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俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?  作者: 八神 凪


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第五十七話 別れ

「おはよう……」

「やっと起きたか、朝食はできておるぞ」

「いただくよ……」

「起きたばかりじゃろ、顔を洗ってこい」

「へーい……」


 

 ――俺達はレヴナントの助けを借りて港町に近い山奥へ身を隠すことになった。 

 料金は十万セラで雑貨などの購入費はこちら持ち。

 だが、確実に調達してくれるので大変助かっている。買ってきてもらったテントを洞窟内に張って寝床の確保も完璧である。ちなみにレヴナントは暇なのか、毎日やってきては飯を食ってどこかへ帰る。


 そして、元貴族のメリーヌは世話好きだったようで、毎朝朝食を用意してくれ、さらに洗濯もやってくれていた。

 こちらも大変助かっている。が、中身は年寄りのせいか危機感はなく、同じテントで寝泊りしているので刺激が強い。

 婆さんとは分かっているが、見た目は若いからな……しかも襲ってもいいぞなどと冗談で挑発してくるのも腹が立つ。


 だけど良いこともあり、ここで待っているだけでは勿体ないとメリーヌに魔法の基礎を教わることにした。

 これがまあ教え方がうまく、魔術士のジョブで最初に覚える基礎は完璧に使えるようになった。

 メリーヌ曰く、レムルやソシアさんに比べて魔力のムラが無いとかで驚かれた。恐らく全魔法適性があるからだろうけどそこは言わずにおいた。ややこしくなるしな、絶対。


 そしてそんなこんなですでに一週間――。

 レヴナントが行動を起こしてもいいと予測した時期になった。とりあえず顔を洗って朝飯にありつくとするか。


「うん、うまい……野菜が多い味噌汁っていいな」

「味噌汁? ベイラのスープじゃぞこれは」

「おっと、そうだったな。今日はどうするメリーヌ師匠」

「お主はすでにコツを掴んでおるから、魔法の訓練は終わりじゃ。後は魔力の調節と、イメージを忘れずに試してみるのが良いじゃろう。儂の魔法は全てお主にも託したしの……あっさりと習得されたのはちょっとショックじゃったが、儂を若返らせるくらいじゃ、それくらいは当然か」


「かなり助かったよ、ありがとう」

「おかしなやつじゃ……礼は儂が言うのが筋じゃろうに」

「それでも教えてもらった礼は言いたい。なら、レヴナントが来るまで適当に時間を潰すか。沢で釣りもいいな」


 俺がと味噌汁を飲んで焼き魚をほぐしているとメリーヌがおかしなことを言いだす。


「ふむ、一週間経ったしなにかしら動きがあると良いのう。それよりカケルよ、いいのか?」

「んあ? 何がだ?」

「儂のバージンを欲望のままに奪わなくて」

「ぶー!!!!」

「汚っ!?」

「げほ、げほ!? なにを馬鹿なことを言ってんだお前!?」

「うむ。正直、お主にはかなり助けられた。ジャネイラに対してまだ思うところはあるが、どうでも良くなってきたのも事実じゃ。ヤツは老い、もう先は無いと考えるとこの姿を見せたことが復讐になったと思ってな」

「へえ、そりゃ良かった! 俺も寿命を使った甲斐があったな。それが、何故さっきの話になる」

「この恩を返す手段を儂は持ち合わせておらん。中身はアレじゃが、身体はお主のおかげでピチピチじゃ。男はえっちなことが好きじゃろ?」


 胸を強調して言い放つメリーヌ『ん?』という顔で見つめてくる。可愛い、が、騙されるな俺。


「別にいい……他に見つけろよ」

「その気概は好感が持てるが、あまり遠慮するものでは無いぞ、弟子よ。女に恥をかかせることにもなるからのう。自分で儂に恋愛をでもしろと言っておきながら自分は除外とは呆れたヤツじゃわい」

「ええー……」

「自覚が無いのもまた怖いわい。いつか刺されるぞお主? これだけのことをされて惚れぬ女はおらんて」


 淡々と喋るからそんな気はしないが、メリーヌ師匠はかなり俺を買ってくれているようだ。

 魔法も丁寧に教えてくれたし、俺に惚れたというならその理由も分かるが――


「ま、性分なんだよ。彼女がいた経験も無いし、どうしていいか分からん」

「難儀なやつじゃ」


 そう言うと、メリーヌ師匠は立ち上がり俺ににじりよってくる。

「……一応聞くが、なんのつもりだ?」

「……大人しくしておればすぐに済む。ハズじゃ」

「それは俺のセリフだろ!? 経験がないくせに無理をするな!」

「試してみないと分からんじゃろ? えっちの方も師匠になってやるぞ」

「うまいこと言ったつもりかババア……!!」

「若返ったせいか口調はこうじゃが、気持ちは若者と同じなんじゃぞ」

「やあ、おもしろいことやってるねー!」


 正に今、師匠が俺に飛び掛かろうとしたところでのんきな声をしたレヴナントが現れた。

 少し目を離した瞬間にメリーヌ師匠は俺の横に着地をした。いつの間に!?

