第四十七話 予告、一日目
「……で、話ってのは?」
俺とグランツが間借りしている部屋へ全員が集まる。
三人が俺の前に座り、対面したところで口を開く。
レリクスのアホが色々暴露してくれたものだから正直この視線は辛い。しばらく沈黙した後、グランツ達が顔を見合わせてコクリと頷き俺に向き直って言い放った。
「カケルさん! 俺達とパーティを組んでくれませんか!」
「はあ?」
我ながら間抜けな声を上げたと思う。
だが、それくらいグランツの言葉は意外だった。俺がボー然としていると、その真意をグランツが話しだした。
「……レリクス王子の説明で正直、カケルさんに対して恐れを抱きました。魔王はこの世界で最も力がある者で、俺達なんてあっさり殺せるくらいです。魔王によっては弱い者をおもちゃにするのを厭わない者もいると聞いたことがあります」
「……」
ドライゼンさんのビビりっぷりはこういう話から来ているんだろうな、と、ふと思った。
いわば止められない殺戮マシーンが町を徘徊しているようなものなので、正体がバレたら腫物扱いになるのは目に見えている。
「でも、カケルはそんなことない。死にかけていた私達を助けてくれた」
「うん。それに、一緒にいて怖くないんだよね。……この依頼もあたしのお父さんのことを聞いたからってトーベンさんに聞いたわ。魔王かもしれないけど、あたし達と同じ人間よねって思いなおしたの」
「トーベンさん……余計なことを……それでパーティを組むってことがどう繋がってくるんだ?」
「カケルさんは魔王で異世界人です。一人だとボロが出そうな時も俺達がいればフォローができるかと……」
「いやいや、気持ちはありがたいが、実は俺には目的があってな。光翼の魔王に会って『真実の鏡』を借りたいんだ」
俺がそう言うと、三人は驚いた顔をして目を見開く。
「そ、そうだったんですね。大丈夫です、俺達もついていきますから!」
「うん。カケルと一緒」
今度は俺が驚く番だった。
「お前等の故郷はこの辺りなんだろ!? いいよ、そこまで無理してついて来なくても!?」
「うーん、なんだかんだであたし達も冒険者だから色んなところに旅したいんですよ! ほら、お父さんの病気が治ったら気兼ねなく旅に出られるし」
「もう報酬アテしてんのな!?」
実はそれが目的か!? と言いたいところだがグランツは続けて言う。
「……本当は魔王様の部下として働きたいんですが……燃えるので。ですがカケルさんはそういうの嫌がりそうです……」
口をへの字に曲げて拳を握るグランツに俺は呆れるしかなかった。
「間違いなく嫌だなそれは……なんだって俺なんかと一緒に居たがるんだか……」
「カケルは優しい。今も邪険にはしてないのが証拠」
トレーネがニコッと笑ってそんなことを言う。
……まあ、旅に人が多くて困ることは無い、か?
「どう!? カケルさん!」
エリンがずいっと身を乗り出してきたのを押しのけながら俺は答えた。
「あー、とりあえずそれは保留にさせてくれ。まだソシアさんの件が片付いてないしな。パーティが終われば依頼が完了だろうから、その後に返事するってことでいいか?」
「分かりました! 期待しています!」
「……あまり期待されてもなあ……」
グランツが立ち上がって叫ぶとトレーネが俺の腕に巻きついてきて嬉しそうに鼻をならしていた。
「話はこれで終わりか?」
「ええ、ありがとうございます! 魔王様と旅ができると思うと胸が躍ります!」
「まだ決まってないからな? とりあえずそれはもういいから、今は予告状の件だ。今日からソシアさんの許可を得て近くで警備をするぞ」
「? でも予告はパーティの前日になっていましたよね。あたし達が待ち受けるのはしばらく先じゃないんですか?」
エリンが不思議そうに聞いてくるが、俺は首を振ってそれに反論をする。
「考えてもみろ。帰りに襲われたことがあるだろ? 女生徒と成り代わってまで行動したんだ、予告通りに来るとは思えない」
「確かにそうかも。どうするの?」
「俺とグランツは廊下に常駐して、トレーネとエリンはソシアさんの部屋で寝泊りさせてもらうのがいいだろう。これは許可が必要だが――」
パーティまで学院を休むと決めたため、屋敷での護衛が主であるなら守りやすいはずだ。
後はソシアさんが嫌がらなければいいと思いつつ、夕食時に俺達の提案を一家に話すと、二つ返事で了承してくれた。
「――私は問題ありません……こんなことに巻き込んでしまって……なんといっていいか……」
「乗りかかった船ですし気にしないでください。ボーデンさん、この予告状の中身を知っているのは俺達以外に誰がいますか?」
「あ、ああ。混乱を避けるため私達以外に口外はしていない。セバスにもクレアにもな」
「そうですか……でも念のため――」
俺は席を立つと食堂のドアを乱暴に開け放ち、廊下を確認する。そこには誰もいなかった。
「カケルさん?」
「いや、聞き耳を立ててる人がいないか確認しただけだ」
「でも知っておいてもらった方がいいんじゃないですか? 警戒してくれる可能性があがると思いますし……」
「知らないままの方がいいこともあるんだ。下手に警戒すると屋敷の人間が無差別に狙われる可能性もあるからな。警戒しまくって逆に裏をかかれることもあるし」
ケースバイケースだが、屋敷全体がピリピリしすぎるのは避けたい。
もし、こっちにトレーネやエリンが居なければお世話係のクレアあたりには協力してもらったかもしれないけどな。
しかしすぐ近くで見張りができる二人がいれば、非戦闘員の余計な手は借りない方がいいと思う。
