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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
最終章

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56 異変

 アルベールが次期魔王となってから、1年が過ぎた。

 大きく変わったことといえば、我がランカスター転職神殿が、ランカスター転職神殿本部になったことだろうか。


 というのも、この町には転職者だけでなく、多くの転職神官がやって来た。

 その多くは、現在の転職神殿本部の態度に腹を立て、新天地を求めてこちらにやって来たのだ。


「一般の転職神官への待遇は最悪です。それに転職者を金蔓かねづるとしか思っていません。私たちは、転職させるだけの魔道具ではありません。転職者の人生に寄り添い・・・」


 ここに来た転職神官の多くは理想に燃える者が多かった。

 当然、現在の転職神殿本部とは、折り合いが悪かったと推察される。


 そんな中、やって来た転職神官の一人が、ある提案をした。


「どうせなら、独立しましょう。新たに転職神殿本部を作るのです」


 私もお父様も悩んだ。

 こんなことをすれば、現在の転職神殿本部と諍いになる。そうなると、ここにいるゴブリンたちやアルベールにも迷惑が掛かる。

 私とお父様は、アルベールに相談をした。


「何を迷うことがある?転職によって、貴殿らは多くの者の人生を救った。俺もその一人だ。貴殿らが新たに転職神殿本部を立ち上げるのなら、全面的に支援しよう。より多くの者が幸せになれるのなら、次期魔王として、当然やるべきことだと思っている」


「ありがとうございます。アルベールさんに気付かされました。頑張りますね」


 こうして、ランカスター転職神殿本部として、活動を開始した。

 本部となり、増えた業務の一つが転職神官の育成だ。こちらはお父様が中心となって行ってくれている。私もその補佐として、転職神官の研修をしている。



 そして、もう一つ・・・


「私が支部長ですか!?む、無理です・・・」


 そう言うのは、ショコラだ。

 旧ランカスター転職神殿をランカスター転職神殿支部として、新たに開業することになった。目的は、転職神官の育成のためだ。実際に転職や指導を行いながら、転職神官の技能を高めていく。そして、その支部長にショコラに白羽の矢が立ったのだった。


 お父様が言う。


「ショコラさん、ランカスター転職神殿支部は、転職神官の育成が目的だ。支部長の育成も兼ねてね。それに転移スポットも設置してもらえるし、何かあれば、すぐに応援に駆け付けられる」


 私もショコラを励ます。


「ショコラなら大丈夫よ。苦労することは多いだろうけど、転職神官として、一皮剥けると思うわ」

「分かりました。やらせてもらいます」


 こうして、現在の転職神殿本部と対立することを恐れず、新たにランカスター転職神殿本部を開業させたのだった。



 ★★★


 ランカスター転職神殿本部となってから、多くの転職神殿がこちらに加盟してくれた。この大陸の三分の一の転職神殿が加盟することになった。

 加盟した転職神殿の新人神官の多くが、ホープタウンに研修で訪れる。

 皆、初めて見る魔族に驚いていたけどね。

 多少のトラブルはあったものの、大きな問題は起こっていない。


 それと最近では、転移スポットを利用してカール王子が頻繁に訓練にやってくるようになった。

 本人は修行のためと言ってはいるが、よくザバスさんが鬼の形相で連れ戻しに来る。執務から逃げたいだけなのかもしれない。

 何度か私はカール王子に注意をした。


「カール君、領主としてのお仕事もきちんとしてくださいね。人生のすべてが修行なんですよ」

「わ、分かったよ・・・」


 それ以後は、ザバスさんが連れ戻しに来ることは、ほとんどなくなった。



 そんなある日、カール王子はいつも通り修行に来ていた。

 今は訓練が終り、私やアルベールとお茶を飲んで談笑している。そんなところに、血相を変えたザバスさんが現れた。


「大変です!!殿下」

「何だよ。ちゃんと仕事は終わらせてきただろ?」

「それどころではありません。王都が・・・」


 ザバスさんが話した内容は、衝撃の内容だった。

 ホーリスタ王国の王都に転職神殿本部の関係者とその上部組織であるマーズ教会の関係者がやって来たという。用件は、新たな転職神殿本部を作り、マーズ教会の教義に違反する魔族との交流を持っていることに対しての抗議のためだ。


 受ける必要はなかったが、それでも話くらいは聞いてやってもいいのではないかという意見も出て、この話を受けることになった。

 しかし、これが間違いの元だった。


 交渉の席に着いた国王陛下に急に関係者が襲い掛かる。それに併せて、王都内でもテロ行為が頻発した。手傷を負った国王陛下は、何とか王都から逃亡し、カール王子が治める領地に落ち延びているという。


「そ、そんな・・・あり得ない。交渉の場で、そんなことをするなんて・・・他の国も黙っていないのではないのか?」

「そ、それが・・・」


 ザバスさんは、アルベールを見ながら、遠慮がちに言った。


「魔族と交流を持つ者たちに、人間の常識は不要だと・・・魔物を駆除するのと変わらないと・・・」


「ふざけるな!?」


 カール王子が剣を手に持ち、立ち去ろうとしたので、アルベールが制した。


「カール先輩。先輩を助けるのが後輩の務めだ。まずは、詳しい情報が知りたい」

「アルベール・・・」


 とうとう、転職神殿本部やマーズ教会が形振り構わず動き出したようだ。

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