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【中断】最強魔法使いは異世界から帰りたい  作者: やまだ ごんた


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66/70

66.エイクの弟?

お読みいただきありがとうございます

今回は少し長めです

 小屋の前にはエイクとシルヴィアの草竜がいた。

「お前はお嬢さんの草竜に乗れ。俺はお嬢さんを乗せていく。ついてこい」

 そう言うとエイクはシルヴィアを抱きかかえて草竜に乗ると手綱を握った。

「ちょ――僕一人で乗ったことないんだけど」

「手綱を握ってしがみついてろ。そいつは勝手にお嬢さんについてくるはずだ。落ちるなよ」

 エイクの言う通り、僕は草竜に必死にしがみついた。草竜はエイクが走り出すと勝手にエイク――というよりシルヴィアを追いかけていった。

 草竜は獣道をしばらく走り、僕は落とされないように一人で必死に手綱と鞍を握り締め続けて20分ほどすると、ようやく平坦な地面にたどり着いた。身体強化があっても既に膝やお尻が死にそうにつらいってのに、エイクはシルヴィアを抱きかかえながら平然と前を走ってる。

 そして更に一刻ほどで以前パージが連れてきてくれたアーミットの村の跡地に到着した。

「このまま抜ける」

 エイクは草竜をさらに走らせた。

 僕もやっと手綱を握って姿勢を保てるくらいまでには慣れたのだけど、草竜は僕の意思なんか全く気にしていない様子で、エイクに抱えられたシルヴィアを一生懸命追いかけていた。


 アーミットの村を抜けてどのくらい走ったのかわからないけど、昼前に出発したはずが太陽はすっかり真上を通り過ぎていた。

 以前は道だったと思われる、草に覆われてまばらに石が散らばった地面は次第に整備された道になり、やがて石で舗装された大きな道へと変化していた。

 多分どこかの町や村に続く街道なんだろう。

 主要な道はこうやって舗装して維持するのが領主の義務だってカインさんが言ってた。

 余裕のある領地は国から決められた街道だけでなく、領地内の道の多くを舗装しているらしい。

 土を踏み固めただけの道とは違い、舗装することで獣車も安定して走ることができるから輸送効率が上がる。舗装された道が多いということはそれだけ人や物の流通が盛んだってことなんだ。

 舗装する事もそうだけど、維持にもお金がかかるからね。道を見ればその領地が豊かかどうかがわかるってアーノンさんが言ってた。

「この先に知り合いの家がある。今町に入るのは危険だから一先ずそこに行く」

 走りながらエイクが草竜を並ばせて言ってきた。

 横向きに座らされていたシルヴィアは背中を向いているので表情は見えないけれど、鞍をしっかりつかんでいるところを見ると、なんとか体調が戻ったようだ。よかった。

 舗装された道をしばらく進み、脇道に入る。

 舗装された道はまた土を固めただけの道へと変わり、周囲には木々が増えていった。

 森のようだけどシニストロの樹海よりも魔力の圧力を感じない。

 大森林から少し離れただけでこうまで違うんだな。

 森の中を速度を落として更に20分ほど走ると、大きな池のそばに建つ家が見えてきた。

 エイクは草竜をそこに向かわせ、僕が乗ってる草竜もエイクについて行った。

 二階建ての石造の家はこぢんまりしていながらも、右側に小さな塔があり、一見物々しい印象だけど、近付くと家の周辺にはたくさんの花や草が雑然と植えられていて、童話にでも出てきそうなメルヘンチックな雰囲気だった。

「来たぞ」

 エイクは小屋の前で草竜を降りると、小屋の扉をノックする事もなく開けて入って行った。

「あんた!ノックくらいしなさいよ!魔獣でも勝手に入ってきたりしないわよ!」

「魔獣はノックなんかしないだろうがよ」

「少なくともあんたよりは行儀がいいわよ」

 野太い声と言い争う声が中から聞こえる。

「何やってんだ。早く入れ」

 開けっぱなしのドアから顔を出すと、エイクは僕達を手招きしてまた中に入って行った。

 草竜の上に取り残されたシルヴィアも戸惑い気味だったけど、すぐに降りるとエイクと僕の――っていうか、シルヴィアの草竜を玄関脇に繋いでくれた。

 中に入ると、家の中はこんな森の中と思えないほど可愛らしく、古びてはいるけど綺麗に洗濯された白いフリルとリボンがついたリネンのカーテンや、窓際やテーブルには可愛い花や草が飾り付けられていた。そして、その可愛い部屋に全く似合わないエイクと、エイクによく似た男?の人が立っていた。

 エイクと違うのは栗色の髪を長く伸ばして綺麗に編み込んでまとめているところくらいで、金色の瞳も、逞しい体つきもよく似ている。

 でも、なんかおかしい。

 エイクによく似たその人は、服装こそチュニックにパンツとエイクと同じなんだけど、生成りの麻で頭からかぶるエイクのチュニックとは違い、薄いピンクに染まっていて、身ごろを紐で編み上げるタイプなんだけど胸元から大きく開いてて、なんか色気の押し付けがすごい。

「俺の弟でサルヴァ――」

「サリーよ」

 エイクの言葉を遮ってサリー?さんが手を出した。

 握手かな?