「それでは今晩からよろしくお願いします」
母親のアムルさんが俺達に深々と頭を下げてきて、食事は終了となった。
◆ ◇ ◆
――食事の後、リビングで集まって過ごしていると時間は二十一時を回り、女性陣はお風呂へと向かった。
「今日は風呂どうするかな……」
「交代で行くのはどうです?」
「まあ一日くらい入らなくても大丈夫だろ? 朝風呂とかいいかもしれない……」
ソシアさんの部屋近くで待機しながら他愛ない話をグランツとしていると、女性陣が風呂から戻ってくるのが見えた。
「カケル」
「おう、俺だぞ。ゆっくり入ったみたいだな」
「ええ、お友達とお風呂に入ることなんてないですから少しはしゃいでしまいました」
そう言って笑うソシアさん達を見る。トレーネとエリンはいつでも動けるようパジャマではなく普段着だった。
そこでエリンがコップを俺達の前にぐっと出して言う。
「二人も入ってきたら? クレアさんがお風呂上りにジュースを出してくれたの。これ凄く美味しいわ!」
コクコクとコップのジュースを満面の笑みで飲みながら風呂を促してきた。風呂上りのコーヒー牛乳のノリなら確かに美味い気がする。
「誘拐犯もあたし達がいれば簡単に手は出さないと思いますしどうです?」
「ならグランツ、お前から行って来い。今日の対抗戦で一番頑張ったのはグランツだからな」
「え? いいんですか?」
「ああ、流石に二人同時はまずいだろうから一人ずつだ」
「それじゃカケルさん、申し訳ないですが私達は部屋へ入りますね」
「一緒にいたいけど……我慢する」
分かりましたとグランツが風呂へと向かいソシアさん達も部屋へと入っていく。
俺は一人になり静かだなと思った。
誰もいなくなったらなったで考える時間ができるのでありがたい。
ソシアさんの部屋の扉が見える廊下の壁へ寄りかかり、今までのことを振り返る。
「結局、ソシアさんの狂言だけでこの事件が終わらなかったな。寿命のことがあるからタダで終わるとは思ってなかった。しかし敵だと予想していたレリクス、レムルがほぼシロだから困ったもんだ……」
犯人が分からないので振り出しに戻った形だ。
警戒はより一層する必要ができた。一つ腑に落ちないのは俺が狙われたことだ。目障りだとしても中途半端すぎる――
俺が色々考えていると、廊下の向こうからクレア走ってくるのが見えた。
「あ、カケルさん! 探しましたよ!」
「? どうしたんだい?」
「お風呂に行ったグランツさんがのぼせてしまい、倒れたんです! それで慌てて……」
「マジか……あいつなにをやってるんだ……」
「すぐ行ってあげてください! 誘拐予告は気になるのは分かりますけど、今日の今日で来ることはないと思いますし」
「そうだな……ちょっと行ってくる」
「はい!」
俺は駆け出して風呂場へ急ぎ扉を開け放った。するとそこには素っ裸のグランツが体を拭いていた!
「グランツ! って、大丈夫……か?」
「カケルさん? そんなに慌ててどうしました?」
「い、いや……クレアさんがお前がのぼせたからって……」
「え? 俺はこの通り元気ですけど……クレアさん、ですか? 男湯には来ないと思いますけど……?」
――瞬間、俺の身体から汗が噴き出る……あの時クレアさんはなんと言っていた?
『すぐ行ってあげてください! 誘拐予告は気になるのは分かりますけど、今日の今日で来ることはないと思いますし』
「しまった……!」
「ど、どうしたんですか!? カケルさん!」
グランツの声を無視して俺はソシアさんの部屋へと全速力で駆け出した。
だが――
「扉が開いている……!」
慌ててソシアさんの部屋へ入ると風がカーテンを揺らしていた。窓が開いているのだと考える前に月明かりに照らされる人影に目が行く。
「おや、早かったね? でも、もう遅い。ソシアお嬢さんはいただいていくよ」
頭にバンダナを巻き、顔にはまさに怪盗と呼べるようなマスクをつけた人物が窓の縁に手をかけていた。その肩にはソシアさんを担いでいた。
……間違いない。
「……お前が予告状の犯人か……」
「フフ、そのとーり! そして君を襲撃したのも……」
「……!?」
そう言って誘拐犯は顔に手を当てると、ネーレ先生の顔が出てきた。
「私でした~♪」
あの間延びした声は間違いなくネーレ先生……だが、再び顔に手をあてると、元のマスクに戻ると笑いながら言い放った。
「フフフ、本物は家でぐっすりだけどね? さて、お話をする暇は無いしそろそろお暇させてもらうよ」
ネーレ先生に成り代わっていた……! いったいいつからだ……! いや、それよりも今はこいつを捕まえるのが先だ!
「待て! トレーネ、エリン! 起きろ!」
「無駄だよ、特製の眠り薬だ。朝までなにをされても起きない。あーんなことやこーんなことをするためにはうってつけだとは思わないかい? では……さらば!」
ヒュ! っと飛び上がりその姿を消したので俺は窓へ駆け寄ると、庭を走る姿が見えた。
「逃がすか!」
力:26→16
速:23→60
知:12
体:22
魔:32→10
運:17→12
俺は『速』にがっつりパラメータを振り分け、追いかける準備をする。そこでグランツが駆けつけてきてくれた。
「カケルさん! ……これは!?」
「すまん、油断した! ソシアさんが攫われて今から追う。眠っているトレーネとエリンを頼む。それとボーデンさんにも伝言を!」
「わ、分かりました! 気を付けてください! 俺もすぐ追います!」
「行くぞ!」
窓に足をかけて地面に向かって蹴ると、一瞬で着地する。これなら追いつけるか……!
夜の町の追走劇の始まりだ! 逃がさねえぞ!




