20.依頼の内容
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「お前ら、その娘は俺の連れだ。手を離せ」
アーノンさんが睨むと、シルヴィアさんの肩を掴んでいた男が気色ばんでアーノンさんに掴みかかろうとして、止まった。
「あ――あんた、アーノン……」
パージの席に座ろうとしていた男の人が、アーノンさんの顔を見て腰を抜かしたように、椅子に座り込む。
え?お知り合い?
「行き違いになっていたようですみません。シルヴィア嬢」
そう言いながら、アーノンさんは座り込んだ男を抱え上げ、残る二人に投げるように渡すと顎で席に戻るよう促し、元の席にパージを座らせた。
そして、自分も残った席に座ろうとして、静まり返った酒場に気が付いた。
いつの間にか喧騒は静まり、全員がアーノンさんを見ている。
「何を見ている」
座りかけたアーノンさんが腰を上げて店内に向かって言うと、皆一斉に視線を逸らして、各テーブルで元通り話出した。
ただ、さっきまでの喧騒ではなく、こちらを窺い見ながらヒソヒソと話しているようだったけど。
「父さん、なんでこの女を知ってるんですか」
「パージ。この女じゃない。エスクード侯爵家のシルヴィア様だ」
不満げなパージにアーノンさんが子供を叱るように言う。
「しかし、こいつ――彼女はシゲルを不審者を侮辱しました」
パージの言葉にシルヴィアさんが小さく唇を噛むのが分かった。
「お前もバロッティの事は知っているだろ。エスクード侯爵家の人間なら警戒するのは当然だ」
バロッティ――?聞いたことがあるようなないような。
「だが、シゲルはバロッティとは無関係です。理由は言えませんが、私が保証します」
シルヴィアさんに向き直ると、アーノンさんは僕の肩を抱いて言った。
バロッティというのは、80年前に王国に対して攻撃を仕掛けた、公国の元貴族なのだとアーノンさんが簡単に教えてくれた。
その時バロッティを捕まえたのがエスクード侯爵家だったため、バロッティの一族には警戒しているのだそうだ。
「バロッティの生き残りは、ノクトの村に幽閉されている。村の外にいるバロッティもいるが、全員が監視付きだから心配する事はない」
アーノンさんはシルヴィアさんを落ち着かせるように言うと、シルヴィアさんはバツの悪そうな顔でこっちを見て「疑ってごめんなさい」と小さい声で謝ってくれた。
「それで?父さんがなぜこの――彼女をご存じなんですか」
「ああ。今回の依頼だが、シルヴィア嬢の護衛を兼ねたパーティなんだ」
「は?」
パージがキレそうな顔をしている。これまで見た事ない程に怒っているのがわかる。
よくよく考えると、パージが僕やエイク達以外と話すのを始めて見たけど、冷たくない?何なら僕との初対面と同じか、それ以上に冷たいような気がする。
「まず、今回の依頼の主旨だが、シニストロの樹海に生息しているとみられる新種の魔獣の討伐だ」
パージの機嫌なんか気にしていないという風に、アーノンさんは続けた。パージのこういう態度は慣れっこなのかな。
「目撃者の情報から、オヴィーの上位種ではないかという事だ」
「オヴィーに上位種なんていないじゃないですか」
「だから新種だと言っている」
腰を浮かせたパージの肩を持って座らせながらアーノンさんが言うと、シルヴィアさんが口を開いた。
「直近で被害を受けた、シニストロの樹海に面した場所にある農場の人間が目撃したのよ。あれはオヴィーで間違いなかったと。ただ、オヴィーとは比べ物にならない程大きくて強かったと」
「それが、この――お嬢様と何の関係があるんですか」
パージの言葉に、アーノンさんが口を開こうとしたけどシルヴィアさんが手で制した。
「私が騎士になる為の条件として、この件の解決を提示されたのよ――でも、これまで先行調査に入ったパーティは皆帰らなかった。だから、父は条件を撤回しようとしたのだけど、とんでもないわ。それで結局確実に依頼を遂行できそうな実力のある者と同行する事を条件にって事になって、シニストロの町長を通じてアソンの村に応援を依頼したの」
「それで俺達が選ばれたのか。あんたの騎士ごっこのお守り役に」
さっきまでとは明らかに違う、憎しみにも近い嫌悪の表情に、シルヴィアさんも怯んだように顔をしかめた。
「護衛兼パーティだ」
アーノンさんが口を挟む。その口調は呆れているようにも聞こえる。
「目撃された上位種の名はテオ・オヴィーと名付けられた。オヴィーとは比べ物にならない魔力量であることも確認されている」
「なら俺達だけで行けばいいでしょ。なんで騎士ごっこのお貴族なんかを連れて行かなきゃいけないんです」
「それが依頼だ」
パージの言葉に間髪を入れずにアーノンさんが言い切ると、パージは何かを言いかけて口をつぐんだ。口答えを許さない言い方ってのもあるけど、それだけじゃない。
依頼は絶対だって前に聞いた。ゲームみたいに依頼に失敗したからと言ってペナルティなんかはない。だけど、依頼は受けた以上は必ず遂行しないとけない。結果が成功か失敗かというだけだ。
この場合、シルヴィアさんの護衛兼パーティとして討伐をするというのなら、それを拒否する事は出来ない。――依頼を受けたのはアーノンさんだけど、パージはアーノンさんのパーティとして来ているから、抜ける事は許されない。僕は……連れてこられただけだよね?
「今更自己紹介というのもおかしな話だが、私がアーノンでこの生意気なのが息子のパージ。そして見習いのシゲル。今回はこの4人でシニストロの樹海に入る」
あ、やっぱり僕も行くんですね。――僕を守ってくれる人はいるんだろうか。




