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俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?  作者: 八神 凪


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第九十九話 カケルの逆鱗

「おや……?」


 ウェスティリアが牽制をしつつ、竜の騎士達を撃退していると、状況が変わったことに気付いた。

 騎士達が撤退を始めたからだ。その内の一人がウェスティリアの前にやってくる。


「……光翼の魔王様とお見受けしますが?」

「はい、おっしゃるとおりです。どうしましたか?」

「逆賊であった、現大隊長のイグニスタがクリューゲル様に倒され、我等は成り行きを見守ることになりました。クリューゲル様が陛下の下へ向かいましたので、我等もそちらへいきます。エルフと交戦している者もおりますので、戦闘の中止を呼びかけたいと」

「良いですね。では私もそちらへ行きましょう。バウムさんとは知り合いですので」

「お手数をおかけします。それでは!」


 ワイバーンを従えて別の部隊へと向かう騎士を見送っていると、リファとルルカが寄ってきた。


「お嬢様!」

「ふいー……終わったかな?」

「リファ! ルルカ! お疲れ様でした!」

「≪ハイヒール≫っと……お嬢様は……大丈夫そうですね」

「ええ。かなり魔力を使ったのであまり無理はできなくなりましたけど」


 それでもまだ余力はあるのか……と、改めてウェスティリアの魔王としての能力に驚きながら、ルルカは話を続ける。


「カケルさんは?」

「ハインツ王の下へ向かいました。私はカケルさんを追いますので、リファとルルカは落ちた人達の手当てをお願いできますか?」

「……ボクも行きたいけど、仕方ないか。お嬢様、カケルさんにボクは頑張ってたって言ってね!」

「は、はい、わかりました。ではリファ、お願いしますね」


 変な念を押すルルカに寄られ焦るウェスティリア。視線を逸らしてリファへ声をかける。


「お嬢様なら大丈夫だと思いますがお気をつけて。少し嫌な予感がします」

「ええ、騙されていた人の方が多いから、助けてあげて! 行ってきます」


 ウェスティリアは展開した六枚ある光の翼を動かし、その場を離れて行った。


「お嬢様、パンツ見えています……」

「まあスカートじゃ仕方ないよ」

「そうだな。ルルカもずっと丸見えだったし、戦闘中なら仕方ないな」

「……あ!?」


 スカートを抑えてルルカはへたり込んだ。そう、ウェスティリアよりも短いスカートは、騎士達の目をくぎ付けにしていたのだ。


「さ、怪我人の手当てにいくぞ!」

「(め、面倒なことにならないといいけど……)」


 リファがドラゴンを操って降下を始める。そこでルルカは嫌な予感を胸に感じていた。その予感は現実になるがそれはまた後の話――


 ◆ ◇ ◆


「やあああ!」

「それは見切った! ナルレア!」

<『速』を上げますね>

「ぐふ……!? ≪漆黒の刃≫」

「そんながむしゃらな魔法が当たるか」

「が、ああ!?」


 俺はカッターのように迫る黒いモヤを回避し、槍で黒ローブの肩を貫く。

 チャクラムがいかに有用だろうと、中距離で戦える槍相手に一対一は難しい。

 まして国王という壁も無い黒ローブは俺の攻撃を避ける手段も乏しい。恐らく正面から戦うタイプではないのだろう。

 さて、かなり高度もあがった……ここなら逃げられない。俺は黒ローブに尋ねてみる。


「よう、なんでこんなことをした?」


 槍を引き抜くと血が流れ出しガクリと膝をつく黒ローブ。俺の問いに息を切らせながら答えた。


「はあ、はあ……き、君は一体……ぼ、僕はこれでもレベルは高いんだけどね……」

「そんなことは知らん。さあ、答えてもらおうか」


 すると、ローブの端で口元を歪ませる。


「……全ては女神アウロラ様のため……。ふ、封印を解けばアウロラ様は復活してこの世界を……僕達を救ってくれる……」

「アウロラが? ……と、なるとお前はデヴァイン教か。どうしてヘルーガ教の格好をしてそんなことをした。それにアウロラは封印なんてされていないぞ? 俺はあいつに送り込まれたんだからな」

「ふ、ふふ……文献ではアウロラ様と魔王が破壊神を封じたことになっているけど、実は破壊神を封じるためにアウロラ様も封印されているのさ……って、アウロラ様に送り込まれただって? 君はどこから来たんだ!?」

「……それは今の問題じゃない。一体誰がお前にそんなことを言った?」


 嫌な予感がする。

 こいつの話が嘘でないなら、アウロラが封じられているなら……俺を送り込んだあいつは誰だ? 俺が心臓の鼓動を大きくさせながら考えていると黒ローブが口を開く。


「……聖女様だ……神託を受けて封印を解けと……だから、邪魔をするな!」

「うお!? 待て、俺は確かにアウロラに会った! 封印は本当にアウロラが封じられているのか?」

「君にもう話すことは無い! 僕達は世界を救うんだ!」


 くそ、俺の言ったことが逆に混乱させたか? 