 レヴナントが来なければ俺の貞操は終わっていたかもしれない……!


「ふむ、惜しかったわい。朝食を食べるか?」

「もう少し待てば良かったね? いただくよ」


 俺達は再び朝食を再開すると、すぐにレヴナントが口を開き、情報を提供してくれた。


「もぐもぐ……今日は収穫があるよ。ジャネイラが辺境へ送られた」

「ほう……」

「どういうこった?」


 ピタリとメリーヌ師匠が食べるのを止めてレヴナントへ目を向ける。


「あの騒動……君達を手犯として手配を回したのはジャネイラが指示したことなんだ。レリクス王子がそれを不満に思って過去のことについて色々と進言をしたけど、国王と宰相のジルベンは握りつぶすつもりだったみたい。けど、先代国王が当時のことを激怒してね? メリーヌを探しにいくと息巻いた。話し合いの結果、ジャネイラと先代が辺境で完全な隠居をすることに決まったというわけさ」


 レリクスが色々やってくれたのか。なんか企んでいたみたいだけど、今回は助かったな……


「何をホッとした顔をしているんだい? 君達の手配はまだ降りていないんだよ?」

「え?」


 俺はアホな顔しているだろうな、という自覚があるくらい間抜けな声を出してレヴナントへ問う。


「ジャネイラの罪はぶり返したけど、ジャネイラをぶっ飛ばしたことと、君が城を壊した事実は変わらないからね。事情聴取という名目に変わったから犯罪者では無くなったけど狙われているのは違いない」

「捕まったら?」

「君の能力調査のために監禁。良くて国に一生利用されるとかだろうね。ほら、仲間がいたろう? 君」


 そう言われて背中が寒くなった気がする。

 ここで俺が捕まればグランツやトレーネも巻き込むことになるだろうと、こいつは言いたいわけだ。


「ごちそうさま♪ ま、そういうわけで騎士達が血眼になって君達を探すことは無くなったから動きやすくなった。君達はどうしたい?」

「……儂はアウグゼストへ行くつもりじゃ。ジャネイラの話、どうも嘘とは思えん。今更なにか掴めるかどうかは分からんが、儂を亡きものにしようとした理由を探りたい」


 師匠はハッキリと次の行き先を決めていた。真相を知るためにアウグストとやらに行くらしいことを聞いたレヴナントがそれに続ける。


「了解したよ。では、港で船に乗るまではアシストする。直通の船は無いから獣人の国ジェイドスへ行ってから乗り換えになるかな」

「お金はある。なんとかなるじゃろ。ユニオンに登録できんから依頼が受けられないのは勿体ないがな」

「裏の仕事をするしかないね? 斡旋はできるから、紹介するよ。君は?」

「俺は光翼の魔王に会うつもりだったから、そこを目指すよ」


 師匠は少し心配だが、俺の目的は変えられない。師匠もそれは分かっているようで、あっさりとした返事をした。


「そうか」

「なら、時間差で移動をしよう。先にメリーヌを送っていく。男女二人だと思われているのを逆手に取ろう。君は三日開けてから港町へ繰り出してくれ」


 レヴナントの指定を俺が頷くと、早速出発をすると師匠が準備を進めた。


 そして――


「世話になったな、カケル。もう会うことは無いかもしれん、達者でな」

「ああ、できれば長生きしてくれよ?」

「努力はするわい。盗賊に掴まって乱暴されたりするかもしれんがのう。やっぱりしとくか?」


 師匠はそんなことを言いながら、いつも能面のように感情が読めなかった顔をニヤリと口を歪ませた。笑うところを初めて見たな。


「うるさいな!? もういいから行けよ!」

「フッフッフ……さらばじゃ」

「また会った時は、よろしくねー♪」

「もう会わないと思うがな……気をつけろよ?」

「やっさしー! っていうか自分のことを心配しなよ? あと、三日分の食料は置いていくよ。じゃあね♪」


 村娘スタイルに変わったメリーヌとレヴナントは共に山を降りて行く。

 彼女達の姿が見えなくなるまで見送った。結果的にこの騒動で犠牲になる人間はいなかったのは幸いだと思う。

 師匠の寿命も現段階では最後まで生きるであろう年数を指していたしな。


 だが――


「……その代償としては仕方ないか?」


 再び一人に戻った俺は広くなったテントに戻り、静かな山の中でもう一眠りするのだった。残り三日……この大陸から出ればまた平和に旅ができるだろうか……。


「あ、そういやこれのこと聞けばよかったな」


 メダルを翳して一人呟くのだった。

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