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天文2年  

≪天文2年(1533年)-陸奥国安積郡郡山城(こおりやまじょう)-安積金石丸(満7歳)≫


お七が生まれて三年が経過。三年前から始めた金石丸の野生じみた鍛錬もよりハードなものとなった。それが今現在行われている。 


「ハッ・・ハッ・・ハッ・・ハッ・・」

「ハッ・・ハッ・・ハッ・・ハッ・・」


金石丸と大槻貞光は競うように岩壁を登っていた。その岩壁は推定10m以上。戦国時代で表せば33尺以上となる。当然この時代に命綱などは存在せず落ち方が悪ければ死ぬ可能性は大いにある。そんな岩壁を本来は止める役目の大槻貞光が競うように主人の息子と登っているのは完全に金石丸に毒されている証拠であろう。


「がんばれ!金石丸!」

「金石丸様!勝っちゃってください!」

「貞光様に負けんな!金石丸!」

「あわわ!?あわわ!?」


そんな岩壁を登る両者の下には4人の子供が存在した。彼らは金石丸が実戦経験を積みたいとして街に繰り出し子供から大人までの悪さをする者達と喧嘩三昧をしていた時に出会った者達。

中には喧嘩した者や金石丸が助けた者などが存在し彼らは自称:金石丸私兵団と名乗っている。


ちなみにその際に大槻貞光はいかにも武士の格好をしていては金石丸の邪魔となるために格好を百姓のそれとし離れて見守っていた。


「くっ!?うおおおお!?」


大槻貞光が先行していたが迫りくる金石丸に抜かれる危機感を覚え決死の覚悟で登る速さを限界以上に上げた。


「なっ!?くそっ!?」


それを見て金石丸も速度を上げるが時すでに遅し。先に岩壁の上に登ったのは大槻貞光だった。


「ハッハッハ!まだまだ負けるわけにはいきませんな!金石丸様!」

「くっ!?次は負けんぞ!貞光!」


そして2人は岩壁から下りる。すると金石丸を囲むようにして子供たちが集まってくる。


「惜しかったな!金石丸!」


金石丸の背中を叩き励ますのは赤澤一朗太(満12歳)。友達を庇い大人から暴力を振るわれていたところを金石丸に救われ金石丸を慕うように。ちなみに金石丸私兵団の設立者。


「あとちょっとで勝てましたよ!金石丸様!」


金石丸を様と呼び敬称で呼んでいるのは松野鶴千代(満6歳)。人攫いに遭ってしまい他国に運ばれる手前で金石丸が救う。複数の大人が刀を持って襲い掛かっているのに対して木刀で圧倒する姿に崇拝の念を抱いた。


「応援してやったのになに負けてんだよ!金石丸!」


金石丸に怒鳴っているのは原久丸(満7歳)。大人に喧嘩で勝っている金石丸を見て勝負を仕掛けるも返り討ちに。それ以降見かければ勝負を仕掛けるようになり気が付けば金石丸私兵団の一員になっていた。自称:金石丸の好敵手(ライバル)


「大丈夫ですか?金石丸様も貞光様も怪我はないですか?」


金石丸と貞光2人を心配しているのは青川みや(満7歳)。4人の中で唯一の女の子で鶴千代同様に金石丸から助け出された。心配性で危ない事をする金石丸をその都度心配している。


ちなみに彼ら自称:金石丸私兵団は暇な時は金石丸と同じ鍛錬を積んでいるためにそこらの子供とは身体能力が違う。


その後はいつも通り金石丸たちは剣術や槍術などで仕合い夕暮れになってきたために解散となった。


「(しかしすごい子達だ・・・金石丸さまの異常な鍛錬についてくるとは。力が弱い鶴千代や女の子のみやまで最後まで諦めず喰らいついて行く・・・異常な者の周囲には異常な者が集まるのか・・・)」

/////

この日、金石丸は父親:安積祐重と共に伊達家嫡男伊達次郎の足利義晴公からの偏諱をお祝いするために伊達郡柔折西山城に赴く。


「では行ってくる」

「はい。行ってらっしゃいませ祐重様。金石丸も粗相のないようにね?」

「はい。行ってきます母上・・・お七・・・お七!」


満年齢四歳となったお七も母親菊乃と共にお見送りに来ていた。そしてシスコン金石丸はお七と長時間離れることが悲しく涙を流していた。


「まったく・・・お前のお七への溺愛ぶりには困ったものだな・・・」

「これではお七が嫁に行くときどうなってしまうのか」


安積祐重・菊乃夫婦が息子のお七溺愛ぶりに呆れていた。しかしお七は表では気付いていないように返事を返す。


「行ってらっしゃい!お兄ちゃん!」

「お七が可愛い!!」


お七が笑顔でそう言えば再び金石丸がお七を抱きしめた。


「痛いよお兄ちゃん(まさかこの時代にシスコンを味わうとは・・・いつの時代でもいるものなのね・・・)」


その後、安積祐重に引っ張られるようにして一行は伊達郡まで向かう。


「(伊達稙宗の嫡男伊達次郎が足利義晴から偏諱を受けるのが天文2年の1533年。天文12年1543年に安積氏は隣の田村郡を領する田村隆顕(たかあき)に安積郡を攻略され追い出される・・・それまでに力を蓄えないと・・・そろそろ動くべきね・・・)」


