エルフの住む森 3
カズラさんの後をついて行った僕たち四人は森のはずれにて、二人の魔族による壮絶な戦いを目の当たりにした。
樹木のような魔族、カズラさんはこの森のはずれで不敵に佇む一人の魔族を見るなり、血相を変えて駆け出していった。そして、まだカズラさんと魔族の間の距離が詰まる前から腰に下げていた偃月刀を抜き放ち、目の前を切り裂いた。
なにごとかと、シダさんを除く僕たち三人は困惑したがそれも束の間、剣を袈裟斬りに振り抜いた彼女の前には一頭のワイルドワイバーンが血を流し力尽きていた。
「なんでワイバーンが突然出てきたの? さっきまで何もなかったよね?」
ネオンちゃんがシダさんに問いかける。しかし、僕は察しがついていた。
「ネオンちゃん、カズラさんが剣を抜く直前に魔族の目がどうなっていたか気づいた?」
「えっ? 赤く光っていたけど……まさか!」
「マギナ様、既に気づくとは流石ですね。貴女がたの予想通りあの魔族、ラザフォは空間を捻じ曲げ生物を呼び出す邪視を持っています」
シダさんが答えを述べると、仁王立ちをしていた魔族は口を開く。
「ふぅん、その通り!! 我の持つ邪視は世界中至る所の生物を呼び出す力よ」
「まさか、エルフの里を襲っていたワイバーンの原因はお前だったのか!?」
「そうだ、偶に我の命に従わぬ者もおるがそのような者我が灼熱でねじ伏せてやったわ」
魔族、ラザフォは目線を動かす。動いた目線の先には青いワイバーン、すなわちスマートワイバーンが酷い火傷を伴って倒れていた。
あまりに酷い様子であったが、僕はそのワイバーンに見覚えがあった。
彼の名前はミラ、昨年僕が魔界で共闘した善良なワイバーンである。
しかし彼はスマートワイバーンではなくアセンションワイバーンという高位存在。魔王の四天王にも匹敵する実力者である。彼が容易くねじ伏せられるとは……。
「カズラ、貴様と戯れるのもなかなか悪くなかったがそろそろ死んで貰おう。貴様はハト派四天王の中でも特に強者だ。記憶が戻られると我ら魔王軍にとって厄介なのでな」
すると、ラザフォの目は今までにないほどに赤く輝く。光が落ち着くと上空には無数のワイバーンが飛び交っていた。
「そんな……!」
「これは……まずいですね」
メイさんは茫然とし、シダさんは苦虫を噛むような表情を見せる。
「さあどうする! ワイバーンを放っておくと連中は容赦なくこの森に火を放つぞ」
「くっ!」
カズラさんは慌ててワイバーンを攻撃できる位置へ移動を開始した。しかし、
「待ってください!」
僕はそれを止める。僕には策がある。いや、策と呼べるほど立派なものではないのだが。
「なぜ止めるのかしら!? 貴女はこの森がどうなってもいいの!?」
「あそこで倒れているワイバーンと僕は知り合いです」
「それで?」
「僕が彼を治療して、一緒に空のワイバーンを討伐します。その間に貴女はラザフォを倒してください!」
「なるほど、それならなんとかなりそうね。……空は貴女たちに任せたわ。ラザフォは私に任せなさい」
よし、説得はできた。あとは僕がミラさんに回復魔法をかけて背に乗せてもらうだけだ。
僕は駆け、ミラさんに《生命賦活》をかける。彼の身体は瀕死の身であるが、僕は最高レベルの生命族魔法が使える。死んでさえいなければどれだけ酷い傷でも治すことができる。
「……っ! ここは?」
どうやらミラさんの意識が回復したようだ。
「ここは人界、エルフの里です。貴方は魔族、ラザフォの邪視の力によりこの地に呼び出されたのです」
「貴女は……マギナさん!? どうやらまた貴女に助けられたようですね。それで、この状況は……」
「貴方と同様、様々なワイバーンがラザフォの邪視を通してこの地に呼び出され、暴れています。どうか、貴方の力を貸してください。一年前と同じように僕を背に乗せてください」
「ええ、貴女には返しきれない恩があります。そのくらいお安い御用ですよ。」
そして僕は彼の背を借り、空を舞う無数のワイバーンたちを次々と撃墜していった。僕とミラさんは一年ぶりの再会だったが、絆は変わらずにお互いの意思を通じ合うかのように空を翔けた。
「っく! やはり、記憶を失っていようと貴様は魔王軍の四天王ということか!」
「貴方が何者であろうと私は私を支える人たちのために戦うだけです」
僕たちが地上に降りた頃、ちょうどカズラさんの戦いも終わっていたようで、ラザフォの身体は偃月刀により切り裂かれていた。
気を張り詰めていたカズラさんの雰囲気も、元の穏やかなものに戻っていた。
「ありがとうね~、わざわざ手伝ってくれて。おかげでこの森を焼かれずに済んだわ~」
「こちらこそ、今までエルフの森を守っていただきありがとうございます」
回り道をした気がするが、本題に入ろう。
「ところでシダさん、貴方がたエルフが使っている魔法の石についてなのですが」
「はい、アブソーブマジック鉱石についてですね。私たちの森を火の手から守ってくださいましたし、喜んでお教えしましょう」
「ありがとうございます。それで、アブソーブマジック鉱石とは、どのように使えば良いのでしょうか。それは僕たちの地域では石英といって、どこにでもある石なのですが、どうも使い方がわからなくて」
「この石は、まず鉱石に使われた魔法を記録します。記録後に魔力が流れることで、流れた魔導力に応じて、記録された魔法が発動するというのがこの石の特徴です。….…参考になりましたか?」
「ええ、おかげで念願の魔法の杖が作れそうです!」
石英改めアブソーブマジック鉱石の秘密を知った僕たちは意気揚々と神殿へと帰還した。ただ、神殿へ帰ったのは僕たちだけではない。ミラさんもである。ミラさんがくぐれる魔界へのゲートが見つかるまでは、ルクス神国の食客として迎え入れることにしたのである。




