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【書籍化】学園の姫攻略始めたら修羅場になってた件  作者: かわいさん
第2章

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第14話 聖女とデート

 先ほどから妙にそわそわするのは緊張のせいだろう。


 日曜日の朝。俺はある家の前に立っていた。


 その家とは幼馴染である宵闇月姫の家だ。我が家とは徒歩数分の位置にある。

 

 今日は記念すべき人生初デートの日である。いや、正確には人生二度目かな。しかし昨日のあれがデートと呼べるのか不明なので、今回が記録的には初だろうか。


 初デート云々に関してはどっちでもいいが、まさか俺が二日連続で女子と出かける日が来るとはな。恋愛を諦めて引きこもっていた頃が懐かしい。


 さて、今日の俺はちょっとだけ気合いを入れている。ワックスで髪を整えたりもした。服だってお気に入りのものだ。


 きちっとしている理由は家を出る前に母から注意されたからだ。母は今日のデートを知っていた。数日前、月姫とばったり会った時に聞いたらしい。俺が適当な格好で出ていくのを許さず、現在のような姿となった。世間体というか、後で月姫の母からあれこれ言われないためだろうな。


「……どうでもいいけど、昨日みたいのは勘弁してくれよ」


 カラオケボックスでの悲劇を思い出す。


 月姫が余計な一言を放った後は地獄みたいな空気になった。何故か不知火と花音に事情説明を要求され、強引な取り調べにあった。数少ない男の知り合いである俺の動向が気になったのだろう。


 デートの場所を言え?


 残念ながらこっちも知らないんだ。月姫が当日まで秘密と教えてくれなかったのでいくら問い詰められても答えられなかった。

 

 最悪なのは氷川と土屋が親の仇がごとく俺を睨みつけやがったことだ。


 シスコンの氷川は妹が感情的になっていたのが許せなかったらしく、土屋としては恋心を寄せる不知火の態度が不満だったようだ。両者共に言い分はわかるが、そこで俺を睨むのは止めてほしい。

 

 月姫だけが涼しい顔をするという修羅場が展開されたのだが――


 今はいい。思い出したくない。

 

 それよりも謎だったのは彩音だ。


 逃走したあいつは俺が帰宅した後で戻ってきた。どこで何をしていたのか、山田とはどうなったのかを一切話さない。何を聞いても「うるさい」とあしらわれた。まったく、誰のせいで苦労する羽目になったと思ってやがる。


「お待たせ、ゆう君」


 しばし待っていると、玄関が開いて月姫が出てきた。

 

 その姿に見惚れた。


 光沢のある長い黒髪はお団子ヘアになっていた。初めて見る髪型なので新鮮だった。服装はかなり大きめなシャツにショートパンツという組み合わせだ。シャツの裾から、ちらりと覗くショートパンツの組み合わせが可愛い。


