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第15話 痛恨の一撃

 風間が何故ここに?


 突然の遭遇に驚いていると、月姫がササっと動いて俺の横に立った。さっきよりも距離が近いのは気のせいじゃないだろう。


「あっ、風間さんだ」

「こんにちは、宵闇さん」


 両者は笑顔で挨拶するが、妙な緊張感があった。


 二人の関係は顔見知り程度のはずだ。学校での会話はないし、同じクラスになった経験もない。喋った回数も数えるほどだろう。


「えっと、二人はデート?」

「そうだよ」


 俺の代わりに月姫が答える。


「あれ、恋人じゃないんだよね?」

「恋人じゃなくてもデートは出来るよ」

「確かにそうだね。実際、神原君は昨日もデートしてたみたいだし。聞いたよ、大変だったんでしょ?」

 

 どうして風間が知ってるんだ。


 風間は昨日の出来事を知らないはずだ。学校ではダブルデートの件は言っていない。どこから情報が漏れた。それとも、実は目撃していたのか。


 いや、違うだろうな。口ぶりからして誰かから聞いたっぽい。それにもし、実際に目撃していたなら接触してきたはずだ。風間は去年のクラスメイトである不知火と土屋は友達関係にあるからな。挨拶くらいはするだろう。


 恐らくは解散した後、どっちかと接触して聞いたんだろう。


「ああ、大変だったな」


 知られているのなら仕方ない。不知火と土屋のどっちから聞いたのかは気になるが、それを聞いたところで後の祭りだ。


 昨日は大変だったが、半分は自業自得だからしょうがない。球技大会で優勝したのは俺のミスだ。もっとも、あのダブルデートが修羅場のような雰囲気になってしまったのは謎だけど。


「ところで、風間は一人なのか?」

「ううん、学校の友達と一緒だよ。向こうでプリクラ撮ってる。私はどうしても欲しいぬいぐるみがあったから抜けてきたんだ」

 

 風間の手にはクレーンゲームで取ったであろうぬいぐるみがあった。可愛らしいクマのぬいぐるみだ。


 ……良かった、風間は違うのか。


 一瞬、昨日の出来事がちらついた。月姫と氷川に詰め寄られた時の絶望再びと思って構えてしまったが、よく考えたら風間に詰められる理由がなかった。ここでの出会いは本当に偶然らしい。


「あっ、そうだ。本当は月曜日でも良かったけど、ちょうどいいや」

「……?」

「神原君に伝えたいことがあったんだ」

「改まってどうした」


 風間は小さく息を吐いた。


「私ね、神原君のことが好きなの」

「っ」

 

 突然投げかけられた言葉に俺と月姫が硬直した。


 えっ、告白?


 想定外すぎる言葉に動揺してしまったが、直後に思い出す。そう、これは例の件だろう。


「ちょっとこっちに来てくれ!」

「きゃっ、もう強引だよ!」


 俺は風間の腕を引っ張ってその場を離れる。


 この風間は隣の席の男子を惚れさせるという中々に性格の悪い遊びをしていた。実際には遊びというか、過去のトラウマが原因だったわけだが。


 俺はその遊びを見抜いた。しかしこれが風間のプライドを刺激したらしく未だに俺をからかってくる。仕返しが目的らしい。


「勘弁してくれ。あの時の仕返しだとしても月姫は関係ないだろ」

 

 今日は一応デートだ。最初はただの荷物持ちだと思って引き受けたが、間違いなくデートなのだ。デート中に他の女が現れ、告白するとか月姫に対する挑発でしかない。


「……勘違いしてるよ。最初は確かに遊びだったけど、途中から本気になったんだ。今は普通に神原君が好きだよ。もちろん異性としてね」

「えっ、マジで?」

「大マジ。でね、神原君って直接伝えないとダメなタイプだと思ったんだ。匂わせる感じだと伝わらない気がして。ほら、自分に自信なさげだし」


 よく見抜いているな。


 勘違いだったとはいえ、一度は恋愛を諦めた俺はどうにも自分に自信が持てなかった。


 実のところ月姫からの好意は感じている。手作りの弁当を渡してくれたし、一緒に登下校をしていたりもする。今日のデートだって多分そういう意味だろう。

 薄っすらと好意を感じてはいるのだが、俺みたいなフツメンは相手にされないんじゃないかと心のどこかで思っていたりもする。


「大体、宵闇さんは関係あるよ」

「えっ?」

「ライバルだからね。まっ、本人が直接言わないなら私から言う必要はないけど」


 風間は挑戦的な笑みを浮かべた。


「それで、神原君はこの告白を受けてどう思ったのかな」


 風間と恋人になる?


