↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能を失った元暗殺者、最強ギルドマスターに拾われる〜美味しいご飯で癒やしていたら、なぜか溺愛されています〜  作者: 月夜 闇花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/16

エピローグ「陽だまりの食卓」

 数年後。

 アークライトの街は、今日も朝日とともに活気に包まれている。

 ギルド本部の裏手にある喫茶店は、少しだけ改装されて広くなっていた。

 開店前の静かな時間。

 厨房の竈にはすでに火が入り、鍋の中で野菜のスープがコトコトと優しい音を立てている。

 カウンターの奥のテーブル席には、朝の光が柔らかく差し込んでいた。


「……ルミナス、焦げるぞ」


 背後から、低いバリトンの声が響く。

 振り返る前に、広い胸板がルミナスの背中にぴったりとくっついた。

 首筋に顔を埋められ、陽に焼かれた乾いた樹皮の匂いがルミナスを包み込む。


「焦げていません。火加減は完璧です」


 ルミナスは木べらを持ったまま、苦笑してレオンハルトの腕に触れた。

 彼が首筋に軽く唇を落とすと、そこにある噛み跡が微かに熱を持つ。

 あの日から、ルミナスの発情期はレオンハルトの庇護の下で、安全に、そして甘く満たされるようになった。

 今はもう、己の第二の性を恐れることも、薬で抑え込むこともない。


「朝からそんなにくっついていたら、仕込みが終わりませんよ、ギルドマスター」


 ルミナスが振り返って見上げると、レオンハルトは琥珀色の瞳を細めて心地よさそうに笑った。


「俺はもう、君の匂いを嗅がないと一日が始まらない体になっちまったんだ。責任を取ってくれ」


「……料理の匂いじゃなくてですか」


「それも込みだ」


 レオンハルトはルミナスの手から木べらをそっと取り上げ、代わりにその手を握りしめた。

 ルミナスの左手の薬指には、レオンハルトと同じ銀色の指輪が光っている。

 かつて命を奪うことしかできなかった手は、今では命を育むための手に変わっていた。

 土に触れ、作物を育て、この愛する男のために料理を作る。

 その繰り返しの日常が、ルミナスの過去の傷を少しずつ癒やし、完全に塞いでくれた。


「さあ、朝飯にしよう」


 レオンハルトがテーブルに二つの木椀を並べる。

 湯気を立てる野菜のスープと、焼きたての黒パン。

 向かい合って座り、レオンハルトが満足げにスープを喉の奥へ流し込む。


「……美味い。何度食っても、君の料理は最高だ」


 その言葉を聞くたびに、ルミナスの胸の奥で温かい光が弾ける。


「ええ。あなたのために、いつでも作りますよ」


 ルミナスは心からの柔和な笑みを浮かべた。

 窓の外から、冒険者たちがギルドへ集まってくるざわめきが聞こえ始める。

 間もなく、この店も彼らの笑顔と美味いという声で満たされるだろう。

 しかし、その前に流れるこの静かな時間だけは、誰にも邪魔されない二人だけのものだ。

 もう、誰も彼から居場所を奪うことはできない。

 差し込む朝陽が、二人の重なる影を床に長く伸ばしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。