第五十六話 昨日の敵は今日も敵?
「ここにも居ないか」
「深追いをする必要はない。どうせ町からは逃げられん」
「しかし祭りで人がごった返している。油断はできんぞ」
騎士達が路地でそんな話をしている。そこへさらに一人騎士がこちらに走ってくる音が聞こえてきた。
「若い男女二人に手配がかかったようだ。町民が見つけて報告すれば男は五万セラ、女は百万セラを出すらしいぞ」
「税金を使われちゃたまらねぇな。さっさと見つけるぞ」
「ああ」
ガシャガシャと鉄の足音が遠ざかっていく――
「……行ったか」
「そのようじゃな」
足音が完全に無くなったのを確認してから、俺とメリーヌは隠れていた樽から頭を出す。無論、蓋は乗ったままだ。
俺はメリーヌと目があったところで口を開く。
「……俺の懸賞金、安すぎない?」
「そこはどうでもいいじゃろ……それよりどうする? 夜まで待って一旦山へ行くのがいいと思うのじゃが」
「そうだな、日が暮れた後の方がやりやすいか……もうすぐ日も落ちる時間だしな」
とまあ、どうして俺達がさっさと町を出ずにこんな路地裏の樽に身を隠しているのか?
城から脱出したまでは良かったんだが、思いのほか騎士達の動きが早かったのだ。
さらに、文字通りお祭り騒ぎなので人ごみをかき分けていると足が遅くなったのも悪条件。
そして伝令で町の治安にあたっていた騎士達にも伝わったせいで逃走を困難にさせられていたのだ。もう一つ言うとメリーヌのドレスが目立ちすぎる。
まあ危ういところだったが、なんとか樽の中に身を隠して一時避難ができた。
「おいメリーヌ、はみ出ているぞ」
「む、いかんな。ドレスなぞ六十年ぶりじゃ、見逃せ」
「騎士にそれが通じたらいいな。とりあえず夜まで待とう。人が減ったら船がある町へ続く門から出る。場合によっては実力行使d」
「それがよかろう。儂とお主なら多少手ごわくても――」
「こんにちは!」
「うおおお!?」
「なんだ……?」
メリーヌが飛び上がらんばかりの悲鳴をあげ樽が大きく揺れる。
正直な話、俺も突然のことで心臓がどきどきしているがそれを表に出さず声のした方向へ目を向ける。
するとメリーヌの横に並んでいた樽から何者かが頭を出していた――
「お、お前……!? ソシアさんを攫ったヤツ……!」
「ご名答!」
そいつは俺達と死闘を繰り広げたあの怪盗とやらだった。俺が叫ぶとウインクしながら正解と言う。
「……お主、なにをしに来た? もうワシらとは関係がないはずじゃが? それと『譲滅の秘宝』はどうした……?」
するとソシアさんを攫ったヤツは肩を竦めて(樽に入っているから多分だが)大きく首を振りながら答えた。
「まあまあ、終わったことはいいじゃない! それよりも君達、とんでもないことをしたみたいだね? まさか手配書が回るとは思わなかったよ」
ごそごそと樽の中を探り、一枚の紙を俺達に見せてきた。さっきの騎士達が言っていた手配書がこれなのだろうが――
「に、似てねぇー!?」
「儂もじゃ……」
かろうじて髪型はそれっぽいが、顔は何かとりあえず濃かった。
「あはははは! あの場で顔を見ていた人間なんて多くないだろうからね。こんなもんだと思うよ? まあ王子や燃える瞳の彼等が問われたら危ないかもしれないけど……」
「……お前、いつから……」
俺が気になっていることを口にすると、口の端をあげながら言う。
「最初から♪ メリーヌさんの動向も気になったしさ、君も面白いし」
「ふん、余計なお世話じゃ。巻き込まれたくなければとっとと消えるのじゃな」
メリーヌがそう告げると先程まで笑っていた顔を真顔にしてたソシアさんを攫ったヤツは口を開く。
「ふふ……手配書は雑……騎士達も正確な顔を知っている訳じゃない……しかし……!」
「お、お前まさか!? 俺達を売るつもりじゃ……!?」
「ふふふ……」
そして、ソシアさんを攫ったヤツが驚愕の言葉を放った――
◆ ◇ ◆
――北の門
「ん? こんな時間に人……? 止まれ。こんな夜中にどこへ行くつもりだ?」
「病気の母がもう長くないんです……最後に好きなだけ好物の魚を食べさせてやろうと思って……」
「こんな夜中にか? ……指名手配中の男女がいるらしいし、どうも怪しいな……顔を改めさせてもらうぞ」
