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1.人生はバラ色だ

お読みいただきありがとうございます。

以前上げていたものを書き直しました。

あまり面白くなってません。ごめんなさい。

 朝起きて仕事に行き、家に帰って眠るとまた朝になる。

 よくある日常だ。でも、僕はそれなりにこの生活に満足している。

 社会人4年目の僕の仕事は所謂システムエンジニアというやつだ。とは言っても、世間的に言われるような激務やブラック企業で擦り切れるまで働かされてると言うわけでもなく、社内のシステム担当ってやつだ。

 つまり、お客様は自社の社員。作ったシステムはすぐに感想が聞けるし、やった事に対してありがとうも叱責もダイレクトに聞ける。もちろん、システムトラブルなんか起こした日にはボロクソに言われるけど、それでもみんなが僕を頼りにしてくれている事は確かだ。とてもやりがいを感じられる職場だと思っている。

 前職で下請けブラック企業で擦り切れるまだ働かされていた上、元請けの失敗をこっちのせいにされて土下座させられたり、人格否定的な事まで言われて感受性が死んでたあの頃に比べるとここは天国だ。

 残業はなくもないけど、人間的な時間には仕事は終わるし、休みも基本的には土日祝。休日出勤したら代休が貰えるなんてどういう事?しかも残業代がちゃんと支払われるとか意味が分からない。


「中津君は今日も楽しそうに仕事するねえ」

 上司の江坂課長が出勤した僕に声を掛けてくれる。

 人の顔を見て挨拶なんて、前職では考えられない事だ。前職ではみんな死人のような顔で画面を見つめたまま「おはよう」と、何とか絞り出したような声で辛うじて挨拶すると言うレベルだ。隣の席の人の顔なんて未だに思い出せないくらい、画面しか見ていなかった。

「おはようございます、江坂課長。昨日のシステム障害報告を確認していましたが、SQLのデッドロックが発生していたようです――」

 前の職場ならシステム障害なんてあった日にゃ夜中でも呼び出されてたのに、ここの会社は「明日対応してください」で済むのだ。なんて人間的なんだ。

 江坂課長に簡単な報告と対処、修正案の草案を口頭で説明すると、「じゃあ、それで進めておいて。昼にレビューして問題なければ修正作業を進めよう」と、爽やかな顔で言ってくれた。

 江坂課長は30代半ばにしてこのシステム部の課長だ。

 30代に見えない。とりあえずイケメン。顔も仕事の仕方も部下ぼくのフォローも全てイケメン。

 スラっと背が高くて顔もいい。スーツもいつもおしゃれに着こなしているし、なんかいい匂いもする。なんでこんな人がシステムなんかやってんのかわかんないけど、この人が僕の上司とか、なんかもうこの会社好き。一生働く。


 そんな幸せ社会人ライフを送っていると、当然余裕だってできる。

 江坂課長に触発された――わけじゃないけど、身だしなみにも気を遣うようになった。

 前職では生きる事が最優先で、その次は仕事だったから、身だしなみに気を遣うなんて考えもしなかった。とりあえず3週間に一回10分カットで適当に整えて、通勤途中の『紳士服のまるやま』でシャツとネクタイを買う。スーツは裾上げが面倒なのでジャケットとチノパンでギリギリ誤魔化すのが基本だった。

 でも、今は違う。

 大学時代を思い起こす。僕はおしゃれが好きだったんだ。そしてそれなりにモテ――てたわけではないけど、彼女だっていた。就職してからいつの間にか連絡がなくなったけど。

 転職に成功した時、僕を引っ張ってくれた先輩に言われたことが「身だしなみはちゃんとしてから来い」だった。

 身だしなみなんて言葉いつぶりだろうかと戸惑っていた僕に、面接してくれた江坂課長が入社前におすすめの美容院や服屋をピックアップしてメールしてくれた。なんてイケメン。

 おかげで、転職初日から僕は恥をかかなくて済んだんだ。後から「面接の時の中津君は凄くくたびれていたからね。せっかく能力的に問題はないのに見た目でマイナスになるのはもったいないと思ったんだ」と言ってくれた江坂課長、もう惚れていいですか。


 身だしなみを乗り越えると余裕が出てくるわけで、そうなるとおしゃれにも気を遣うようになった。

 綺麗にカットしてもらった髪はワックスでアレンジするようになったし、眉毛だってちゃんとカットした。シャツだってステッチが可愛いのや、おしゃれだなと思える奴を着るようになった。ネクタイだってこだわってみたりもしてる。

 これまでの僕を知っている人は絶対に僕とわからないと思うくらい、僕は変われた。

 顔はそこそこでもおしゃれに気を遣っていると、不思議な事に出会いもできるもので、この会社に入社して1年が過ぎようとした7か月前の事だ。

 総務部の皆さんと交流を図る飲み会に参加した時、運命の出会いだったと思う。

 僕の席の目の前に座った住吉みちるさん。色白で背が低くて髪の毛がツヤツヤで唇もつやつやだった。

 大学を卒業してから――ブラック企業に入社してから3年間女っけなんてなかった僕は、みちるの可愛さに釘付けになっていた。

 彼女はこまめな気遣いで、お酒の注文や料理のとりわけ、会話についていけない僕にこっそりと助け船を出してくれたり、完璧な女性だと思えた。僕より一つ年下なんて信じられない。

 その日から僕は身の程も省みずみちるに猛アプローチをして、出会ってからひと月後、みちるは僕の恋人になった。

 僕の人生で一番幸せな時期だったかもしれない。

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