有数の魔法使いだ。

 あのレベルの魔法使いを探すのは難しい。叡智の塔は現在、ごたついている。王宮魔術師も人事再編が行われているのだ。今まで貴族に媚びへつらい、おべっかでその地位にいた連中は軒並み解雇を宣告されている。残るは変人奇人オンパレードな、実力はあるがちょっとアレな面子だ。


「基本、国の状況は王族二人の安全と、スカスカに減った人事が優先じゃない。救う価値がない罪人にかけている時間はないんだよね」


 そう言ってキシュタリアはチーズクッキーを口に放り込んだ。風味豊かなチーズの香りと、塩味の中に仄かに感じる甘みがちょうどいい。

 嬉しそうに茶請けを食べるキシュタリアに、菓子も茶も進まないミカエリスが微妙な顔をする。


「こういう状況じゃなければ、多少は配慮されたとは思えんが」


「されるよ? 貴重なサンプルとして。悪魔憑きなんてレアでしょ。魂を侵食する呪いってマニア垂涎じゃない? グレアムの使った呪詛もかなりエグイものだし。自分の命と魂を使って相手を絶対に潰すって感じ。

 ほら、カイン・ドルイットっていたじゃん。レナリアに魔物にされて、謁見の間で暴れたの。あの死体、叡智の塔で保存されているらしいよ」


 元魔法特待生のカイン・ドルイット。彼もまた学園の生徒だった。今はその成れの果てが貴重なサンプルとして残っている。

 彼の遺体を引き取ろうと動く親族もいなければ、人間扱いもされていないからこその結果だ。

 レナリアとグレアムも似たような立場なので、余裕があれば貴重なサンプルとして引き取りたがる者がいただろう。


「ともあれ、アルベル様には獄中で死んだということでお願いしますね。妙にあの女を気にしているので、死因は偽聖杯の後遺症とだけ伝えてください」


 嘘ではない。それがレナリアを蝕んでいたのも事実だ。玉突き事故のように起こった、グレアムとの痴情の縺れの果ての呪殺までは言わないでいい。

 ジュリアスは基本、アルベルティーナに対して過保護だ。従僕時代はここまで甘やかしていなかった。あの時は主従という絶対的な差があり、多少の気安さはあっても必ず一線を引いていた。それがなくなった今は隙あらば可愛がっている。

 

「そのうち噂は出回るでしょうけれど、ほぼ黒のグレーですからね。もともと死ぬのは予定調和です。必要ならば、閣下がお話するでしょう」


 閣下とはグレイルのことだ。キシュタリアに代替わりをし、現在無爵位だが鬼のように役職に就いている。

 ラウゼスに頼まれ、現在は臨時で宰相にまでなっていた。一時死亡扱いだったのにそれはいいのかと批判が出るかと思いきや、猫の手も借りたい忙しい宮中では誰もが黙る。下手なことを言えば、魔王閣下が受け持っている仕事が転がり込んで過労死ルートが開拓されてしまう。賢い人間ほど、貝のように口を閉じるのだ。

 一番文句を言える立場の四大公爵家の当主全員が黙認どころか『逃がすか、働け』と思っている状況だ。

 ちなみに、四大公爵家の方針は領主的にはフリーとなったグレイルに厄介な領地を押し付けてやると息巻いている。性格に難はあるが、グレイルほどの手腕の持ち主はいない。私腹を肥やすために、横領など悪政は行わない男でもある。


「アイツに暇を与えたら、ろくでもないことをする。王太女殿下絡みならともかく、それ以外にはとことん冷酷な奴だから」


 アルマンダイン公爵からのありがたいお言葉だ。長年付き合いがある人物だけあってグレイルのことをよく分かっている。吐き捨てる際の面構えも違う。

 ちなみにろくでもないとは具体的にどんな内容だろうか。婿イビリが入っているのは間違いない。


「そういえば、アルベルと閣下は仲直りしたのか?」


 二回目の親子喧嘩が勃発したものの、割と平和な気がする。以前とは違い、アルベルティーナがへこんでいない。それどころか、何やら楽しそうな気配すらしていた。


「しては……ないですね」


「あー、一応は……」


 ジュリアスとキシュタリアの歯切れが悪い。ミカエリスが首を傾げるが、それ以上は言わない。

視界の隅に惹かれる黒髪が見えた気がした。思わず目で追えば、窓から外が見えた。庭園の通路を歩いている件の姫君がいる。侍女のアンナとベルナが傍におり、護衛にレイヴンが控えている、いつもの布陣だ。

 アルベルティーナの手には大きなバスケットがある。彼女が手荷物を持つなど滅多にない。それらは使用人が持つ物であり、貴婦人の手にするのは扇やハンカチくらいだ。

 不出来な従者なら怠慢で片付けられるが、アンナたちは忠実で有能な使用人だ。アルベルティーナが持ちたいと訴えたから、彼女の手にあるのだと推測できる。




読んでいただきありがとうございました。

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