 頭の中でシミュレーションを始めた時、数人の顔が浮かぶ。そこに立つ月姫と、推しのVtuberと、ネトゲの嫁の姿だ。


「今、誰かのこと考えたでしょ?」

「っ」

「好きな人いたんだね」

「えっと、それは――」

「しかも相手は宵闇さんじゃない。そうでしょ?」


 正確には月姫も入っているのだが。


「変だと思ってたんだ。普通ならサクッと宵闇さんと付き合って即終了なのにそうはなってない。つまり、別に意中の人がいるんだよ。宵闇さんよりも上ってどんな顔した美少女なのか気にならないと言えば嘘になるよね」


 言えない。


 意中の人が顔を隠しているVtuberと、顔も見たことがないネトゲの嫁だとは口が裂けても言えない。さすがにドン引きされるのがわかる。


「まっ、別に相手が誰なのか聞くつもりはないけど」

「えっ?」

「聞いても知らない人かもしれないしね。重要なのは、その意識の中に私がいないってことだから。この告白は神原君に意識してもらうためだよ」


 風間は持っていたクマのぬいぐるみを俺に渡してきた。意味はわからなかったけど流れで受け取った。


「あっ、告白の答えはまだいいから。今聞いたら確実にフラれちゃうし」


 正直、そう言ってくれて助かった。


 頭の整理ができなかった。


 攻略する側の俺が告白を受けた。しかも相手は最初に着手しながらも、どう進展させればいいのかわからず停滞していた相手。おまけに別の攻略対象とのデート中に。これで冷静さを保てる奴がいたら怖い。


「私が神原君を好きになったって思ってくれればいいから」

「……」

「あれ、無反応は予想外だな。もしかして、私の性格を気にしてるとか?」

「えっ」


 性格については全然気にしていなかった。


 困惑する俺の答えを肯定と受け取ったのか、風間は頬を膨らませた。


「私は確かに隣の男子をからかう悪い女だよ。自分でいうのもアレだけど性格は悪い。そこは仕方ないけど認める。でもさ、神原君だって人のこと言えないよ。性格的には合ってると思うんだ。むしろ性格が悪い者同士で相性ぴったりのはずだけど」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。だってさ――」


 そして、風間は告げる。


「神原君は自分の秘密を守るために学園の姫を攻略してたんだから」


 心臓が高鳴った。放たれたその言葉は会心の一撃のように効いた。いや、攻撃を受けたこの場合は痛恨一撃になるのか。


 どうして知ってるんだ?


 適当に言っているわけじゃないのは顔を見ればわかる。風間は姫攻略が事実である確信していた。すべてを知っているぞと言わんばかりの表情をしていた。


 犯人は――


 考えるまでもない。俺以外に姫攻略の事実を知っている人間は一人しかいない。


「いくら身を守るためだからって酷い男。本気になった子もいるみたいだし、罪作りだよ。もし、複数人を口説けちゃったらどうなるか考えたことあるの?」

「……」

「修羅場確定だから。言っとくけど、ハーレムアニメみたいに丸くは収まらないからね。絶対修羅場になる。女の独占欲舐めすぎ」


 最低な行為なのはわかっていたつもりだ。


 だが、改めて言われると結構堪えるな。


「安心してよ。この事は誰にも言ってないし、今後も言わないから」

「っ、何故だっ?」

「神原君は私の秘密を知ったのに脅さなかったから。だから、私もこれで脅すのはフェアじゃないと思ったんだ。あっ、ちなみに神原君の秘密の内容は知らないよ。聞いても教えてくれなかったしね。私と同じで口は悪いけど、意外と愛されてるね」


 姫攻略について漏らした犯人が確定した。いやまあ、最初から確定しているんだけどさ。


 あいつ、どういうつもりだよ。


 しかしまずいな。遂に知られてしまった。脅さないと言っているが、知られているだけで大問題だ。


「――顔が青いよ。大丈夫?」


 硬直が解けたのか、月姫がこっちに来た。


 俺の背中をさすりながら、月姫は風間を睨みつけた。


「ゆう君に何を言ったの?」

「さあ、後で聞いてみれば」

「……」

「じゃあ、告白の返事は文化祭の日に聞かせてね。その後だと結果がどうあっても期末テストに響きそうだしね。それまでに神原君を落とせるようにアピールするから。だから、頭の中に私も入れておいてね」


 風間は振り返ると、友達のいる方角に向かって歩き出した。


「あっ、そうそう。宵闇さん」

「……なに?」

「私は負けるつもりないから」


 振り返りもせずにそう言って、風間は去っていく。


 後ろ姿でもわかるくらいご機嫌な様子だった。今にも踊りだしそうなその足取りは、まるで童話に出てくる妖精のダンスのように軽やかだ。


 隣を見ると、月姫は見たことない顔をしていた。何の感情が入り混じっているのかは知らないが、痛恨の一撃を受けたみたいな顔だ。

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