戦の時
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≪天文5年(1536年)-陸奥国安積郡-≫
黒影飛門が危険な任務を成し遂げ伊達晴宗が父親の稙宗へ自身の暗殺疑惑を確定させた時から一年以上が経過して天文五年に入ったばかりの冬。
「はあ!」
「へっ!おせえよ!」
今現在行われているのは安積金石丸(満十歳)と滝川久助(満十二歳)の馬に乗っての槍での仕合。金石丸は安積家の嫡男として当然だが剣術以外にも槍も弓も馬も鍛錬をしている。もちろんそれらすべてを教わっているのは金石丸の傅役である大槻貞光である。そしてその中でも金石丸は剣と同じぐらいに槍を扱える。
しかしそんな金石丸と同等に戦えている久助は槍に関しては金石丸には及ばないものの馬の扱いに長けており馬を巧みに扱い金石丸を翻弄している。
「逃げてばかりだと俺に勝てないぞ!」
「分かってんだよ!そんなことはよ!おらあ!」
久助が勝負を決するために金石丸の元へ駆け出す。そして金石丸もまた久助に向かって駆ける。勝負はすれ違いざまの槍の一突きで決した。
「「ぐっ!?」」
結局二人の槍は二人に当たり両者共に馬から落ちこの仕合は引き分けとなった。
「金石丸様!?大丈夫ですか!?」
「久助!次は俺だ!俺と戦え!」
「まずは二人の心配をしようよ久丸君」
「だ!?大丈夫!?二人とも!?」
その場には金石丸・久助のほかに有光(幼名:佐吉)や原久丸・松野鶴千代・青山みやなど金石丸私兵団もそこにいた。
「まあ待て久丸。久助は仕合ったばかりなんだ、休憩させてやれ。その代わりに私が相手になろう」
「へっ!それは久助よりもありがたいぜ!」
そうして久丸は貞光に挑む。
「おらあ!おらよ!だらあ!」
「相変わらず力は桁違いか」
久丸の力の強さを褒める貞光。しかしその剛槍を貞光は技で持って受け流す。
原久丸は金石丸と幼少期から共に鍛錬をし続けた結果、力だけで言えば金石丸を超え大人でも敵わない者もいるほどに力が優れるようになった。しかし貞光もまた金石丸などの子供たちに負けないために厳しい鍛錬を継続し行う事で強さが増している。そうそう簡単に貞光が負ける事は無かった。
そんな鍛錬の日々を費やしていた金石丸。とうとう初陣が近づいてきた。
/////
ある日の事。貞光は一人で祐重に呼ばれていた。
「お呼びでしょうか?紀伊守様?」
「うむ・・・時に聞くが金石丸はどうだ?」
そう抽象的に聞かれた貞光であるが当主が何を聞きたいかが分からなかった。
「どう、とは?なにをお聞きしたいのでしょうか?」
「あやつの強さじゃ。金石丸の強さは子供らしからぬというのは聞いておるし何度か見て理解しておる。じゃが金石丸の傅役であるお主の私見を聞きたい」
「はっ!・・・そうですな・・・強さは武士と変わらぬどころか安積家でも金石丸様に敵う者は私や勘助殿以外にいないでしょう・・・」
金石丸は既に何度か貞光に勝利している。貞光の強さは安積家でも随一であるゆえに金石丸はそこらの大人の武士とは一線を画す強さを持っている証拠でもある。
「なるほど・・・それほどか・・・では戦場に出しても問題はないな?」
「!・・・そうですな。強さならば通用するでしょう・・・しかし年齢は今だ十。心が戦場に耐えれるかはわかりません・・・」
「心か・・・あやつが戦場に出て弱音を吐く姿は想像できんが・・・」
「ですな・・・私もそう思いますが・・・こればかりはやってみないことには確証は得られません故・・・」
「そうか・・・では少々早いが初陣を経験させてみるか・・・」
「それは・・・祐重様・・・」
貞光は知らない。祐重が伊達親子に黒蛇衆を使い不和を仕掛けていることを。しかし貞光は主君がなにかをしていることは感づいていたが祐重を信頼しなにも問う事をしなかった。
