才平を待つ
次の夜、玄十郎は腰の刀にしっかりと手をかけて、才平を見失った辺りの山道で待ち伏せた。
もう一方の手は、胸に下がった形見の守り袋を握り締めている。
毎晩、酒を飲みに出るのであれば、帰りもここを通るはずである。昨夜見失った辺りで待っていれば、必ず捕まえられるはずである。
暗い山道である。フクロウが鳴き、遠くから獣の吼える声まで聞こえる。無数の蚊がやってきて、容赦なく刺す。
山道の木々は、鬱蒼と生い茂っている。
時折吹く風に枝が揺れ、葉が鳴り騒ぐ度に、玄十郎ははっとして刀を抜きかけた。
その度に枝と枝との間を洩れてくる月の光が山道を照らすと、ごつごつとした岩があちこちに顔を出しているのが見える。
こんな道を明かりもなしに平然と歩いていったところを見ると、才平という男、ただの百姓ではない。
そもそもこの山道は、もう随分と人里から離れている。
いったい、どこに住んでいるのだろうか。
なづきは、才平が働いているのを見たものはないと言った。
すると、山奥に隠れ住んでいても不思議はない。
だが、いったい何のために?
そんなことを考えながら、玄十郎は道端に潜んで才平を待ち続けた。
こうして待っている間にも、不安がないわけではない。
あの裏通りで襲ってきた相手が、ここにもやってこないとは言い切れないのだ。
実のところ、それを考えて、才平を待ち伏せるのをよそうかとも思った。
だが、それではいつまで経っても才平に教えを乞うことはできない。
一か八かの賭けであった。
才平の技を身につけることができなければ、いずれ殺されてしまう恐れはつきまとう。生きている限り、怯えて逃げ回るしかないのである。
玄十郎は、じっと待ち続けた。
何度となく風が吹き、木々がゆれ、月影が山道を照らした。
その影で、月が随分と動いたのが分かったが、才平は来なかった。
それでも玄十郎は一睡もすることなく待ち続けた。
実を言うと、その玄十郎を見張る者たちがいた。
逢坂無道と名乗るあの長身の男と、その部下たちである。
部下の数は3人に増えていた。
彼らは玄十郎から山道を挟んで少し離れた辺りの木々の根元辺りに、1人ずつ分かれて潜んでいた。
各々は随分と間を空けて隠れているのだが、風の音に紛れて囁く声だけで、言葉を交わすことはできた。
木々の枝がざあっと鳴って、部下の問う声がした。
「斬らなくてよろしいので?」
答えはなかった。
ややあって、再び風が木々を揺らすと、逢坂無道の声が答えた。
「いつでも斬れるものは斬らん」