 とは言ってもこういった宗教にドハマりしている奴等はなにを説明しても聞きはしない。それは俺自身が良く知っている。


 ――そして俺はこの時、恐ろしいことを閃いた。


「……まさかこの騒ぎ、封印を解くのに目を逸らせるためだけに起こした……!?」

「あはははは! その通りだよ! まあどっちかが死ぬかもしれないけど、大丈夫! アウロラ様が助けてくれるからさ!」


 俺の心がざわつく。俺の過去の傷を、抉られるかのようなその言葉に。



『大丈夫……神様が天国へ連れて行ってくれるからね……』



「勝手なことを言うなぁぁぁぁ!」

【ガウ!?(旦那!?)】

「な、なん……ごぶ……!?」


 刺す、斬る、叩く。

 ありとあらゆる角度から黒ローブを滅多打ちにする。こいつは、こいつらは許しておけない。

 自分の頭で考えず、言われたことをさも自分のことのように振る舞う。そして関係ない人を巻きこむのだから!


「う、うう……うぐ……」

「うおおおお!」

<カケル様! 封印のことを聞くためにも殺してはまずいかと!>

「ハッ!? はあ……はあ……はあ……ナ、ナルレアか……?」


 ナルレアの叫びで俺は我に返ると、俺はどれだけ攻撃していたのか……顔がパンパンに腫れ上がり、血だらけの黒ローブが横たわっていた。


「あ、ああ……そ、そうだな……ちょっとやりすぎたか……≪ハイヒール≫」


 ぱぁっと黒のローブを暖かい光が覆い、傷が治っていく。俺は気絶している黒ローブを抱き起し、フードを取る。


「これは……」


 顔立ちは幼い……少年だった。チェルより少し上かなというくらい。見れば顔に大きな火傷か? ……そういった跡が左の顔に首から目の下くらいまである。


「ハイヒールじゃ治らなかったな、これはどういう傷なんだ……?」

<……>


 俺がそう思っていると、黒ローブの男が目を覚ました。


「ハッ!? なんだ君は! ……フード……!? 顔を、見たな!?」


 俺の手から逃れ、慌ててフードを被り直しギリギリと歯を食いしばる。

 

「すまんが見せてもらった。とりあえず一緒に来てもらおう、封印とやらもなんとかしないといけないしな」

いいだろう……でももう遅いと思うけどね……」

「お前、名前は?」

「? 名前なんて奴隷に必要ないだろ?」

「いや、奴隷にするつもりはないが……名前がないと呼ぶのに『黒のローブの男』って呼ばないといけないのは長いから嫌だ」

「……僕は孤児だ。名前は無い……でも、聖女様から『クロウ』という名前をもらった……返事をするか分からないけどそう呼べばいいさ……」

「クロウ、ね……ちょうど下も終わったみたいだ。ほれ、武器を渡せ」


 俺が手を出すと、渋々チャクラムを渡してくれた。そのあとはファライディの背にふて腐れた様に座る。


「ファライディ、赤いドラゴンの所まで降下してくれないか」

【ガオウ(はいよ、旦那、元に戻って良かったですわ……)】

「なんでドラゴンに話しかけているんだよ……」


 そんなに怖かったのか……? クロウも強気な態度ではあるが、俺を見る目が若干引き気味だった。

 まあ、俺も逆上してしまった手前気まずい……だが、とりあえずこの騒ぎに一つの終止符を打つことができたようだ。


「カケルさん!」


 降下を始めてしばらくしたちょうどその時、ティリアがファライディの背に乗ってきた。

 さて、収束できればいいが――


◆ ◇ ◆


 ウェスティリアとカケルが合流したのを尻目に見ながら、クロウは胸中で呟く。


(……僕の顔を見た者は生かしておけない……でも、今の僕ではこいつらには勝てない……ケガが治ったなら逃げる機会はあるか……しかしこいつのあの怒り方は普通じゃないぞ? 恨みとか憎しみ、そんなものよりもっと黒いような――)


 先ほどのカケルの剣幕を思い出しながら、クロウは冷や汗が一滴、頬に伝うのだった。

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