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スキルを奪われてお詫びチートをもらったので余生を楽しく……過ごさせてくれ  作者: 紫楼


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序章 男しか来ないバー

 モクモクとした煙の中、俺はついため息を吐く。


 どうしてこうなった……


 好きな酒と好きな葉巻、ちょっとしたつまみを出す。

 日銭が稼げればラッキーくらいの趣味の店のつもりだった。

 繫盛させる気もなかったし、なんなら夜職のお姉さんたちのたまり場になったら労働も楽しいかも……なんて思っていた。


 有難いことに俺の店は繫盛している。

 連日大賑わいだ。

 だが見渡す限り、おっさんしかいないのはどうなんだろう……


「潤いがない……」


 グラスを磨きながらぼやく俺に肉屋の主人ジョニーが爆笑する。


「そいつぁよぉ、おめえさんよ、こんなしみったれたクサの煙が蔓延してるような店に女はこねぇって」


 確かに。喫煙で常に何かしらの香りのついた煙が充満しているし、酒の匂いもかなりきつい。

 ただ換気には気を使っているし、ヤニや匂いが染みつかないように毎日閉店後には〈洗浄〉魔法を使ってはいるのだ。


「はっはぁ、かわいこちゃんに来てほしかったら花の一つでも飾っておしゃれに気を使った内装にしないとなぁ」


 鍛冶屋のロビンがエールを飲みながらもっともなことを言う。


 言い訳をさせてもらう。この店は先代のマスターから譲り受けた年季の入った木造の一軒屋だ。

 もともとしみったれた店で風情があるのが気に入って譲ってもらった。

 ジジィだったマスターは隠居して都市部に住む娘夫婦のもとに行きたいって話だったからな。


 好きなように改装して山小屋のようなコテージにカウンターとテーブルを並べただけの色気も素っ気もないシンプルな造りだ。


 そこにうまい酒とうまい葉巻、ちょっとしたつまみ……が、なぜか近所のおっさんたちのツボにハマってしまったようで、この有様である。


 自分が好きなものを出したら流行る……うれしいことだが、ここまでしょっぱ悲しいおっさんのたまり場になるとは思ってもみなかった。


 流行らなければ、こんなモクモクしていないし、空き時間にちょっと洒落たメシを出すことも考えたんだが……


「おーい、酒がなくなるぞぅ入れてくれぇ」

 床屋のベンがウィスキーのお代わりを要求してくる。

「お前、いい加減ツケ払ってから言えよ」

「おー、またツケてるのかよ。ベン」

 

 また、じゃなくて、ずっとなんだぞ。いい加減に出禁にしたい。客の半分くらいはツケだ。ほとんど月末払い……半年も、いる。

 ツケが利くのは自前の店を持っていて逃げようがないヤツはだけだがな。


 カランコロン


 入口のベルが鳴る。一瞬喧噪がやむが入ってきた男を見て元の騒がしさに戻る。


「……らっしゃい」

 彼はいつも遅くに一人でやってくる。カウンターの一番奥の席が指定席だ。

 いつのころからか彼以外はその席に座らなくなった。


「マスター、いつものを」

 柔らかくトーンの低い声がお決まりのセリフを吐く。


 ムサいおっさんばかりの店に、謎の美しい青年が一人。彼が来ると店の空気が少し華やぐ。

 黒く艶やかな長い髪。整った顔、そしてどこまでも上品な所作。只者ではない雰囲気を持つ彼はユーリと名乗っている。


 彼が初めて来た日はおっさんどもがびっくりしてソソクサと帰っていった。そして次からは彼が「私のことは気にせずいつも通りに」と言い、話しかければ気さくに答えるのでその存在に慣れていった。


 夜の店の鉄則。訳アリ客には余計な口は開かない。


 話したければ勝手に話すだろうし、話したくなければそれはそれ。


 客が望むような場を提供するだけだ。


「どうぞ」

 いつもの年代物のウィスキー、葉巻を出す。この店では少し高めのものだ。


 彼は慣れた手つきて葉巻の吸い口を切り、ガスライターで点火させる。

 しばらく待って少し溶けたウィスキーを一口。


 漂い始めた高級な葉巻の香りをジョニーたちが後ろの席で楽しんでいる。いつもの風景だ。


 気取った店ではない場末の酒場が、この瞬間だけ、静謐さを醸し出す。


「はぁ……」


 その薫香が店の中に広がって、しばし優美な余韻を楽しんだジョニーたちは「今夜もいい夢が見れそうだ」と言いながら帰っていく。


「マスター、一杯どうぞ」

 ユーリはまず自分を整えて落ち着いてから俺に一杯、ごちそうしてくれる。

「ありがとう」

「乾杯」

 いつものやり取り。


「今日のおすすめを」

「今日はこれがいいと思う」

 彼の二杯目はいつも俺のお勧めだ。

 毎日ではないが頻繫に来るユーリに毎度違う味わいを差し出すのは少し大変だ。


「ん……フルーティだね。少し甘くて好きな味だ」

「そう、良かった」


 ユーリは淡々と静かに葉巻を楽しみ、ウィスキーを飲む。ゆったりした時間が流れるうちに常連たちがほとんど帰っていった。


「……最近国境付近が騒がしいから、マスターも気をつけておくといいよ」

 普段は仕事やほとんど話さないユーリがポツリという。


 ここはランダルイルク国の寂れた町スフィトで隣国カーマヘルトとの国境からは少し離れている。

 たまに冒険者も来るがオイタをするようなやつは店から追い出している。


「んー、まぁ、なんかあったらなんとかするさ」


 俺はしがない酒場のマスターだが、やるときはやれる男だ。


 なんてな。





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