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俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?  作者: 八神 凪


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第四十九話 もう一つの物語


 ペリッティと合流した俺は、誘拐犯のアジトへと向かうため後からついていく。

 廃屋の方が多いであろう住宅街の中をゆっくり歩いていると、目的の場所へと到着したようでペリッティがぴたりと立ち止まった。


「……ここか?」

「ええ。わかりやすくて助かるわね」


 そこは確かにと思わず漏れそうになるくらいの建物だった。

 古めかしい屋敷で、潜伏するにはちょうど良さそうなところだ。部屋数もそれなりにあるだろう。

 だがここに居ると確信があるならしらみつぶしに探していけば必ず見つかるはずだ。


「静かにいくわよ。ここで逃がしたら探すのは困難になるわ」

「……了解だ。しかし、レリクスの命令とはいえこんなこともするんだなメイドって」


 正面玄関を静かに開けながら俺はペリッティに声をかける。

 槍を手にしていると前を歩くペリッティが小さく笑いながら振り向かずに言う。


「メイドはこんなことをしないわ。私はこっちが本業よ」

「こっちって……」

「ま、色々ね。あなたと一緒に探すのも面白そうだけど、時間がもったいないか。それじゃ、手分けして探しましょう」


 それだけ言ってペリッティは闇の中へと消えて行った。


「あ、おい」

「私は左から行くわ。見つけた時にソシア様がギリギリの状況なら踏み込む……それでよろしくね、魔王様♪」


 俺が引き止めると軽いノリで返事があった。だが、やがて足音共に聞こえなくなった。こっちが素の性格だろうか? 

 さて、ペリッティよりも今はソシアさんだ。


 寿命が二週間近くまだあるので焦る時間じゃない。

 だが原因は不明なのでここで逃すと確実に死んでしまうなんてことになりかねないので、救出が最優先だ。

 俺は扉に耳を当てるなどして集中しながら気配や音、声を探りつつ、一つ一つ部屋を確認していく。


「……居ないな……もう逃げられたとかじゃないだろうな……」


 だが、それらしい影はまるで無かった。

 慎重に進んでいる時間がかなり長く感じる……スマホで時間を確認すると実際には三十分程度しか経っていなかった。


「ふう……アンリエッタの時と同じくらい緊張するな……次の部屋がこっち側は最後だ。頼むぜ……」


 スマホをポケットにしまい、次の部屋を静かに開けた。

 残念ながらそこにもソシアさんは居なかった。だが、窓から差す月明かりに照らされている肖像画が俺の目を引いた。


「金髪の女性、か。美人だな。この屋敷に住んでいた人かな?」


 優しそうな女性が柔和に微笑んでいる絵は気になるが、今はそれどころじゃない。


「とりあえず、ソシアさんだ。ペリッティが見つけているといいけど」


 一人呟いて部屋を出ようとしたが、その瞬間、違和感を覚えて振り返る。あの肖像画、ずれていないか……?


「……」


 肖像画に近づいてよく観察してみると、正面からだと分かりにくいが左側に少しだけ傾いており隙間があった。


「こりゃ怪しいな……」


 肖像画は目の高さより少し高いだけでなので、横から隙間に手を入れてみる。

 すると壁側にギリギリ手が届くところに窪みがあった。肖像画側に手を当ててみると、そちらにはそれにぴったりはまりそうな突起があった。

 もしや、と思った俺は肖像画を前から押してみる。

 その瞬間、肖像画の右隣の壁がスライドし、下へと続く階段が見えた。


「隠し階段……どこに繋がっているんだ?」


 俺の居る場所は二階の部屋だ。

 一階なら地下室って線もあると思うけど……まあ考えても仕方ない。恐らくこれが正解だろうと階段をゆっくりと降りはじめた。


「足音を立てないように、と」


 階下までやってきた俺は身をかがめて慎重に周囲を確認する。

 階段はだいたい一階分の長さだったのでここは一階で間違いない。ただ、窓も扉もないので、裏側といったところだろう。

 一本道を進むと奥に光が見えた。扉が少しだけ開いているようで灯りが漏れているのだ。

 静かに近づくと、話し声が聞こえてきた。幸い、扉はこちら側に開いていたので、扉の横に身を隠して、中の様子を伺うことにする。


「あいつはさっきの怪盗……手前にいるのは……誰だ……?」


 目を細めて中を伺うと、怪盗ともう一人、背中を丸めてローブを目深にかぶった後ろ姿の人物がいた。

 そしてチラリと見えるベッドの上にある足はソシアさんに違いない。

 そして背中を丸めた人影が口を開く。


「うまくやったようだね、アンタには世話になった。これが報酬だよ」


 そう言ってなにやら革の袋を怪盗に渡す。声の調子で老婆だということがわかった。


「毎度ありー♪ いやあ、手間はかかったよね、実際。まさか自作自演で護衛をつけるとは思わなかったからさ? 先生に変身して戦力の調査をして、自演のお手伝いをしている子を騙して代わりに誘拐しようとしたり、最終的にはこの娘の屋敷に潜りこむまでしたからね。学院で誘拐できなかったのは痛かったよ。レリクス王子とメイドが見張っていたのは誤算だった。煙幕なんて古い手を使うなんてね? まあ、護衛は一人を除いてそれほど強くないと確信してできた芸当だけどね」


