第一話
「そうか、分かった。では俺が直々にその男を見つけてこよう。」
父上がそう言って飛び出してから2週間が経とうとしている。父は簡単にやられるような人ではない。何か帰れない事情でもあるのだろうか。
「...私一人で考えても仕方がないか。父上も言っていたではないか。『困ったときこそ他人に頼れ』とな」
不安は残るが、あと数日父が帰らなかったらあの有名な何でも屋『樺相談所』に依頼しに行こう。
ザザザ...
《次のニュースです。アクティディア中で「神隠し」が頻発している模様です。3週間前を皮切りに行方不明事件が相次いでいます。》
樺は耳元の風鈴を指先で軽く鳴らした。
澄んだ音が部屋に響く。
「...「神隠し」か」
湯気の立つコーヒーを啜りながら怪訝そうに呟いた。
「最近よく聞きますね。隣を歩いていた人が急にいなくなったとか、前に座っていた客が気づいたら消えていたとか。解決、しちゃいます?」
バターの香りが立ち昇るトーストをキッチンから持ってきたルピナが言う。
「依頼があればな」
不機嫌そうに答えた樺は、飲んでいたコーヒーを置き、ニュースを見つめて考え事に耽った。
そして、玄関の方へ視線を向ける。
「……来ると思った」
そう小さく呟き、短く溜息をついた。
コンコン
「はーい!」
食べかけのトーストを名残惜しそうに眺めながらルピナは小走りで玄関を開けた。
そこには朝日に照らされ透き通るような銀髪を靡かせた女性が少し不安げに立っていた。
「ようこそ、こちら樺相談所でございます。本日はどのようなご用向きですか?」
「えっと、人探しの依頼をしたくて」
「そうですか。立ち話も何ですし、どうぞこちらにお掛けになってください」
機械的な挨拶を終え、樺は仕事モードに入った。
その横でルピナはワタワタとお茶を用意し、机に置いた。
「改めまして、本日は樺相談所へお越しいただきありがとうございます。私、樺憙秋と申します。ご依頼内容とお名前をお聞かせ願えますか。」
樺は彼女から目を離さなかった。
一方、ルピナは今日も硬いなーと思いながら樺の横にちょこんと座った。
「はい、私はユーリス・アルマリアと申します。先ほども言いましたが、人探しの依頼をしたくて参りました。この人___私の父、アスベル・アルマリアを探して欲しいのです。」
その名前を口にした瞬間、彼女の表情が少し揺れた。
不安。
焦燥。
そして、恐れと悲しみ。
樺は静かに目を伏せ、耳元の風鈴に触れた。
「アスベル・アルマリア……アルマリア領主、ですか」
「知ってるんですか?!」
勢いよく立ち上がったルピナは目を輝かせ、身を乗り出してユーリスを見つめた。
「えぇ、父が領主を務めています。」
ユーリスは一度俯いた
「ですが、2週間ほど前…ある男を追うと言って姿を消しました」
彼女は震える声で経緯を説明した。
「分かりました。しかし、なぜうちに?領主ともあれば優秀な騎士団もいるでしょうに」
「騎士団にもお願いしたのですが、向かった騎士たちも帰ってきていないのです。このままではいけないと思い、有名な何でも屋さんであるこちらにお伺いしました」
有名という言葉に嬉しそうな表情を浮かべるルピナを尻目に、樺はあまりにも不自然な状況に短く息を吐いた。
面倒な依頼だ。……だが。
「承知しました。ご依頼を受けたからには必ず解決いたします」
「よろしくお願いします」
ユーリスは涙を堪えながら深く頭を下げた。
「それでは、調査を開始しよう。
あまり気乗りはしないが、これが手っ取り早い
か。」
樺は魔術を発動させる準備を始めた。
「先生!これ、忘れてますよ!これがないと後々頭痛で動けなくなりますよ!」
ルピナはそう言って樺に球状の被り物を手渡した。
樺は被り物をして集中する。そして、深く呼吸をしてから道を行き交う人々の思考を読んだ。
「ん?何だこれは?
……妙だな。」
何らかの痕跡を見つけた樺は現場へと向かうのだった。