「ど、どうかな?」

「似合ってるぞ」


 ファッションについて詳しくないので何といえばいいかわからなかった。ただ、似合っているのは本当なのでストレートに言った。


「えへへ、ありがと」


 照れてる顔も可愛いじゃねえか。


「待ち合わせでも良かったけど、こうして迎え来るのも中々いいでしょ」

「……別に構わないけど、理由を聞いてもいいか?」

「昔を思い出すからだよ」


 そういえば、昔はよく月姫の家に来ていたな。あの頃は男女とか恋愛とか関係なく暇だからという理由で気軽に来ていたものだ。


 思い出していると、月姫が咳をした。


「大丈夫か?」

「何でもないよ。全然大丈夫だから」


 顔が若干赤い気もしたが、多分気のせいだろう。


「じゃあ、行こっか。プランは私に任せて」

「買い物じゃないのか?」

「その前に映画見ようよ。折角のデートなんだしさ」


 拒否する理由はない。


 それから俺たちは昔話に花を咲かせつつ、最寄りのバス停からバスに乗って移動した。



「本当にファミレスで良かったの?」


 映画を見終え、最寄りのファミレスに移動した。


「ハンバーグが食べたかったんだ」

「ゆう君は昔から好きだったよね」


 約束通り奢ってくれるというので素直に応じたが、高い店を所望するほど極悪非道な奴ではない。ちなみに月姫はパスタを注文した。


「いい映画だったよね」

「面白かったな。評判通りだ」


 ファミレスの料理を堪能しつつ、映画の感想を語った。


 俺たちが見たのは話題のアニメ映画だ。興行収入ランキングで歴代上位に輝いた作品で、連日ニュースを賑わせているだけあって非常に満足感があった。


 ……デートって言葉のせいで構えたけど、全然大丈夫だな。


 これは恐らく慣れだろう。一度は疎遠になったが、やはり幼馴染だけあって特別な意識は薄かった。これがもし他の女子だったらまだ緊張していたかもしれない。


「どうしても聞きたかったことがあるんだが、いいか?」


 会話をしながら、俺はどうしても聞きたかったことを思い出した。


「いいよ」

「今さらだけど、急に話しかけてきた理由が知りたい。ほら、俺と月姫には何となく気まずい距離があっただろ」


 ずっと気になったのだが、例の噂が流れたり、中間テストとか球技大会があったりしたので聞けなかった。


 あの日、何年も喋っていなかった月姫が家の前に立っていた。


 どう考えても不自然だ。そこから噂を流し、手作りの弁当まで作ってきた。急に距離を近づけてきた理由がまだよくわかっていない。


「やっぱり気になるよね」

「まあな」

「勘違いがなくなったからだよ」

「勘違い?」


 月姫は問いに答えなかった。


「話したいところなんだけど、私も気になってることがあるんだ」

「何だ?」

「ゆう君には好きな芸能人とかアイドルっているのかな」


 何だ、その質問は。


 意図がまるで読めない。


「特にいないな。最近はテレビ見てないから芸能人とかわからんし」

「そっか……じゃあ、好きな配信者は?」


 好きな配信者か。

 

 これに関しては即答できる。俺の推しはVtuberの”不死鳥フェニ”だ。天性の甘い声と可愛らしさは他のVtuberと一線を画す。


 ただ、人には言いにくい。彼女は女受けが悪い。


 不知火に言ったのはあいつがVtuber好きとわかったからだ。


 それに、万が一にでも長文投げ銭を知られたくない。あれを知られたらさすがの月姫も気持ち悪いと言ってしまうだろう。まとめサイトにいくつも掲載された長文投げ銭の画像は投げた俺でもドン引きしてしまうものが多い。


「その反応からしているよね、推しが」


 鋭いな。さすがは幼馴染だ。


「いる。Vtuberだ」

「名前が知りたいな」

「不死鳥フェニって名前のVtuberだ」

 

 答えた瞬間、月姫はスマホを取り出して検索をはじめた。


「なるほど……推しがいたんだね」


 そうつぶやいた月姫は納得の表情だった。


「教えてくれてありがと。今度チェックしてみるね」

「お、おう」


 チェックするのはいいけど、軽くにしてくれよ。俺のアカウント名である”ヴァルハラ”に気付かれたら終わりだ。


「次の質問。アニメとかゲームで好きになったキャラは?」

「アニメは昔から好きだけど、キャラは特にいないかな。ゲームはユートピアオンラインってのにハマってるぞ」

「そのゲームに好きなキャラがいるの?」

「というか、ゲーム内で結婚してる」

「……は?」


 月姫はパスタを巻く手を止めた。


 あれ、変なこと言ったか?


 自分の発言を振り返ってみるが、別に大丈夫だ。これに関しては問題ないはず。仮に根掘り葉掘り聞かれても長文投げ銭みたいな黒歴史はない。結婚といってもゲームの中の話だし。


「……相手は誰?」

「ノンノンって名前のエルフだ」

「中身は女の子?」

「えっと、一応」


 実際に出会っていないのであくまで自己申告だ。


 ただ、難攻不落だった花音とあっさり仲良くできた手腕からして間違いなく中身は女だろう。あの口説く文句が出る男は中々いないはずだ。


「もしかして、オフ会とかしちゃったり?」

「してない」

「会う予定は?」

「ないかな」


 俺が答えると、月姫は安心したように息を吐いた。


「会わないほうがいいよ。素性のわからない人は怖いからね。絶対に会ったらダメだよ。ゆう君はただでさえ隙が多いんだから」


 最初からオフで会う予定はないけどな。


 しかしまあ、月姫の言うようにオフ会でトラブルは結構起こりうる。ノンノンに限ってないだろうけど、相当な事情がない限りオフで会ったりはしない。


「……推しと嫁か。まずはそれを頭から追い出さないと」


 推しと嫁を追い出すって何だよ。


「で、俺の質問には答えてくれないのか。勘違いってのは?」

「ゆう君の頭から泥棒猫が出ていったら答えるよ」

「頭に泥棒猫?」

「こっちの話。気にしないで」


 イマイチ要領を得なかったが、月姫は満足したらしい。昔から女の気持ちがわからない俺だが、何年経ってもマジでわからないものだな。


 その後、食事を終えた俺たちはファミレスから出た。


 続いて向かったのはゲームセンターだ。昨日のダブルデートでゲームセンターに行ったのを聞いた月姫が自分も行きたいと言い出したからだ。


「あれっ、風間?」

「えっ、神原君?」


 ゲームセンターに入ってすぐのところにあるクレーンゲームをプレイしていたのは、隣の席の風間幸奈だった。

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