 ……なるほど。あの時、門にいたのはレリクスで間違いなかったか。あの煙もそうだとは思わなかったが……


「ふん、恐怖の大盗賊が弱気なことを言うじゃあないかえ? ……ま、この娘が手に入れば後はどうでもいいんだけどさ」

「……その子を誘拐してどうするつもりなのさ? 殺すんじゃなくて、さらってこいだなんておかしなことだし。聞かせてくれてもいいんじゃないかい?」


 すると老婆は少しだけ考える様子を見せた後、ため息をついてポツリと呟くように話し始めた。


「その昔……恐らくアンタも産まれていない時代、ある貴族の娘がおった。その娘は魔力もあり、美人と名高かったが、それをひけらかすことなく優しい娘じゃった」


 さっき上で見た肖像画の女性だろうか……? 今なら踏み込むのは簡単だが、ソシアさんをさらった目的は気になるので、息を殺して続きを聞く。


「その娘は成長し、国の王女候補になった。娘は貴族とはいえそれほど権力の無い家だったので萎縮したが、美貌と魔力は王族を引きつけるには十分な魅力があった……じゃが、もちろんあくまでも『候補』。もちろん他にも王女候補がおった」


「(……まるでわたくしとソシアさんのようですわね……)」

「(ああ、この話がなんでソシアさんの誘拐に繋がるのか……)ってお前!?」

「(声が大きいですわ!?)」

「(もが!?)」


 俺の肩口からひょこっと顔を覗かせて呟いたのはなんとレムルだった。

 その横には憮然とした表情のツォレが俺の肩を軽く叩いた。


「(痛っ!? お前ら追ってきたのか!?)」

「(面白そうでしたからね! それよりあそこに寝かされているのはソシアさんではなくて?)」

「(……そうだ。油断して屋敷から連れ出されてな。なんとかここまで追ってきたところだったんだ)」

「(……なるほどな……さっき一緒にいたのはレリクス王子の、か?)」


 いつから俺達を発見していたのか?

 ツォレがペリッティのことを聞いて来たので、俺は言葉を出さずに頷いた。そこで老婆がこちらを振り返ってから一言呟く。


「今、何か聞こえなかったかの……?」

「気のせいでは? それでそれで?」

「……もう一人の王女候補は顔は良かったが性格に問題があってな。先に話した娘を徹底的に妨害しておった。恐ろしくなった娘は婚約を辞退した。だが、王子は美人で気立てが良くて、優しい娘に惹かれておったので、辞退を信じず、嫌がらせはエスカレートを重ね……そして、娘の顔に一生消えない傷をつけたのじゃ」

「それで、もう一人の候補が王女になった、ってことでいいのかな?」

「……そうじゃ。顔に傷をつけられた娘はさらに崖から突き落とされ、行方不明となった。両親は探したが見つけることができず、思い出のあるこの国を出ていったそうじゃ」

「(とんでもないことだな……)」

「(わたくし、聞いたことがありますわ……ひっく……お可哀相に、悪い貴族は本当にいるんですのね……)」


 レムルが泣きながら傷つけられた娘さんの生涯を嘆いていた。こいつも悪役令嬢だと思っていたが、実はそんなことも無かったんだよな。

 だが、俺の予想が正しければ……そう思っていると、怪盗が手を広げて肩を竦めて口を開いた。


「仮に貴女がその娘さんだとして、復讐を企てるのは分かる。でも、その娘には罪は無いんじゃないかい? それとも、その性悪貴族の子孫だったりするのかな?」

「……ふ、ふふ……性悪女……ジャネイラは傷心の王子と結婚した……自分が犯人だと知られずにな。だからソシアはこの件にはまったく関係は無い」

「(ジャネイラ……レリクス王子の祖母の名前ですわ……!?)」

「では、何故?」


 すると老婆は「だが!」と、肩を震わせて笑いながら叫んだ。


「お主の言うとおり、儂は復讐をする。ジャネイラをこの手で殺す為に! じゃが、この姿では城へ入ることはできん。お主のように偽変装の魔法も使えない」

「そうだろうね。じゃあこの娘を脅して近づくのかな?」


 怪盗が壁に背を預けたまま尋ねると、老婆は恐ろしいことを口にした。


「儂はひっそりと山奥で暮らしながらずっと恨み続けていた……そこにある時、人が訪ねてきたのじゃ」

「……それで?」

「そやつらは『復讐を果たしたいか』とだけ言ってきた。もちろん儂は当たり前じゃと答えた。すると儂にこれを手渡し、去って行った」


 こちらから老婆の顔は伺えないが、声の調子から笑っていると思う。そしてローブの裾から、光る玉のようなものを掌に載せて怪盗へ言い放った。


「この玉は『譲滅の秘宝』という……これは望んだ相手の魂を消し、自分の魂をその者に移すことができるという邪法が使えるのじゃ……!」 

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