この時より歴史オタク転生者・安積お七が史実の歯車を本格的に狂わせる。

/////

≪天文2年(1533年)-陸奥国伊達郡柔折西山城-≫


「次郎様におかれましては今日(こんにち)の公方様からの偏諱、おめでとうございまする」

「うむ。祝い感謝する」


2人は安積郡を飛び出し数日をかけて伊達郡の柔折西山城になってきた。これにより伊達次郎は伊達晴宗となった。


ちなみに金石丸は父親の後ろで大人しく跪いている。


伊達晴宗はそんな安積祐重の後ろで跪いている金石丸が気になった。


「紀伊守の後ろにいるのはお主の嫡男か?」

「その通りでございます。我が嫡男の安積金石丸でございます。金石丸、ご挨拶なさい」


そう促された金石丸は今回に際して緊急で行われた礼儀作法の鍛錬の成果を発揮する。


「左京大夫様、次郎様。初めて御意を得まする。安積祐重が嫡男安積金石丸でございます」


礼儀作法の鍛錬のおかげもあり金石丸は粗相をすることもなくそれに安堵する安積祐重。


「お主、歳は?」

「7歳でございます」

「ほう?7歳にしては身長も高く体格も良いでは無いか。普段どのような鍛錬をしておるのだ?」


金石丸はその年齢にしては背が高く普段より鍛えている故に同世代の子供よりも体格が良くなっていた。


伊達晴宗にそう尋ねられた金石丸は父親の方をチラリと見る。自身の鍛錬が他人から見たら異常である事は気づいている金石丸。それを話していいのか確認しかったのだ。すると、祐重は頷きで返したことで金石丸は自身の鍛錬を話した。


「・・・岩壁を登っております・・・」

「いわ・・・なんと言った?」


あまりにも予想外な返答に伊達稙宗・晴宗親子は驚愕し晴宗が聞き返した。


「岩壁を登り山を倒れるまで往復し今度は持てる限界の石を持って再び山を倒れるまで往復いたします。その後は剣術槍術の鍛錬のために仲間と仕合ます」

「・・・紀伊守・・・お主の嫡男の言っている事は事実であるか?・・・」


たまらず伊達稙宗が安積祐重に事実を問いただした。


「は!嘘偽りなく事実でございます!」


その時の祐重は伊達親子を驚愕させたことに気分を良くしバレないように笑みを浮かべていた。


「そうか・・・それはすごいな・・・」


事実と分かり金石丸に圧倒される晴宗。しかしそれと反して笑っているのが伊達家当主伊達稙宗。


「ハッハッハ!面白い嫡男を得たものだな!紀伊守!儂も心強く思う!今後も()()()()()()に頼んだぞ!」

「ハハ!今後も伊達家のため邁進いたしまする!」


そうして伊達晴宗への祝いのための謁見は終わり帰宅途中。


「伊達家のためか・・・なんとか出し抜けんものか・・・」


安積祐重に伊達家への忠誠心はなかった。彼にはどうにかして伊達家を出し抜き戦国大名になろうとする野心があった。伊達家に付き従っているのは逆らったところでどうにもならないと理解しているため。

しかしそんな野心家の祐重に未来の知識を持つ転生者お七が真実を話すとき伊達家に不穏な風が吹き荒れる。

/////

≪天文2年(1533年)-陸奥国安積郡郡山城(こおりやまじょう)-


それは夜のこと。祐重と金石丸が帰宅後に祐重が部屋で1人で仕事をしているとそこにお七が入ってきた。


「お父様。少しよろしいでしょうか?」

「お七?どうした?眠れぬのか?」


夜は真っ暗となり大半が眠る戦国時代。それは子供なら尚のこと。故に祐重はお七が部屋に入ってきたことに驚いていた。


「・・・赤子の頃よりお父様が語る夢を耳にしておりました・・・」

「お七?」


その普段のお七とは大違いの雰囲気に困惑する祐重。


「戦国大名の・・・さらに()()()()()()を見たくはありませんか?・・・」

「・・・お主・・・何者だ・・・お七ではないのか?・・・」


祐重の困惑は増すばかり。だが、なんとか祐重はお七を問いただす。


「私には未来の知識がございます。これを活用すればお父様の夢を叶えて差し上げることが出来るかと考えております」

「未来の知識だと・・・それは占術の類か・・・」

「似て非なるものではございますがそう思っていただいても問題ありません」

「・・・・・」


悩みだす祐重。その表情は娘を見る目ではなく騙されんがために相手を見極める安積家当主の眼になっていた。


「・・・お主は占術とは似て非なるものと言った・・・未来の知識があると言った・・・では未来の知識があるのであればどのような事でも分かるという事か・・・」


そう聞かれてお七は焦っていた。お七はどんなことでも分かるわけではないしこの世界は既にお七が生まれたことで歴史改変が行われている。その最たる例が金石丸であろう。金石丸があそこまでの異常なまでの鍛錬をしているのは(ひとえ)に妹のお七が誕生したが故に超ド級シスコンに成り上がったため。

つまりお七が生まれなければ起こらなかった事象という事である。


それは今後も起こりえるだろう。天下統一を狙うのならそれは必定ともいえる。故にお七は未来の知識を絶対とは認識していない。


お七は元は女子大生でありポーカーフェイスなどは出来るわけもなく相手は戦国の乱世を生き直感が鋭い安積祐重。お七の表情から内心を読み取ることなど祐重からしたら児戯に等しかった。


「ふ・・・その焦りよう・・・どうやらそこまで便利なものではないらしい・・・いいだろう。話を聞かせよ()()・・・」


こうしてお七の安積家強化計画は開始されることとなった。

・【赤澤一朗太】:友達思いで金石丸私兵団の設立者。1522年生誕。

・【松野鶴千代】:金石丸を崇拝している。金石丸私兵団の一員。1528年生誕。

・【原久丸】:負けん気が強く金石丸にも負けたくない。金石丸私兵団の一員。1527年生誕。

・【青川みや】:心配性な女の子。1527年生誕。

・【伊達稙宗】:通称は左京太夫。伊達家当主。1488年生誕。

・【伊達晴宗】:通称は次郎。伊達家嫡男。1519年生誕。


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