「あ……!?」
「そんなに驚くとは尚のこと怪しいな! それ!」
門番が背負った人影のフードを剥ぐとそこには老婆が頭を揺らしながら騎士に向かって話しかける。
「ふがふが……息子や、ご飯はまだかえ?」
「俺はこっちだよ。それにさっき食べたろ? ……もうボケてて長くないんですよ……行ってもいいですか?」
「どうだ?」
「間違いなくババアだ。変装している感じも無い。よし、いいぞ、ただ夜は魔物が多い。朝まで待った方が――」
「うぉえ! げっほげっほ! ああー! 魚! 美味しい魚が食べたいぃぃぃぃ!」
「こら、母さん静かにしろ! お気遣い感謝します。ですがこの通りでして、はい」
「びっくりした……もういい行け」
◆ ◇ ◆
「――ぷはあ! に、逃げ切れたか!?」
「どうやらそのようじゃな。まさかこんな手を使うとは思わなんだが……」
「まったくだ。『魔王の慈悲』」
俺達はあの時、ソシアさんを攫ったヤツから思わぬ提案をもらった。
それがこの脱出劇である。話は簡単で『若い男女二人組』という概念を崩せばいいということだった。
『若くできるなら歳を取らせることもできるんじゃないかな?』
確かにと、俺は『生命の終焉』で再びメリーヌを婆さんに戻し、一芝居うったというわけ。
俺の顔は暗くて良く分からないだろうし、事実通りがかった人も指名手配者だとは思わなかったようだ。
「ふう、また若返ってしもうたか。良いのか、お主にデメリットは無いか?」
「気にするな、大したことじゃない」
「ふむ。しかし、復讐の機会は成ったし、礼をしたいところじゃが……一応、儂は処女じゃぞ?」
「だからなんだ!?」
「いや、そういうことをしたいから変えたのかと……」
「違うわい!? ちゃんと幸せになってくれたらそれでいいから、そういうことは言うなよ?」
「おかしなやつじゃ。自分で言うのもあれじゃが、中々の美人じゃと思うぞ? それを放置とは、少し傷つくのう」
「うるさいぞババア!? もういい、それでこれからどうす――
「こんばんは!」
「ぷくぷくたいやき!?」
メリーヌを黙らせるため、この後の指針を決めようとしたところで、またしてもソシアさんを攫ったヤツが俺の背後に現れた!
「やあ、うまく行ったようでなによりだよ」
「いきなり出て来るんじゃない!? ソシアさんを攫ったヤツよ……とりあえず礼は言っておく、ありがとうな」
「一万でいいよ♪」
「ああ、そうですか!」
財布から一万セラを取り出して差し出した手に乗せると、素早く懐へしまいこんだ。
「毎度ー。で、これから港町へ行くつもりみたいだけど、少し待った方がいいかもしれない」
「どうしてだ、ソシアさんを攫ったヤツ」
「犯罪者が国から出るのに手っ取り早いのは船で脱出を図ること。それは誰でも考え付くことさ。となると……」
「すでに手が回っておる、というわけじゃな」
「そういうこと。向こう一週間くらいは山にでもこもった方がいいかもね? 追加料金で食料や衣類の調達までやるけど?」
両手を頭に組みながらあっけらかんと言い放つ。いやに親切なことに違和感を覚える俺は目を細めて聞く。
「ソシアさんを攫ったヤツ、お前は何を企んでいる……?」
「うん、ちょっと待って。さっきから『ソシアさんを攫ったヤツ』って何回も聞くけど、それってもしかして僕のことかい?」
「? そうだが?」
「さも当然みたいに言うのやめてよ!?」
「いや、だって名前知らないし……」
「大盗賊っていったじゃん! それで良くない!?」
「じゃあ……大盗賊、お前は何を企んでいる……?」
「言いなおされてもすごく微妙だね……分かった、僕のことは『レヴナント』だ。偽名だけど、そうと呼んで」
「偽名ってお前……」
「本名なんて言うわけないだろ? で、追加料金払う?」
大盗賊改め、レヴナントがマスクの下の目をニヤリとさせ、モミ手すり手で俺に聞いてくる。目的を聞きそびれたけど、それが狙いか?
とりあえずはノっておくか。こいつがまだ俺達を売らないと決まった訳じゃないから警戒は必要だが、ここで港町へノコノコ顔を出して捕まるのもアホらしい。
「……いくらだ」
「毎度♪」