「あ……うん。シゲルです」

 僕が手を握り返すと、サリーは嬉しそうに笑顔になった。

「あら。あんたはあたしを気持ち悪がらないのね。いい男じゃない。そっちのやたら綺麗なお嬢さんは?」

 体をくねらせて僕の手をしっかりと握る。うん。この人オネエだ。この世界にもいるんだな――いや、隣にお腐れ様もいるんだからオネエくらいいるだろ。

 横目でシルヴィアを見ると、嬉しそうに目を輝かせてエイクとサリーを素早く見比べている。待て。兄弟の禁断の愛とか考えてるんじゃないだろうな。やめろ。

「サルヴァ。いい加減にしろ」

「サルヴァなんて無粋な名前で呼ぶなって言ってんでしょ」

「黙れ。こっちのお嬢さんはエスクード侯爵家のシルヴィア様だ」

「あら、貴族様なのね。これはご無礼を致しました」

 サリーは膝を曲げて頭を下げて礼をした。急に男性に戻ったようだった。

「楽にしてくださいな。あと、私の事はシルヴィアとお呼び下さい。シゲルもそう呼んでますから――エイクもお願いね」

 紹介されて我に返ったのか、貴族としての品位を保とうとしているのか、シルヴィアは引き攣った笑顔で挨拶をした。

「シルヴィアね。私の事もサリーと呼んで」

「そうさせていただくわ」

 シルヴィアが笑顔を返すと、サリーは僕達を小さなテーブルに座るよう促した。

 テーブルは4人が座ると少し窮屈だったけど、やっとゆっくり腰を下ろせる事が嬉しくて、ありがたかった。

「シルヴィア、もう体は大丈夫?」

「ええ。ありがとう。大森林の魔力ってすごいのね。シニストロの樹海の比じゃないわ」

 思い出してゾッとしているのがわかる。

 シルヴィアだってかなり魔力量は多いはずなのに、大森林の入口でもあそこまで圧されるものなのか。

 普通の人ならひとたまりもないんだな。

「おおよその話はエイクから聞いてるわ」

 そう言ってサリーが花の香りのするお茶を出してくれた。

 ハンドルが付いてない湯呑みとマグカップの合いの子みたいな陶器の器に、レースで作られた花柄の可愛いコースターが敷かれてる。誰が作ったんだこれ。

「結論だけ先に言うと、アーノンさんとパージはロワイヤの収容所にいるわ」

 やっぱり……。

「どうしてあなたがご存知なの?あなたはここで何をしてるの?」

「あたしはここで薬草を育てながらこの森を管理してるのよ。ここは大公家直轄の森なのよ」

 シルヴィアの質問に、サリーが茶を飲みながら話してくれた。

「エイクの能力が魅了なのは知ってるかしら?――あたしにも同じような能力があって、ただその対象が人間じゃないのよ」

 サリーが肩をすくめて笑った。

「エイクも似たようなものなんだけどね。あたしの能力はもう少し変わってて、魔獣に特化した魅了の能力なのよ」

「だから村にはいられなくて、物心ついた頃からここで暮らしてる」

 エイクが補足するように付け加えた。その表情はとても寂しそうだ。

「でも、エイクの能力だって魔獣にも効くんでしょ?」

 エイクだって魅了の能力を持ってて、それは魔獣にも効くから狩りの時は楽だって前に言ってた。

「俺の能力とは比べ物にならない」

 エイクが肩をすくめると、サリーも困ったように笑った。

「この能力のせいでこいつはここで叔母と2人で暮らしてたんだが、あのババアとしか接してなかったもんだから、こいつはこの通り変態になっちまった」

 エイクが悔しそうにテーブルを叩いた。悔やみポイントそこなの?

「変態とか失礼ね。あたしにとってはこれが普通なのよ。――仕方ないじゃない。こんな森で、しかもあたしが唯一知ってる人間ときたらナディ1人だったのよ?あんたと再会するまで男って存在すら知らなかったっていうのに。あ、でも大丈夫よ?今は一応あたしも自分が男って事は自覚してるし、男が好きってわけじゃないんだから」

 ケラケラと笑いながらサリーが言うと、エイクは頭を抱えた。

 なるほど。サリーが女ぽい話し方をするのは性癖じゃなくて育ちなんだな。――いや、性癖かも。

 シルヴィアを見ると心なしかガッカリしてるようだった。恋愛対象が女性ってところに落胆してんのがわかるけど触れないでおこう。

「話が逸れたわ。私は魔獣に好かれるし、魔獣の考えてる事ならなんとなくだけど読み取る事ができるの」

 サリーが続けた。

「ハンターとして生きるには狩られる時の魔獣の苦しみや悲しみを感じるのは危険だったわ。あたしには記憶はないけど、誰かが狩りをするたびに錯乱状態になってたんだって叔母のナディが教えてくれたのよ――それに、魔獣を寄せ付ける体質はあの村ではより危険だったしね。それで、物心ついた頃にはここで叔母と暮らしてたのよ」

「でも、ここにも魔獣はいるでしょ?」

 シルヴィアが不思議そうに尋ねた。

「この能力って危険な反面とても便利でね。自分よりも魔力の小さい魔獣ならある程度だけど従わせる事もできるのよ」

 そう言うと、サリーは立ち上がって一番近い窓に歩いて行った。

 そして、窓を開けると指で笛を鳴らした。笛の音が森に響くと、風もないのに森がざわざわと音を立てるのがわかった。

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