「うむ・・・伊達稙宗・伊達晴宗の衝突は必至・・・近日中にもそうなるだろう・・・その時を境に我々安積家は伊達家から独立し新たな兵器で持って田村郡・楢葉郡を攻める!貞光は戦の準備をせよ!」
「はは!かしこまりました!」
/////
その後に貞光はいつでも戦が出来るように各所に確認や指示を出していた。そんな中で今度は金石丸も祐重に呼び出されていた。要件はもちろん金石丸の初陣についてである。
「・・・俺が・・・初陣・・・」
初陣を言い渡された金石丸。その手は固く握られ静かに興奮していた。しかしその場に小姓として金石丸と共にいる有光は焦った様子で待ったをかけた。
「お待ちください!金石丸様はいまだ十を迎えたばかりでございます!早すぎるのではないでしょうか!」
有光がそう祐重に諫言した。するとそれに反対したのは久助だった。
「何を言っている。金石丸様の実力の高さは有光がよく知っていることのはず。何を恐れることがある」
「だが、通常は!「金石丸様を普通の人間と同列視する方が間違っている」・・・それは・・・」
有光も金石丸の強さは理解している。しかしまだ満十歳という子供である。この時代の常識に考えてそれがいささか早すぎるのも事実であった。
「・・・二人はこう言っているが金石丸自身はどう思っているのだ?・・・」
祐重は当事者である金石丸に決めさせることとした。
「・・・私の気持ちは一つ・・・お七の笑顔を守る・・・それのみです・・・失礼いたします・・・」
そう言って下がる金石丸。
「え?・・・ちょ!?金石丸様!?」
「どうしてここでお七が出てくんだよ?」
金石丸と共に祐重のもとから立ち去る有光・久助。その金石丸のまさかの返答に祐重も唖然とする。
「・・・ふふ・・・はっはっはっは!さすがは金石丸よ!・・・忘れておったわ・・・あやつがお七を溺愛しておることを・・・」
今では金石丸の望みとなっている天下統一も最初に望んだのはお七だった。金石丸はそんなお七の笑顔を見るためにも奮起する。
/////
その日の夜に久しぶりのお七と祐重の秘密の話し合いがもたらされた。
「・・・そうですか・・・戦争が・・・」
祐重はお七に近々戦争を仕掛けると告げた。するとお七は少し暗い表情となる。
「どうした?これがお七の望んだことであろう?大砲や火縄銃などの兵器も強力なものが出来上がり戦争にも有利に戦えるであろう。おそらく負けることはあるまい?」
「・・・私の言葉によって多くの人が死ぬんですね・・・」
お七はあくまでも平和な未来に生きてきた人間である。無論のこと自分の言葉によって誰かが死ぬという体験などしたことが無くそれは恐ろしい事として生きてきた。その感情が今になって現れた。
「・・・大名を目指し・・・その先を目指すという事は人を殺すということである・・・お七の目指す頂きは大量殺戮の果てにある・・・その業を背負えぬというのであれば他の女子と同じく戦や政治に口を出さず生活するがよい・・・どうするかは戦のあとに聞かせよ・・・下がれ・・・」
「・・・かしこまりました・・・」
お七は祐重の言葉を受けて下がる。それを見送る祐重。
「・・・お七は七つか・・・欲をかき・・・多くを背負わせすぎたかもしれんな・・・」
そう去って行ったお七の先を見て申し訳なさそうな表情となった祐重。
/////
それから数日が経過して黒蛇衆の飛門が姿を現した。
「伊達晴宗謀反!居城である柔折西山城を占有いたしました!」
その言葉を聞いて祐重は立ち上がる。
「稙宗は!」
「晴宗の殺害計画に気付いた稙宗が信頼する家臣のもと伊達郡から信夫郡にある梁川城に逃げ延びました!」
「よし!今こそ好機!貞光に即刻戦準備をさせ準備が整い次第進軍する!」
「はは!」
こうして事前に準備していた安積家は要請に時間のかかる農民兵を連れず僅か約180人ほどで1.2時間後には戦を仕掛ける。まずは田村郡を支配する田村氏から。
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